解説者のプロフィール

寺田聡美(てらだ・さとみ)
蔵元 寺田本家・酒かす料理研究家。江戸時代から続く造り酒屋「寺田本家」23代めの次女として生まれる。マクロビオティックを学び、カフェ勤務などを経て、結婚後は家業を手伝う。2児の母。醸造元で育ち、発酵を身近に感じてきたからこその発酵レシピが好評。2017年、敷地内に「発酵暮らし研究所&カフェうふふ」をオープン(不定期営業)。著書に『甘酒・塩麹・酒粕ベストレシピ』(家の光協会)がある。
子供でも楽しめる酒かすレシピを提案
我が家は、千葉県香取郡で340年以上続く、日本酒の蔵元です。屋号は、『寺田本家』。私は、先代(23代め)の次女として生まれました。
寺田本家の日本酒の特長は、なんといっても自然酒造り。原料は、全量無農薬米で、添加物はいっさい使いません。お米をアルコール発酵させる際に必要な微生物(こうじ菌や乳酸菌など)も、外部で培養したものではなく、もともと酒蔵にいる微生物を用いています。
まさに、自然任せの酒造り。蔵人(酒造りの職人)たちの仕事は、微生物が発する小さな声に耳を傾けながら、酒造りに最適な環境を整え、うまく手助けをすること。できる限り機械は使わず、手間と時間をかけた「生酛造り(きもとづくり)」という伝統的な手法を用いた酒造りにこだわっています。
さて、蔵元に生まれ育った私ですが、実は、体質的にアルコールが飲めません。大人になってから「おいしい日本酒が身近にあるのに味わえないなんて!」と、いつもくやしい思いをしていました。
そこで思いついたのが、日本酒の製造過程で生まれる「酒かす」を料理に活用することでした。
酒かすを使った料理といえば、かす汁や甘酒が代表的ですよね。我が家でも、幼いころによく食卓に並びましたが、お酒の風味が強くて、私は得意ではありませんでした。
そこで、趣向を変えてみようと考え、作ってみたのが、「酒かすクラッカー」です。作り方は、寺田本家のホームページでご紹介しています。
この酒かすクラッカーを初めて食べたときは、驚きました。お酒の風味は消えて食べやすく、おいしかったのですが、なぜかチーズの風味がしたのです。材料にチーズはもちろん、乳製品も使っていません。
なぜだろうと考えて、酒かすはチーズと同じように、乳酸発酵した食品であることに気づきました。さらに、油と塩を加えたことで、チーズに似た風味になったのだと思います。
このことから、酒かすという素材のおもしろさに気づいた私は、「酒かすは料理をおいしくするために、もっと活用できる!」と確信。アルコールが苦手な人や、妊婦さんや子供でも気軽に楽しめる、酒かすのレシピを提案するようになったのです。

寺田本家の酒造りの様子
隠し味としてカレー、シチュー、トマト煮に
ここからは、読者の皆さんにもっと酒かすを楽しんでもらえるよう、酒かすの活用術をご紹介しましょう。
●選び方
酒かすを購入するときは、原材料名をチェックして、お米だけで作られた物を選んでください。添加物は使われていないほうがいいでしょう。
また、私は「生酛造り」または「山廃造り」(いずれも生酛系酒母から造られる、昔ながらの日本酒の製造法)と明記されている物を特にお勧めしています。
蔵元や酒造メーカーによってさまざまな味、質感の酒かすがあるので、使い比べも楽しいものです。
ちなみに、寺田本家の酒かす、『自然酒酒粕』は、新酒をしぼり始める毎年12月ごろから春まで販売する、季節限定品です。寺田本家の酒かすには、生酛造りならではの酸味があります。私の実感だと、酸味が強いほうが、料理に使うとき、味の深み、旨みがアップする気がしています。
●使い方
いろいろな料理に、「隠し味」として、少量の酒かすを加えましょう。入れる量はお好みですが、あくまでも隠し味なので、少量でかまいません。
カレー、シチュー、トマト煮との相性は抜群。酒かすを入れると、味の深み、旨みがグンと増します。お酒の風味が好きなかたは、そのまま投入するだけでOKです。
私のようにアルコールが苦手な人、お子さんや妊婦さんがいるご家庭は、酒かすを水で溶かして火にかけ、アルコールを飛ばしてから使いましょう。
酒かすと水を、1対1の割合で鍋などに入れて、優しく混ぜながら弱火にかけます。沸騰後5分もすれば、アルコールが飛んで、お酒の風味も消えます。
●保存の仕方
自然に造られた酒かすには、賞味期限はありません。時間が経つと、黄色から茶色に変色していきますが、これは腐っているのではありません。発酵が進むことで、酸味がまろやかになり、旨みが増している証拠です。熟成した酒かすは、かす漬けなどお漬物用にお勧めです。
風味を変えずに長く保存したいときは、冷凍保存がよいでしょう。ラップなどで包んで乾燥を防ぎ、保存してください。
酒かすは、さまざまな健康効果も期待できる発酵食品です。皆さんも、酒かすを毎日の生活に取り入れて、おいしくて楽しい「発酵ライフ」を試してみてはいかがでしょうか。
[別記事:胃腸と肌を優しく癒す「酒かす」絶品レシピ→]

この記事は『壮快』2020年11月号に掲載されています。
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