日が短くなり、暗い道を歩く機会が増えてきました。自宅への帰り道で、怖い思いをしたり危険な目に遭ったりした経験を持つ人は少なくないでしょう。今回は、扱いやすく効果的な防犯グッズの選び方とともに、夜道の歩き方から、自宅のドアの開け方、鍵のかけ方まで、防犯アドバイザーの京師美佳さんにお話を伺いました。

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

京師美佳(きょうし・みか)

学校卒業後、百貨店や商社に勤務後、2001年3月錠前師資格取得。トータル防犯アドバイザーを目指し、セキュリティ企業へ就職。法人営業部の責任者を務めるなか、2002年10月 防犯設備士取得。
その後は、防犯ガラスメーカーに勤め、セキュリティ事業部長、そして防犯アドバイザーとして、防犯診断や電話での相談受付、セミナーなど、幅広く活動を行う。
2005年5月独立。京師美佳セキュア・アーキテクトを設立し、2009年11月には一般社団法人全国住宅等防犯設備技術適正評価監視機構理事に就任。講演、テレビ、新聞、雑誌など多方面で防犯の啓蒙活動を展開中。
▼京師美佳セキュア・アーキテクト(公式サイト)
▼京師美佳オフィシャルブログ(公式ブログ)
▼kyoshimika_official(Instagram)
▼@kyoshimika(Twitter)

1人で歩くときに気をつけること

犯罪者は後をつけてくる

女性が一人で歩いているときに、わいせつ事件やストーカーの待ち伏せ、強盗などの被害に遭うとき、犯人は、犯罪場所より手前、例えば駅やコンビニなどから、後をつけてきていることが大半です。犯罪者は、ターゲットの女性を見つけたら、駅から自宅までの道で襲ったり、自宅を特定したりします。怖い思いをしないために、まず、以下のことに気をつけてください。

「ながら歩き」をしない

「音楽を聴きながら」または「電話で話しながら」歩いていると、注意力散漫になり、後ろから近づく足音に気づきにくくなります。ましてや「スマホの画面を見ながら」歩いていると、視界も狭くなり、非常に危険です。これらの「ながら歩き」は、後ろからいきなり抱きつかれたり、腕をつかまれたりといった被害に遭いやすくなるので、絶対にしないでください。

「スマホで通話していると狙われにくい」と聞いたけど……?

一人歩きが不安で、友人知人と電話で話しながら歩く人がいますが、上記でお話したように、これはかえって危険です。話に夢中になり、周囲に注意が行かなくなるからです。ただ、何かあったときすぐ通報できるように、電話を手に持って歩くのはいいことです。家族の番号や110番を表示したまま、注意しながら歩いてください。

「つけられてる!」と思ったらどうする?

「つけられている」と思ったら、戻ることになっても、人通りが多く明るい道に行ってください。そこでタクシーがつかまれば、自宅の近くでも乗ってしまいましょう。タクシーがつかまらなかった場合、コンビニなどがあれば入って、友人や家族に迎えに来てもらうか、タクシーを呼びましょう。

コンビニの買い物にも注意

家までの帰り道で、コンビニに寄り道して買い物する際も注意が必要です。店内を見回して、怪しい人がいないか確認しましょう。お惣菜やおでんを買ったとき、「お箸は何膳ですか?」と聞かれて「1膳」と答えたら、一人暮らしだとアピールしているようなものです。「お箸はいりません」といって、自宅のお箸を使ってください。さらに、中身の見えにくいマイバッグを使用すれば、エコと防犯の一石二鳥になります。

道のどこを歩くのが安全?

「まじめな人ほど被害に遭いやすい」と聞いたことがありませんか?同じ時間に同じ道を通って同じ店に寄るなど、行動パターンの決まっている人は、強盗やストーカーに狙われやすくなります。帰宅する時間やルートを日によって変えたり、「今日は美容院」「明日は映画」「明後日はお洋服を買いに行こう」など、いろいろな行動パターンで生活を楽しむくらいの方が、被害には遭いにくくなります。

そして、遠回りしてでも、広くて明るい道を通ること。たとえ近道でも、人気のない公園や、暗い路地を1人で歩くのは絶対に避けましょう。

また、ガードレールのある道では、必ずガードレールの内側を歩いてください。連れ去り被害やひったくりに遭わないようにするためです。もし、ガードレールがない道を歩いていて、車に横づけされたら、車の進行方向とは逆に逃げてください。車がUターンする間、逃げる時間を稼ぐことができます。

おすすめ防犯グッズ

自衛のための防犯グッズの購入を検討している人も多いでしょう。ここでは、持ち歩きに便利で効果的な防犯グッズをご紹介します。

催涙スプレー 

一般的に市販されている催涙スプレーのほとんどは、トウガラシの成分であるカプサイシンを使っています。催涙スプレーが目に入ると強い痛みを感じて、涙が止まらなくなります。また、吸い込むと咳き込んだりクシャミが止まらなくなったりします。ひと噴射で、6畳の部屋が数時間使えなくなるほどの威力です。噴霧された相手は攻撃の手を緩めざるをえず、そのスキに逃げることができるわけです。商品にもよりますが、1~2メートル離れた場所から噴霧することできるので、相手が近づいてきた段階で使うことできます。

最近は、アトマイザー風や口紅型のかわいらしい催涙スプレーが売られています。バッグの中に入れていても違和感ありません。大事なのは、とっさのとき、すぐ取り出しやすい場所に入れることです。

画像1: *編集部調べ www.amazon.co.jp

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キーホルダー型の催涙スプレーもありますが、こちらはちょっと注意が必要です。私の友人は、ズボンのベルト通しにキーホルダー型の催涙スプレーをつけていました。ところが、ある日ファミレスで席に着いた際、お尻で催涙スプレーを踏んでしまい、栓が抜けて異臭騒ぎになりました。私は、ちょうどそのとき彼女の正面に座っていたので、3時間ほど苦しむはめに……。

また、キーホルダー型の催涙スプレーを自宅の鍵につけている人がいますが、これも実は危険です。鍵を使っているとき(家の鍵を開け閉めしているとき)は、催涙スプレーを使えないからです。のちほど説明しますが、自宅に着いて家の鍵を開けているときは、非常に狙われやすいのです。防犯グッズは、使いたいときに使えないと意味がありません。

有効な使い方としては、以下のようなものが考えられます。例えば、かわいいマスコットなどを催涙スプレーにつけて、スプレーはバッグの内側に、ぬいぐるみは外に出しておきます。こうしておけば、ぬいぐるみを引っ張るだけでスプレーを取り出すことができます。

いちばん大事なのは、必ず一度、噴射の練習をすること。川原など、人に迷惑をかけない場所で催涙スプレーを噴射してみてください。ぶっつけ本番で慌てて使用して、自分に噴射してしまった例もあります。使い方をしっかり確認しておいてください。

防犯ブザー

防犯ブザーやホイッスルは、周りに危機を知らせることができる物です。小学生がランドセルにつけているイメージが強いかもしれませんが、もちろん大人が持つのも有効です。震災などで建物の下敷きになった際に、自分の居場所を知らせることもできるので、女性だけでなく、男性や高齢者にもぜひ携帯していただきたいと思います。

購入する際には、音の大きさを重視してください。100デシベル以上の物を使用することが重要です。人の神経に障るような嫌な音(音量)は、100デシベル以上といわれています。ちなみに、パトカーのサイレンが110デシベルです。音量は、たいていパッケージに書いてあります。

携帯用の防犯ブザーは、キーホルダー型になっているものがほとんどです。防犯ブザーは催涙スプレーと違って、相手に向ける必要はありませんが、いざというときに音を出せるように使い方を確認しておきましょう。LEDライトのついている物であれば、鍵穴を照らしたり、災害時に手元や足元を照らしたりすることもできて便利です。

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タクティカルペン

筆記具と護身の機能を併せ持つボールペンです。ペンの末端にライトがついているので、災害時の照明としても使えます。また、ペン芯をガラスブレーカーに替えることで、緊急時に車や建物の窓ガラスを割って脱出することもできます。また、電車の中での痴漢撃退にも使えます。ペン先を相手の手に押し当てることで、相当な打撃を与えられるからです。相手にケガをさせない護身グッズとして、おすすめです。

画像3: *編集部調べ www.amazon.co.jp

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警察庁のアプリ「デジポリス」

東京都警視庁の公式アプリです。以下よりダウンロードできます。

AppStoreからダウンロード Google Play で手に入れよう

東京都内にお住まいのかたは、自分の行動地域を登録しておくと、犯罪発生の情報などを見ることができます。例えば、「〇〇区△△町の路上で女性が通行中、男に体を触られた」という情報があれば、その周辺を通らないという選択ができます。

画像1: 警察庁のアプリ「デジポリス」

都内在住者以外にとっても、便利な機能がついています。痴漢被害に遭った際に、アプリのホーム画面右下にある「痴漢撃退」をタップすると、「痴漢です。助けてください」という文字が表示されます。電車の中で声を上げずに、周囲の人に助けを求めることができます。また、その画面をさらにタップすると、「やめてください」という音声が鳴り響きます。

画像2: 警察庁のアプリ「デジポリス」

さらに、防犯ブザーの機能もついています。アプリのホーム画面の左下です。ここをタップすると防犯ブザーの画面になり、さらに画面をタップするとスマホの最大音量の電子音が鳴り響きます。家族などのメールアドレスを事前に登録しておくと、ブザーが鳴ると同時に、通知や位置情報を送ることもできます。

画像3: 警察庁のアプリ「デジポリス」

スタンガンや警棒はお勧めしない

スタンガンはお勧めしません。なぜなら、スタンガンは相手の体に当てることで威力を発揮する、つまり、きわめて近距離で使う物だからです。一般に、女性は男性より手が短いので、スタンガンを相手の体に当てる前に、奪われてしまう危険が高くなります。相手との距離をとって使用できる、催涙スプレーや防犯ブザーのほうが安全で効果的です。

どうしてもスタンガンを携帯したいというときは、日本護身用品協会(JDSPA)認定のものであれば、使い方がわかりやすく安心です。インターネットで海外の商品を購入する際は、日本の試験に合格している商品かどうかを確認してください。電圧などが日本の基準を超えていると、「危険物所持」ということで軽犯罪法違反になったり、使用した際に「過剰防衛」となったりすることもあります。

また、「伸縮する警棒をバッグに忍ばせておくのはどうですか?」という問い合わせをいただくことがあります。結論からいうと、警棒もお勧めしません。警棒は扱いが難しく、場合によっては相手を死傷させかねない武器になるので、警察官や警備員などのプロでも、過剰防衛にならないように細かく指導を受けているほどです。みだりに携帯すると、軽犯罪法違反とされる場合があります。防犯のために持ち歩くのはリスクが高く、効果は期待できないので、やめたほうがいいでしょう。

自宅の敷地内やドアを閉める際に気をつけること

エレベーターに乗ったら立ち位置はココ!

エレベーターは密室です。知らない人と2人きりにならないことが第一です。例えば、あなたがエレベーターに乗るとき、もしくは乗った直後に、知らない人が乗ってきたとしましょう。そういう場合は、電話がかかってきたふりをして、「もしもし~」と言いながらエレベーターを出てください。

図らずも、2人きりになってしまったときの方策もお教えします。降りるタイミングを逸してしまったり、最初はたくさん乗っていたのに徐々に人が降りて2人きりになってしまったり、ということもあるでしょう。そういうときは、ドアの脇にある操作盤(階数ボタンが並んでいるところ)の前に立ってください。体の向きは操作盤と垂直。昔デパートにいた「エレベーターガール」のような立ち方です。操作盤の近くにいれば非常ボタンを押せますし、エレベーターの中も見渡せるので、相手にスキを与えません。

一番よくないのが、早く降りたい気持ちが先走って、相手に背を向けてドアの前に立つこと。相手の動きが見えないのは危険です。一番奥に立つのも、入口をふさがれて出られなくなるので避けてください。操作盤の前に垂直の向きで立つのが、防犯上一番安全な立ち方です。

自宅のドアを開けるときも気を抜かない

自宅のドアが見えると安心してしまうものですが、実はドアの鍵を開けるときも、非常に多くの犯罪が起こっています。犯人にしてみれば、鍵を開けた瞬間に部屋の中に押し込んで犯行に及ぶ方が、目撃されず安心だからです。影に隠れている人がいないか、よく確認してから鍵を開けてください。特に、非常階段付近の部屋は注意が必要です。

家の鍵は、見なくても出せるように、バッグのポケットなどに入れておきましょう。バッグの底の方に入り込んだ鍵をガサガサと探していると、注意力が散漫になり、誰かが隠れていても気づきません。鍵を開ける前に周りを見渡し、誰もいないのを確認したら鍵を開け、ドアを少し開けてまた周りを見る。異常なしなら、自分が入る分だけを開けて入室します。ドアを大きく開けるとドアが盾になり、外部から自分の姿を目撃されにくいので狙われやすくなります。

玄関に入ったら鍵をすぐ閉めますが、ドアロックはすぐにはしないでください。部屋の中に誰も隠れていないのを確認したら、ドアロックをします。万が一、中に人が居た場合すぐに逃げられるようにするためです。

コロナ禍で増えてきた犯罪パターン

なりすまし犯罪・置き配泥棒

新型コロナの流行で、外出を自粛して通販を利用する人が多くなってきました。そのため、宅配業者を装っての犯罪が増えています。インターフォン越しに「制服が見えたから」といって安心せず、宅配ボックスを使用したり、商品は玄関外に置いてもらい、ドアロックをしたまま押印をするなど、用心してください。
配達員が荷物を手渡しせず、指定場所に商品を置く「置き配」も広まっていますが、今度はそれを狙った「置き配泥棒」も増えています。「置き配」は玄関先などではなく、宅配ボックスを指定しましょう。

在宅中の居空・忍び込み被害

リモートワークなどで家に人がいるにもかかわらず、開いている窓からこっそり侵入してくるような居空(いあき)や、就寝中に侵入してくる忍び込みの泥棒が増えています。空き巣は物を盗られるだけですが、居空や忍び込みは鉢合わせの危険があります。在宅中こそ、しっかりと戸締りを行ってください。換気をする場合は、窓に補助錠を設置して、5センチほどしか開けられないようにしておきます。無理に開けようとすると大きな音が鳴るので、家の中にいる人は逃げる時間を稼げますし、音が鳴った段階で泥棒は入るのをあきらめることがほとんどです。

まとめ

いかがでしたか?「そんな話、聞いたことない」「大げさでは?」と思ったかたもいるかもしれません。でも、事件のすべてがニュースで報道されるわけではありませんし、被害に遭ったかたは自分の経験を人に言いません。「聞いたことがない」からといって、安全だとは言い切れないのです。用心するに超したことはありません。これを機に、日ごろの防犯体制を見直してみてください。

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