解説者のプロフィール

赤岩聡(あかいわ・さとる)
赤岩治療院院長。1974年生まれ。埼玉県出身。2005年、早稲田医療専門学校を卒業、鍼灸師免許取得。おくど総合診療所で理学療法・作業療法などを学び、介護付き有料老人ホームで機能訓練指導員として勤務したほか、コナミスポーツクラブ内併設の治療院でスポーツ障害の臨床経験などを経て、12年、赤岩治療院を開院。15年に眼精疲労専門としてリニューアル。
▼赤岩治療院(公式サイト)
疲れ目を放置すると頭痛や肩こり、不眠につながる
私は、2012年に東京の恵比寿で鍼灸治療院を始めました。そして、患者さんの不調を治療するうちに、眼精疲労の人が多いことに気づきました。
「スマホの画面を見るのがつらい」「目の奥をギュッと引っ張られる」「こめかみが締めつけられるようだ」「疲れると物が二重に見える」という症状を訴える人が多かったのです。
さらに私自身、目を動かすと痛みが出て、頭痛にも悩まされるようになりました。当時は資料の細かい文字を集中して見ることが多く、目を酷使しており、それが原因で眼精疲労を起こしたのだと思います。
そこで、近所の眼科や大学病院で検査を受けましたが、異常は見つかりません。特に薬も処方されませんでした。
症状の改善が見られないと、不安になったり、イライラしたりします。眼精疲労の患者さんのつらさを、そのとき身をもって感じました。
そこで、専門分野であるマッサージと鍼を試し、どうすれば眼精疲労が治るのか研究を重ねました。
そして、特に効果的なツボを、自分の体で実感して見つけたのです。刺激していると2週間ほどで痛みが和らぎ、「これで患者さんも楽になるはずだ」と確信しました。
この体験がきっかけとなり、2014年に、鍼灸治療院を眼精疲労専門にリニューアルしたのです。
ひとくちに眼精疲労といっても、患者さんによって症状が異なります。目が痛む人、首や肩がこる人、まゆ毛の上やおでこ、こめかみがこる人、頭痛がする人、吐き気がする人など、さまざまです。目が疲れて思考が停止する、ぼーっとしてしまうという人も多いものです。
ちなみに眼精疲労は、「疲れ目」とは異なります。
パソコンやスマホで目を酷使すると、目の筋肉に疲労がたまります。その結果、目のピントが合わなくなったり、目がかすんだりします。この状態は疲れ目です。
この段階で適切なケアを行い解消すればよいのですが、さらに目を酷使すると、加えて頭痛や吐き気、肩や首のコリや痛み、不眠、イライラなど、自律神経の乱れによる不調が心や体全体に現れます。これが眼精疲労です。
三つのツボを3本の指で同時に優しく押す
目の周りにあるツボに鍼を施したり、マッサージしたりすることで、次のような効果が期待できます。
●目の働きを高める
●目の潤いがアップ
●目の痛みや違和感の緩和
●視力回復
●血流を改善し、目の周りのコリや緊張を緩める
そして、自分でツボを押すだけでも、目の不調の解消につながります。私が特にお勧めするのは、「3点まゆ押し」です。
まゆ毛の上には、まゆ頭から順に攅竹(さんちく)、魚腰(ぎょよう)、絲竹空(しちくくう)という三つのツボがあります。これらを人差し指、中指、薬指の腹で押すのです。
三つのツボを同時に押すので、さまざまな眼精疲労の改善効果が期待できます。詳しいやり方は下記をご覧ください。
また、緑内障、白内障、近視の人や、目の充血が気になる人は、承泣(しょうきゅう)というツボを押すといいでしょう。場所や詳しい押し方は、こちらも下記をご覧ください。
いずれも、「優しく押す」ことがたいせつです。
目の周りは皮膚が薄いので、力かげんには注意してください。強過ぎる刺激は、内出血などが起こる恐れがあります。
また、必ず目を軽くつむりましょう。
目から情報が入らないようにして、脳を休ませることも重要です。およそ1~2週間で効果は現れますが、すぐに効果を実感できる人もいます。
3点まゆ押しのやり方
【ポイント】
・気持ちいいと感じる力かげんで優しく押す
・眼球を押さないように気をつける
・いつ行ってもよい。1日3回が目安
・コンタクトレンズをつけたまま行ってもかまわない
「攅竹」
まゆ頭の少し下の骨際。目頭と鼻の間にあるくぼみから上がった小さなくぼみ。
【効果】・目の腫れ ・目の痛み ・視力低下 ・頭痛

「魚腰」(眉中)
まゆ毛の真ん中。黒目の真上。
【効果】・眼瞼下垂 ・目の充血 ・まぶたのひきつり

「絲竹空」
まゆ毛の外端。まゆ尻の骨の外側にあるくぼみ。
【効果】・まぶたの痙攣 ・頭痛 ・めまい

押し方

❶目を軽くつむり、攅竹・魚腰・絲竹空に人差し指、中指、薬指の腹をそれぞれ当てる。

❷上下へ動かしながら、3回優しく押す。

❸左右へ動かしながら、3回優しく押す。②と③を交互にくり返し、計1分行う。
「承泣」
まっすぐ前を見たときの、瞳孔の真下にある骨際の小さなくぼみ。
【効果】・緑内障 ・白内障 ・近視 ・目の充血

【ポイント】
・爪が目に入らないようにする(短く切っておく)
・気持ちいいと感じる力かげんで優しく押す
・眼球を押さないように気をつける
・いつ行ってもよい。1日3回が目安
・コンタクトレンズをつけたまま行ってもかまわない

◎目を軽くつむり、中指か薬指の腹を承泣に当て、1分間、引っ張らないように下方向に優しく押す。
自律神経の緊張が解けてストレスも緩和
眼精疲労は、心の不調と密接な関係があります。患者さんを見ても、眼精疲労で来院される人は、ほぼ100%ストレスを抱えています。
症状を訴えるのは、目をよく使う人だけでなく、常に緊張を強いられる立場の人や、プレッシャーをよく感じている人が多いのです。
しかし、多くの患者さんは目の症状だけにとらわれていて、心にかかっている負荷を感じ取れていません。生活習慣の乱れや、忙しさをはじめとするストレスが、目に影響していることに気づいていないのです。
こうした患者さんにツボ治療を施すと、「視力がよくなった」「ピントが合うようになった」「視界が広がった」「明るく見える」という声とともに、「心がスッキリして、やる気が出た」という報告が数多くあります。
ツボを刺激すると、自律神経の緊張が解けてリラックスするので、ストレス緩和にも役立つのです。
眼精疲労で悩んでいる人は、今回ご紹介したツボ押しを継続して行い、ぜひ心の状態にも目を向けてください。

この記事は『壮快』2020年11月号に掲載されています。
www.makino-g.jp