解説者のプロフィール

梶山靜夫(かじやま・しずお)
梶山内科クリニック院長。大阪府生まれ。京都府立医科大学卒業。医学博士。京都市立病院糖尿病・代謝内科部長を経て、2004年に梶山内科クリニックを開院。食べる順番を変えることでの食後血糖値の変化に着目し、「食べる順番療法」を考案。糖尿病だけでなく、高血圧や動脈硬化などの生活習慣病改善に高い効果を上げており、健康長寿をもたらす食事法として広まっている。『なぜ、「食べる順番」が人をここまで健康にするのか』(今井佐恵子氏との共著。三笠書房)など著書多数。
98%の人が継続に成功した食事療法
糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、血管に大きなダメージが与えられて動脈硬化が進みます。
目の血管がやられれば網膜症に、腎臓の血管がやられれば腎不全に、脳や心臓の血管がやられれば脳梗塞や心筋梗塞(梗塞とは血管が詰まること)を起こします。
そのため糖尿病の治療では、不足するインスリン(血糖値を下げるホルモン)を補うために、インスリン製剤やインスリン分泌を促す薬剤が用いられます。
しかし、ここにも落とし穴があります。体内にインスリンが多い状態は、がんやアルツハイマー型認知症のリスクを高めてしまうのです。
ですから最低限のインスリン量で、血糖値を適正に戻せるように、「食後に血糖値が上がり過ぎない」食事が非常に重要なのです。
ところが、糖尿病の食事療法は一般に、エネルギー計算や単位計算が必要で、さまざまな制限があります。患者さんからは、「こんな食事指導を受けても、面倒だし苦痛で続けられない」という声を多く耳にします。
私たちの調査では、従来の食事療法だと1回でやめてしまう人が30%、10回続かない人が45%にも上ります。どんなに有効な方法であっても、続けられなければ効果が出るはずがありません。
そこで、私がお勧めしているのが、食事の「内容」はそのままに、食べる「順番」を変えるだけの、「食べる順番療法」。
これを実践した糖尿病患者さんの1年後の継続率は、98%にも上ります。そのうちのなんと97%の人の血糖値が改善しており、196人の平均値で、ヘモグロビンA1cが8.2%から7.1%に下がっています(ヘモグロビンA1cの正常値は6.5%)。

※今井佐恵子、梶山靜夫ら、日本栄養士会雑誌53,2010
しかも、効果が出ているのは、境界型と呼ばれる糖尿病予備軍や、発症して間もない人、軽度の糖尿病の人だけではありません。
糖尿病歴が10年以上の人や、ヘモグロビンA1cが10%を超えるような重度の人、インスリン投与を受けている人であっても大きく改善しているのです。
食べる順番療法のやり方は、いたってシンプルです。
①食事の最初に食物繊維を含む野菜のおかずを食べ切る。
(キノコ類、海藻類、枝豆、コンニャクを含む。5分以上かけて食べ切る。)
②次に肉や魚、卵などたんぱく質のおかずを食べる。
(乳製品、大豆製品も含む。アルコールは適量なら、このタイミング以降で飲んでもOK。)
③糖質を最後に食べる。
(米、小麦、トウモロコシなどの穀類、イモ類、大豆以外の豆類、果物など。レンコン、カボチャは、野菜の中で 特に糖質が多いのでここで食べる。)
という順番で食べることを守るだけ。献立の内容は、いつもの通りで構いません。
長期の糖質制限はお勧めできない
ポイントとなるのが、食物繊維が多く、糖質(食物繊維以外の炭水化物)を含まないものを最初に食べるということです。「野菜ファースト(最初)」と覚えてください。
血糖値を上げるのは、食べ物に含まれる糖質です。食物繊維も炭水化物ですが、血糖値を上げません。それどころか、あらかじめ食物繊維をとっておくことで、腸管でのブドウ糖の吸収が抑えられ、血糖値の急上昇を回避することができます。
また、食物繊維には、消化管から出る「インクレチン」というホルモンの分泌を促す働きがあります。
インクレチン(GLP-1)は、血糖値を上げる「グルカゴン」というホルモンの分泌を抑える作用に加え、脳に働きかけて満腹感が得やすくなり、食べ過ぎを防ぐ効果があります。
一つだけ、注意していただきたいことがあります。それは、食べるスピードです。
早食いをすると、食物繊維が腸内に入ってから、糖質が腸内に入るまでの時間差があまりなくなるので、腸内でのブドウ糖の吸収を抑制する効果が少なくなってしまうからです。
そこで、野菜を食べてから炭水化物を食べ始めるまでに、少なくとも10分かけるのが理想的です。この時間差を作るために、ゆっくりよくかんで食べてください。
また、最後にごはんだけで食べるのがつらいようなら、②のおかずを少し残しておいて、一緒に食べるようにするといいでしょう。ふりかけや漬物などを追加するのは避けてください。

10分以上空けることを目標に。
ちなみに、血糖値の上昇を防ぐために、「糖質を減らすほうがいい」という考え方があります。確かに、血糖値を上げる糖質を取らなければ、一時的に血糖値は低下します。しかし、長期的にはお勧めできません。
たとえ糖質を避けることができても、その分のエネルギーや栄養素を、たんぱく質や脂質でうまく補う献立を作れる人はほとんどいません。
その結果、特に高齢者ではガリガリにやせ、筋肉量が落ちてしまう人が非常に多いのです。
血糖コントロールをうまく続けるには、多少の糖質は毎食とるほうがよいのです。先に野菜やメインのおかずをよくかんでゆっくり食べておけば、最後に食べる糖質の量は、意識せずとも自然と減ってきます。
食べる順番療法とともに、ぜひ行っていただきたいのが「スロースクワット」です。
血糖の約75%は筋肉で消費されるので、筋肉量の多い太ももを鍛えるスロースクワットは、非常に運動効率がよいのです。
5秒かけてゆっくり大きく息を吐きながら、ゆっくりとひざを曲げていきます。息を吐ききったら、今度はスーッと息を吸いながらひざを伸ばします。
曲げるときにできるだけゆっくり行うのがコツです。朝晩の食後に、20回ずつ行うといいでしょう。ぜひお試しください。

この記事は『安心』2020年11月号に掲載されています。
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