解説者のプロフィール

鳴海理恵(なるみ・りえ)
VE&BI治療院院長。鍼灸師。あん摩マッサージ師。成城大学文芸学部英文学科卒業。 アメリカのクシインスティテュートにてマクロビオティクスを修得。「免疫力こそ人間が持つ本当の薬」これを生かす治療で、薬いらずの体づくりを目指す。食事、運動、治療をモットーに体の自然治癒力を引き出すアプローチで効果を上げている。著書『効く!爪もみ』(河出書房新社)発売中。
▼VE&BI治療(公式サイト)
全身の血流がアップして手足がポカポカに
私の父、故・福田稔が考案した「爪もみ」は、セルフケア療法として次の2点が非常に優れていると言えるでしょう。1. 誰でも簡単に実践できる。2. あらゆる病気や症状に効果が期待できる。
父は「免疫力(病気に対する抵抗力)を上げるには、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のバランスこそ重要」と見出しました。
外科医だった父は、東洋医学の経絡(生命エネルギーである気血の通り道)の流れが神経と血管によく似ていることに気づき、体の末端のツボに着目しました。
中でも、爪の生え際のやや下にあるツボ「井穴(せいけつ)」の付近は、体表近くを多くの末梢神経や血管が通っています。位置に厳密にこだわらずとも、この付近をもめば、自律神経に十分な刺激が伝わりますから、誰でも簡単に実践できるのです。
また、爪もみをすると、指先の毛細血管が刺激され、そこから全身の血流がよくなるので、多くの人が「手足がポカポカする」と実感されます。
自律神経の乱れや血行不良によって、現代人は首から上がのぼせやすく、手足が冷えやすい人が多くいます。病気になる方は、ほとんどそんな状態です。東洋医学では、頭が冷えて、足がポカポカと温かい「頭寒足熱」が健康的な状態とされますが、真逆の「頭熱足寒」状態なのです。
爪もみを継続すると、理想的な頭寒足熱の状態にどんどん近づきます。現代人に多い低体温も解消します。体温が上がると白血球が活性化し、免疫力が上がると言われています。
また、指先は体内に蓄積した「毒」の出口でもあります。食品添加物や大気中の汚染物質など、現代人は多くの有害物質にさらされています。これらの毒も、自律神経の乱れを招く原因となります。爪もみをすると、その排出も促されます。
副交感神経が優位になり過ぎても病気につながる
自律神経には、交感神経と副交感神経とがあり、双方がシーソーのようにバランスを取りながら、体を適切な状態に保っています。
よく「現代人はストレスが多く、交感神経優位になりがち」と言われます。確かにそういう人は多いですが、副交感神経が優位になり過ぎの人もいます。どちらも望ましくない状態です。
また、「ストレス」というと心理的ストレスばかり連想されるかもしれませんが、ストレスには身体的なもの、物理的なものもあります。そして間違えやすいのは、ストレスは「適度にあるべきで、なさ過ぎるのもよくない」のです。
例えば、運動は身体的ストレスになりますが、運動不足でだらけていると、副交感神経優位になり過ぎます。普段から副交感神経が優位過ぎる人はストレスに弱く、いざストレスがかかると反応が強く現れます。
端的な例がアレルギーです。本来なら無害な物質に免疫が過剰反応し、アレルギー症状を引き起こします。
現代医学では、アレルギーにステロイド剤などを用いますが、その作用で自律神経は一気に交感神経側に傾きます。いったんは症状が抑えられても、薬をやめると、また大きな反動が起こり、症状が難治化する悪循環に陥ります。
このように、交感神経と副交感神経の振れ幅が大きすぎるのは病気になりやすく、治りにくい、不健康な状態です。
爪もみはこの振れ幅を適切な範囲に安定させるので、交感神経が優位過ぎる人、副交感神経が優位過ぎる人、どちらにも有効です。
そして自律神経が整えば、体に備わる本来の免疫力が発揮され、病気を遠ざけてくれます。私の治療院でも皆さんに爪もみを実践していただきますが、実に多彩な病気や不調の改善に役立っています。
リラックスのし過ぎも要注意!
過度な副交感神経優位が招く不調と病気
1. アレルギー疾患
リンパ球が増え過ぎて免疫が過敏になるため、アトピー性皮膚炎、気管支ぜんそく、花粉症などのアレルギー疾患のリスクが高まる
2. うっ血
血管が開き過ぎて、血管がよどみ、うっ血が起こる。うっ血性の心不全やむくみの原因となる
3. 下痢、骨粗鬆症
副交感神経は臓器や器官の排泄、分泌を支配。これが過度に優位になると、下痢、カルシウムの流出による骨粗鬆症の原因となる
4. 肥満、過食
リラックスすることで、食欲が増す。その結果、肥満を招くことになる
爪もみのやり方
爪もみは、特別な道具もいらないので、ちょっとした空き時間に行えます。ぜひ習慣にしましょう。
刺激する位置

爪の生え際から、指の付け根側に2ミリ下がったところを刺激。
■よくあるNGのやり方
間違った位置をもんでも効果は見込めないので要注意!

× 爪そのものをもむ

× 指の先をもむ
もみ方
① 親指から小指までを順番にもむ

親指から小指までを順番に、反対側の手の人さし指と親指で両側からつまんで、痛気持ちいい力加減で押しもみする。ギュッギュッとつまむイメージでもむとやりやすい。各指10秒ずつ。終わったら、反対側の指も同様に刺激する。
② 最もつらい症状に対応する指を20秒もむ

①が終わったら、爪もみ治療マップの症状に対応する指(下記)を左右20秒ずつ追加でもむ。気になる症状がない方は、①だけでもよい。1日3回を目安に毎日続ける。
ポイント
■親指からもみ始めるとスムーズにもめるが、決まった順番はない。やりやすい順番で構わない。
■痛気持ちいい程度の力加減を守ること。弱過ぎると効果が出ない。キズや痛みがある指は、もむのを控えてもOK。
■全ての指を20秒以上もんでも構わない。
爪もみ治療マップ
各指で10秒ずつ爪もみを行った後、最もつらい症状に対応する指をさらに20秒もむと、より効果的です。ぜひお試しください。
親指
●アトピー ●セキ ●ぜんそく ●リウマチ ●ドライマウス
人差し指
●痔 ●胃弱 ●美肌 ●潰瘍性大腸炎 ●クローン病 ●過敏性腸症候群 ●胃潰瘍
中指
●耳鳴り ●難聴
薬指
●低血圧 ●低血糖 ●眠さ ●だるさ
小指
●脳梗塞 ●物忘れ ●高血圧 ●糖尿病 ●痛風 ●椎間板ヘルニア ●子宮筋腫 ●頻尿 ●尿もれ ●肥満


この記事は『安心』2020年11月号に掲載されています。
www.makino-g.jp