解説者のプロフィール

堤浩子(つつみ・ひろこ)
月桂冠株式会社 総合研究所製品開発課長。広島大学大学院修了。1991年月桂冠株式会社に総合研究所研究員として入社。2001年3月~2003年3月まで、独立行政法人酒類総合研究所に共同研究員として出向。2003年3月、月桂冠総合研究所に帰任、主任研究員、技術情報課長などを経て2019年4月より現職。
末端の冷えが改善し体脂肪の増加も抑制
私たち月桂冠総合研究所では、日本酒の副産物である酒かすについて、30年近く前から研究を続けています。ここでは、最新の研究成果に基づき、酒かすの主要な効能についてお話しましょう。
●血圧を下げる効果
私たちは、日本酒と酒かすの中に、降圧作用のあるペプチドを発見しました。ペプチドとは、アミノ酸が複数結合したものです。実験では、酒かすに含まれるたんぱく質を酵素で処理してできたペプチドをタブレット状に成形。軽症~中等度の高血圧症のかたに30日間飲んでもらいました。

酒かすペプチドのヒト血圧上昇抑制試験(月桂冠総合研究所提供)
参加者は最大血圧が130~179mmHg、最小血圧が85~109mmHgのかたたち(基準値は最大血圧が140mmHg未満、最小血圧が90mmHg未満)。
血圧の変化を調べると、1~2ヵ月にわたり、緩やかに血圧が低下しました。最大血圧と最小血圧が、ともに有意に下がっていき、被験者の平均値でいえば、上下の血圧のどちらも基準値内にまで下がったのです。
酒かすは、どのようなしくみで降圧効果を発揮したのでしょうか。
私たちの体の中で血圧上昇を引き起こす役割を果たしている酵素が、アンジオテンシン変換酵素です。酒かすに含まれるペプチドには、この酵素の活性を阻害する働きがあることがわかりました。それにより、実験で示されたような降圧作用がもたらされているのです。
そのため、毎日少量の酒かす(1日20g程度)を食べ続けていくと、緩やかに血圧を下げていく効果が期待できると考えられます。
●ダイエット効果
冷え症の男女に、タブレット状の酒かす(10g、通常の酒かすで約20g)を1日3回に分けて、8週間にわたってとってもらいました。
これはもともと、酒かすによる冷え解消効果を調べることが目的の実験でした。予想通り酒かすを食べていると、手指など末端の冷えが非常によく改善するという結果が出ました。
また、実験期間中、体脂肪の変化も調査しました。すると、体脂肪の増加が有意に抑えられていることがわかったのです。
実際、ほかの実験でも、同様の傾向が確認されています。老若男女を問わず、酒かすを恒常的に摂取すると、不思議なくらい太りにくくなるのです。
これには、いろいろな要因がかかわっています。
酒かすには、食物繊維と、レジスタントプロテイン(消化されにくいたんぱく質)という成分が含まれています。
食物繊維もレジスタントプロテインも、体内の余分なコレステロールの排出を促す働きがあります。それが、血中のコレステロール値や中性脂肪値を下げ、かつ、体重の増加抑制にも貢献しているのでしょう。
酒かすには、血管拡張作用があります(これが冷えを解消する理由の一つ)。血流がよくなり、基礎代謝がアップすれば、体重増加抑制につながります。
また、酒かすには後述する便秘解消の効果もあり、老廃物が長く体内に留まりにくくなります。
こうした複数の要因の相乗効果によって、酒かすをとっていると、太りにくくなると考えられるのです。ただし、酒かすにもカロリー(エネルギー)がありますので、摂取量には注意が必要です。
肝機能値の改善や健忘症の抑制も期待できる
●腸内環境改善効果
酒かすには、レジスタントスターチ(消化されにくいでんぷん)という成分が豊富に含まれています。含有量からいえば、白米や米こうじよりも多く、米こうじの約10倍を含んでいることがわかりました。
レジスタントスターチは、レジスタントプロテインとともに、善玉菌であるビフィズス菌を増やし、腸内環境を改善する効果があります。それが便秘解消や美肌効果などのよい影響を体にもたらすことになります。
●抗酸化作用
酒かすには、先述した血圧抑制効果のあるペプチドとは別に、抗酸化作用のあるペプチドが含まれていることもわかってきました。
酒かす由来のペプチドをマウスに食べさせると、肝機能値がよくなったり、健忘症を抑制したりするというデータが出ています。酒かすを食べていると、抗酸化力によってアンチエイジングに役立つ可能性があるということになるでしょう。
このように、酒かすの摂取による健康効果は幅広く、その可能性には大きな期待が集まっているのです。
[別記事:胃腸と肌を優しく癒す「酒かす」絶品レシピ→]

この記事は『壮快』2020年11月号に掲載されています。
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