解説者のプロフィール

サカイ優佳子(さかい・ゆかこ)・田平恵美(たびら・えみ)
「乾物で世界をもっとPEACEに!」という信念のもと、「DRYandPEACE」として活動する。2002年より、食と社会の繋がりをテーマにした食育ワークショップ「食の探偵団」を主宰。2011年に未来食としての乾物の可能性を研究していた矢先、東日本大震災が発生。長期間常温で保存できる乾物が人々の目に止まらない光景を目にし、乾物の普及活動を本格的に開始する。2015年に、乾物をヨーグルトでもどす「乾物ヨーグルト」を考案。枠に捉われない自由な発想で、現代のライフスタイルに合った乾物の活用方法を発信している。『ヨーグルトでもどす魔法の乾物レシピ』(主婦の友社)、『乾物マジックレシピ』(山と渓谷社)など著書多数。今年9月に最新刊『超快腸!ドライマンゴーをヨーグルトでもどすだけ!!』(主婦の友社)が発売。テレビや雑誌などのメディアにも出演している。DRYandPEACEホームページ:https://www.dryandpeace.com/
ヨーグルトでもどせば乾物の世界が広がる
「乾物ヨーグルト」とは、乾物を水ではなく、ヨーグルトでもどす調理法のことです。
その方法は、適量のヨーグルトを乾物に絡め、冷蔵庫で8時間置くだけ。すると、乾物がヨーグルトの水分であるホエー(乳清)を吸収してもどります(作り方は別記事参照)。
[別記事:魔法の「乾物ヨーグルト」の作り方&アレンジレシピ→]
乾物は、食べ物から水分を減らすことによって、常温での長期保存を可能にした食材。もどすのには水が必要と考えがちですが、ヨーグルトのように、水分を含む食材を使ってもどすこともできます。
私たちは、この乾物を「古くて新しい未来食」と考えています。その理由は、以下の多くのメリットがあるからです。
・食べ物を無駄にせず、食品ロス削減になる
・冷蔵庫が不要、軽いので輸送の燃料が抑えられるなど、省エネにつながる
・形が悪い農産物も商品化することができる
・もしものときの備えになる
・料理が時短になる
また、2011年からは、現代のライフスタイルに合った、乾物の食べ方を提案する活動を始めました。そのきっかけの一つが、東日本大震災です。
震災当時、私たちが住む地域では、計画停電が実施されており、冷蔵庫が使えない時間がありました。
それなのに、スーパーに行くと、生ものは全て売り切れ。一方で、冷蔵庫なしでも保存できる乾物の多くが売れ残っていたのです。この光景に、私たちは衝撃を受けました。
「普段から使い慣れていないから、乾物を使うという発想自体がないのかもしれない。だったら、乾物の普及に努めよう」、そう決意したのです。
その活動の中でひらめいたのが、乾物ヨーグルト。この発想のもとになったのは、ネットで読んだ、とある和食料理人の方の書き込みでした。
それには、「ヨーグルトでもどすと、干しシイタケがふっくらもどる」と書かれていたのです。そこでさっそく試すことに。
その方は、ヨーグルトを洗い流して煮しめにしていましたが、私たちは、むしろヨーグルトを洗い流さず、その風味を生かす料理として展開しようと考えたのです。
海外では、ヨーグルトを料理の素材と捉えることも少なくありません。水分が抜けたヨーグルトは、クリームチーズのような風味になります。
和食のイメージが強い乾物を、ヨーグルトでもどすことによって、「乾物は和食」という先入観を払拭しやすくなると思いました。
先述の別記事でご紹介しているメニューは、そんな中で考案したもの。新しい食感や風味、そのおいしさに、きっと驚かれることと思います。
乾物ヨーグルトにはメリットがたくさん
乾物ヨーグルトには、メニューの幅が広がる以外にも、次のような利点があります。
●乾物の栄養を全て生かせる
乾物を水でもどすと、水溶性の栄養や風味が、もどし汁に溶け出してしまいますが、丸ごと使う乾物ヨーグルトなら、取りこぼしがありません。
●乾物とヨーグルトの相乗効果
乾物の食物繊維とヨーグルトのビフィズス菌は、どちらも腸の善玉菌のエサになり、腸内環境を整えるといわれています。
●乾物の臭みが和らぐ
牛乳同様、ヨーグルトにも臭みをとる効果が期待できます。乾物の日なた臭さが苦手という人でも、食べやすくなります。
●食感が変わる
例えば、ワカメ。水でもどすとフニャッとしてしまうものもありますが、ヨーグルトでもどすと、シャキシャキの高級ワカメの食感になります。
●乾物初心者にも優しい
「乾物は、もどし方が分かりにくい」と言う人もいますが、乾物ヨーグルトなら、どの乾物でも8時間もどせばOK。朝仕込んだら夜、夜仕込んだら朝に、それぞれ使えます。
●作りおきができる
ヨーグルトに漬けた状態で、1週間ほど冷蔵庫で保存が効くので、あと一品ほしいというときにも便利に使えます。
●乾物ヨーグルトで健康に?
乾物ヨーグルトを日常的に食べるようになった人からは、「お通じがスムーズになった」「血圧が下がった」など、喜びの声も聞きます。
普段から乾物を使えば災害時にも役立つ
また、私たちにとってうれしいのは、やはり「乾物があると、災害が来ても大丈夫だと安心できる」という声です。
乾物ヨーグルトの場合は、冷蔵が必要なので、もしものときには向きません。しかし、乾物と一緒に、常温で長期間保存できる水分(ジュース類や水分のある缶詰など)を備えておけば、いざというときにも活用できるのです。
普段から乾物を使いこなすことは、もしものときに備える、食の防災訓練になります。
健康維持に役立ち、しかもエコ、さらには、非常時の備えとしても活躍する乾物。読者の皆さまも、この機会にぜひ、乾物を取り入れてみてはいかがでしょうか。
今こそ活用したい伝統食材「乾物」の魅力
1. 栄養が豊富
乾物は、栄養成分が凝縮された健康食材! 野菜、豆、魚介、海藻などバラエティー豊かで、食物繊維やミネラルが豊富。生のときには含まれない栄養が生まれたり、干すことで吸収しやすくなったりする栄養もあります。添加物が入っていないのも、うれしいポイントです。
2. 風味・うま味がたっぷり
乾物に凝縮されているのは、栄養だけではありません。風味やうま味もしっかり詰まっているので、あれこれ調味料を入れずとも、深い味わいの料理が作れます。乾物独特の食感も、いいアクセントになります。
3. 時短調理に最適
乾物の魅力は、水分に漬けておくだけでそのまま食べられたり、料理に活用できたりすること。夜寝る前に乾物を漬けておけば、次の日の朝食や、お弁当作りに活用できます。包丁なども使わず調理ができるので、忙しい朝の時間にピッタリ!
4. 地球環境に優しい
乾物は常温で保存できるので、冷蔵庫などの電気を使わず省エネになります。さらに、調理の過程で生ゴミが出づらい、形が悪くて商品にならない農産物も乾物として販売できるなど、食品ロスの軽減にも大いに役立ちます。
5. 災害時にも役立つ
乾物は常温で保存できる上、賞味期限も長いため、備蓄食材として役立ちます。また、水分でもどせばそのまま食べることができる食材も多いので、ジュースや缶詰とともに揃えておけば、いざというときも安心です。
「乾物ヨーグルト」おすすめ食材ベスト3
[別記事:魔法の「乾物ヨーグルト」の作り方&アレンジレシピ→]
1. 煮干し

普段はだしを取るのに使われる煮干しですが、ヨーグルトやトマトジュースでもどすことで、身がしっとり仕上がり、食べ応えある味わいに!レシピページ(上別記事)で紹介したようなオーブン焼きをはじめ、食卓の主役としても活躍します。
頭や骨ごと食べられるので、カルシウムなどの栄養も豊富。料理の素材としてさまざまな場面で活躍する、舌も体も大満足できる食材です。
2. 寒天

寒天と言えば、煮溶かして使うのが一般的。しかし、ヨーグルトでもどすことで、全く新しい食感が味わえるのです!
しっとり柔らかな食感は、一度食べたら忘れられないこと間違いなし。卵と一緒に混ぜてスクランブルエッグにすれば、寒天が半分とろりと溶けた食感になって、何とも言えないおいしさに仕上がります。
3. 炒り大豆

「豆料理は好きだけれど、自分で作ると時間がかかって面倒くさい……」とお悩みの方にお勧めしたいのが、炒り大豆!ヨーグルトでもどすだけで、ふっくらとした大豆がそのまま食べられます。
もちろん、料理でも大活躍。サラダはもちろん、カレーやハンバーグに入れても合います。炒り大豆にまとわりついたヨーグルトが、チーズのような風味になるので、お子さまにもお勧めです。

この記事は『安心』2020年11月号に掲載されています。
www.makino-g.jp