解説者のプロフィール

多山賢二(たやま・けんじ)
広島修道大学健康科学部教授。農学博士。1980年、山口大学大学院農学研究科農芸化学専攻修士課程修了。東京大学で博士号取得。ミツカン中央研究所、鈴峯女子短期大学教授を経て現職。主な研究テーマは「酢酸菌の応用」。
▼専門分野と研究論文(CiNii)
毎日大さじ1杯の酢を飲んだら……
私は、酢の健康効果を長年にわたって研究してきました。酢と納豆をいっしょにとる「酢納豆」、その解説の前に、これまでの私たちの研究である、酢と血圧との関係からお話ししましょう。
私たちは、次のような臨床研究を行いました。
血圧がやや高めの男女64人に協力してもらい、酢(玄米酢)を飲む群と飲まない群(プラセボ群)に分け、血圧の変化を調べました。酢をとる量は、1日大さじ1杯(15ml)です。協力者の最大血圧は、平均で約142mmHgでした。
酢を飲む群は、飲用後わずか2週間で、134.5mmHgまで下がりました。一方、プラセボ群ではほとんど変化がありません。8週後には酢を飲む群は129.2mmHg、プラセボ群は140.7mmHgと大きな差が出ました。
![画像: 酢の摂取による血圧の変化[出典:健康・栄養食品研究 Vol.6 No,1 2003 「食酢配合飲料の正常高値血圧者および軽症高血圧者に対する降圧効果」の表4から作成。]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2020/11/10/45bb1c0166906ef4117d27b0939aec63f17a86c7.jpg)
酢の摂取による血圧の変化[出典:健康・栄養食品研究 Vol.6 No,1 2003 「食酢配合飲料の正常高値血圧者および軽症高血圧者に対する降圧効果」の表4から作成。]
さらに私たちは、最大血圧が平均で約152mmHgの軽症高血圧者を主体とする51人に、酢を1日30ml飲んでもらう研究も行いました。6週後、プラセボ群は変化がないのに対し、酢の摂取群は平均で15mmHgもの血圧降下が見られました。これは大きな下落幅です。
先に紹介した実験との比較で、血圧の高い人ほど酢の効果が現れやすく、降圧効果が高いということもわかりました。
では、なぜ酢を飲むと血圧が下がるのでしょうか。それは、二つの面から説明できます。
一つは、ホルモン系制御の一種であるレニン・アンジオテンシン系に対する効果です。レニン・アンジオテンシン系の働きが高まると、血圧が上昇します。酢は、この働きを抑制することで、血圧を下げると考えられます。
もう一つは、お酢の主成分である酢酸の作用です。酢酸は体内でアデノシンという物質に変化します。このアデノシンが血管を拡張することで、血流が促進され血圧が下がるのです。
長く続ければ翌朝まで低い血圧を維持できる
酢の酢酸には、体内の脂肪を減らす働きがあることもわかってきました。酢酸は、脂肪細胞が血液中の糖分や脂肪酸などを取り込むのをブロックするのです。酢を飲むことで酢酸を摂取すると、内臓脂肪が減少するというデータも出ています。
さらに、酢には血糖値を下げる働きがあることも確かめられています。
このような健康効果を有する酢と、納豆を組み合わせると、生活習慣病の予防・改善に役立つと考えられます。
ご存じのとおり、納豆も非常に多くの健康効果を有する発酵食品です。例えば、納豆に含まれる豊富な食物繊維は、腸内の善玉菌のエサとなり、納豆菌とともに腸内環境を整え、腸の健康維持に役立ちます。
また、ナットウキナーゼという酵素には血栓(血の塊)を溶かす効果があり、心筋梗塞や脳梗塞の予防が期待できます。
栄養面でも、「畑の肉」といわれるほど良質な植物性たんぱく質が多く、体の機能維持に大切なビタミン・ミネラル類も豊富に含んでいます。
食品によっては、二つの物をいっしょに摂取したとき、互いが足を引っ張りあって、その効果が減じることがあります。しかし酢と納豆の場合、そうしたマイナス効果はないと考えられます。酢納豆としてとると、酢と納豆の総合的な効果が期待できるといえるでしょう。
また、納豆が酢の酸味を和らげてくれるので、酸っぱい酢が苦手というかたも、酢納豆ならとりやすくなるはずです。
酢に関しては、もう一つ、重要な研究データがあります。酢を毎日摂取し続けていると、その降圧効果がより確かなものとなってくるのです。
酢を常飲していなかった人の場合、酢を飲んだあと、その降圧効果は、約4時間持続することがわかっています。こうした点を考えれば、高血圧の人は、朝、血圧が高くなっていることが多いので、朝食時に酢をとることが勧められます。
興味深いのは酢を継続して飲んだ場合です。私たちの研究では、酢を4ヵ月間飲み続けると、血圧が下がった状態をしばらくは維持できることが判明しました。
長く飲み続けると、翌朝まで低い血圧が維持できます。こうした結果がわかっているからこそ、皆さんには、酢を継続してとり続けることをお勧めしたいのです。
継続の重要性は、もちろん酢納豆でも変わりません。
納豆1パック(40g)に酢大さじ1杯を入れてよくかき混ぜ、毎朝食べるといいでしょう。好みで、添付のタレやしょうゆを適量加えてもかまいません。血圧が高めの人は、さらに大さじ1杯分の酢をほかのおかずに加えてとることをお勧めします。
酢の種類は、玄米酢などの穀物酢だけでなく、果実酢などでもけっこうです。さまざまな健康効果を確かなものとするためにも、酢納豆を毎日根気よく食べ続けてください。
酢納豆の作り方

【材料】(作りやすい分量)
納豆…1パック
酢…大さじ1(酸味が苦手な人は小さじ1くらいから始めるとよい)

【作り方】
納豆に酢を加えて、よく混ぜるだけ!
※酢は好みの種類でOK。
※好みにより添付のタレなどで調味してもよい。

この記事は『壮快』2020年11月号に掲載されています。
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