解説者のプロフィール

工藤孝文(くどう・たかふみ)
工藤内科漢方医。福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。帰国後、大学病院や地域の基幹病院を経て、福岡県みやま市の工藤内科にて、糖尿病内科・ダイエット外来、漢方治療を専門に地域診療を行っている。『高血糖の9割は早歩きだけで治る!』(宝島社)、『やせグセがつく最強のみそ汁』(マキノ出版)など、著書・監修書多数。テレビなどのメディアにも、数多く出演している。
▼工藤内科(公式サイト)
体に負担をかけず筋肉量がアップする
血糖値が高い人の中には、「食事制限や運動がつらい」と嘆く方がいます。仕事や家事で疲れているのに、好物を我慢したり、ランニングをしたりするのは、確かにつらいでしょう。
血糖コントロールは長期戦です。この長い戦いを続けるためには、過度な我慢や無理は必要ないと私は考えています。
そのため、私のクリニックでは、血糖値の高い患者さんに、ある提案をしています。
それは、まず症状を安定させてから、我慢せずにある程度食べ、食べた分のエネルギーを無理せず消費するという生活です。
その手法の一つとしてお勧めしているのが、今回ご紹介する「3分早歩き」です。
3分早歩きとはあ、3分の普通歩きと、3分の早歩きを交互にくり返すウォーキング法。信州大学の能勢博教授が研究されている、「インターバル速歩」をアレンジしたものです。
この運動の特長は、体に負担をかけずに筋肉の量を増やせること。運動をしたときに、体内で最もエネルギーを消費するのは、筋肉です。筋肉の量が多ければ多いほど、糖の代謝がよくなり、血糖値が下がりやすい体になります。
そのため、通常の血糖コントロールでは、しばしば筋トレやランニングなどの運動が勧められます。しかしこれらは、高齢者や足腰にトラブルがある人にとって難しいもの。長時間歩くウォーキングも、近年の研究では、さほど筋力アップにつながらないといわれています。
一方、3分早歩きは、息が切れて「少しつらい」と感じる、ちょうどよいストレスが体にかかる程度。
筋肉は、ややきつい運動で傷つき、その傷を修復する際、次の負荷に備えて少しだけ量が増えるので、体に余計な負荷をかけず、短時間で筋肉を増やすことができるのです。
さらに、3分早歩きは、速筋と遅筋を交互に使うことで、さらに糖の代謝をよくします。
筋肉には、瞬発力を出す速筋と、持久力を支える遅筋があります。速筋は、筋トレなどでやや強い負荷をかけたときに鍛えられるので、筋肉量を増やすことができます。遅筋は使ってもあまり増えませんが、エネルギーの消費に長けています。
この二つの筋肉を交互に使うことで、糖をエネルギーとして使う働きがアップするのです。
また、3分早歩きは速度にメリハリをつけるため、飽きずに続けられ、疲れを感じづらいという利点もあります。
1日2回週4回でOK
3分早歩きは、普通歩きと早歩きを3分ずつ、交互に5回くり返します(詳しいやり方は下項参照)。このときのポイントは三つ。
1. 視線を10~20mほど先へ向ける。
2. 背すじを伸ばす。
3. おなかをややへこませて、 大きく呼吸をしながら歩く。
さらに、かかとからの着地を意識すると、踏み出した足をしっかり伸ばせます。
これを、1日に2回程度行うのがお勧めです。こま切れでも構いませんので、買い物などで外出するときなどに、こまめに行うのもよいでしょう。
ただ、筋肉を増やすには、筋肉が回復するための時間も必要です。毎日ではなく、週に4日程度を目安に続けてください。

目線や姿勢を意識しながら歩くのがコツ。4
3分早歩きのやり方
「普通歩き3分」と「早歩き3分」を5セットくり返す
●1日2回程度行うのがお勧め。午前に2セット、午後に3セットなど、細かく区切ってもよい。
●筋肉が回復する時間を確保するため、週4回を目安に行う。
●早歩きの速度は、できる範囲で早めるとよい。無理のし過ぎは禁物。
●肩甲骨を寄せるようにし、腕を前後に大きく振ると、姿勢を保ちやすくなる。
●おなかをややへこませて、大きく呼吸をしながら歩くと効果がアップする。
1. 普通歩き(3分)

普通に歩く
・自然な歩幅で、自然な呼吸を保って歩く。
・このとき、視線は10~20mほど先へ向ける。
・姿勢は、頭の上から糸でつるされているようなイメージで、背すじをまっすぐ伸ばす。
2. 早歩き(3分)

①一歩踏み出す
・ひじを90度に曲げ、手を軽く握る。
・身長×0.45cm分の歩幅を広げて片足を一歩踏み出し、かかとに少し衝撃が加わるよう着地する。
(例:身長160cmの場合は、160cm×0.45=72cm)
・踏み出す足と同じ側の腕は、真後ろに引く。

②後ろ足で地面を蹴り出す
・前足の足の裏を地面に付け、体重を前に移動させながら、
・後ろ足のつま先で地面を蹴り出すようにして前に進む。

③逆の足を踏み出す
・逆の足を①と同じく踏み出す。
・「息が切れて少しつらい」と感じる程度のスピードで、3分間リズミカルに歩く。
・このとき、体が左右に揺れないよう気を付ける。
糖質制限で下がらない血糖値が改善した
3分早歩きは、患者さんたちにも好評です。
中学校の体育教師だった、ある60代の男性は、定年退職後に運動量が減ったせいか、ヘモグロビンA1c(過去1~2ヵ月の血糖値が分かる数値で、正常値は6.5%未満)が高くなりがちでした。在職中は6.8%程度だったのが、8.5%まで上昇したのです。
ウォーキングや運動をしても、数値は下がらず。そこで、3分早歩きを半年続けたところ、ヘモグロビンA1cが6.2%まで下がりました。
また、厳しい糖質制限をしても血糖値が下がらなかった患者さんが、3食きちんと食べて体力を取り戻してから、3分早歩きをしたところ、血糖値が下がったという例もあります。
無理なく足腰の筋肉を増やせる3分早歩きは、高齢者の筋力低下予防にもお勧めです。血糖値が気になる方はもちろん、足腰の衰えを感じ始めてきた方も、ぜひお試しください。

この記事は『安心』2020年11月号に掲載されています。
www.makino-g.jp