血糖値スパイクと呼ばれる食後高血糖の抑制に効果があるといわれているのが、食物繊維の多い食品です。そこで私たちは、海藻を食前に食べる「海藻ファースト」の研究を行いました。【解説】多賀昌樹(和洋女子大学健康栄養学科准教授/ベリークリニック非常勤管理栄養士・博士(医学))

解説者のプロフィール

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多賀昌樹(たが・まさき)

和洋女子大学健康栄養学科准教授、ベリークリニック非常勤管理栄養士・博士(医学)。1995年、徳島大学医学部栄養学科卒業。米国テキサス大学ヒューストン校医学部外科研究員、北里大学保健衛生専門学院管理栄養科学科長などを経て、2012年より現職。研究分野は、機能性食品の臨床栄養への応用。
▼専門分野と研究論文(CiNii)

コレステロールや脂肪の吸収を抑える

納豆のようなネバネバ食品が体によいことは、日本人なら多くの人がご存じでしょう。この納豆と並ぶヌルヌル、ネバネバ食品の代表が海藻。なかでも粘りけが強いのがメカブです。

そこで私がお勧めしたいのは、納豆にメカブを混ぜて食べる「メカブ納豆」です。

メカブは、ワカメの根もと部分にある生殖細胞の集合体であり、海のミネラルや水溶性食物繊維を豊富に含むのが特長です。

メカブの強い粘りは、水溶性食物繊維であるアルギン酸が多く含まれているからです。アルギン酸は、腸内環境を整えたり、コレステロールや脂肪の吸収を抑えたりするなど、さまざまな健康効果があるといわれています。

しかし、意外に思われるかもしれませんが、これまでメカブをはじめとする海藻の健康効果については、あまり研究が行われていませんでした。そこで私たちは、メカブを使って食後血糖値との関係を調べました。

通常、ご飯(白飯)などの糖質をとると、血糖値は最高値に達し、その後、徐々に下がって2時間後には平常値に戻ります。この食後の血糖値が急激に上昇したり、2時間経っても140mg/dlより下がらなかったりする状態を、食後高血糖と呼びます。

血糖値スパイクと呼ばれる食後高血糖は、空腹時高血糖よりも危険視されています。心筋梗塞やアルツハイマー型認知症などの発症リスクを2〜3倍高めるからです。

この食後高血糖の抑制に効果があるといわれているのが、食物繊維の多い食品です。「ベジタブルファースト」という言葉があるように、食事の最初にキャベツなどの野菜をとると、食後血糖値の上昇が抑えられることが知られています。

そこで私たちは、海藻を食前に食べる「海藻(シーベジタブル)ファースト」の研究を行いました。

健康な若い女性7名に一定期間を空けて、白飯を食べる5〜10分前にキャベツ40g、またはメカブ40g(1パック)をそれぞれ食べてもらい、白飯のみを食べた場合と食後2時間の血糖値の変化を比較しました。

画像: メカブ摂取による血糖値上昇の抑制効果

メカブ摂取による血糖値上昇の抑制効果

すると、メカブはキャベツ以上に、食後30分、60分の血糖値の上昇を抑えたのです。さらにメカブは、長時間にわたって血糖値の上昇を抑えることも判明しました。

このようにメカブが血糖値の上昇を抑える一因は、メカブのヌルヌル成分が糖質をコーティングしているからと思われます。胃や腸の消化酵素との接触が抑えられ、糖質の消化吸収を緩やかにしているのです。

私たちの研究で、メカブを食べると、GLP-1(インクレチン)という消化ホルモンが小腸から長時間分泌されることも確認できました。

GLP-1には、インスリンの分泌を促し、血糖値を下げる働きがあります。さらに胃の内容物を腸に送り出すのを遅らせて、糖質の吸収を緩やかにする作用もあるのです。

そのほか、GLP-1には、中性脂肪の吸収を阻害する働きや、血圧を下げる作用などがあることもわかっています。

この研究のあと、被験者の家族が食前にメカブを食べるようにしたところ、高かった血糖値が低下したという報告もいただいています。

相乗的な血糖降下作用が期待できる

メカブの血糖上昇抑制作用を、さらに強化するのが納豆。メカブと納豆には食物繊維が豊富などといった共通点が多く、納豆にも血糖値の上昇を防ぐ作用のあることがわかっています。

その一つ、納豆のネバネバ成分は、メカブと同様、糖質にからまり、腸からの糖質の吸収を緩やかにします。

東京農業大学の舘博教授らの研究で、納豆から糖尿病予防ペプチド(アミノ酸が2個以上つながったもの)が発見されました。このペプチドは、GLP-1を分解するDPP4という酵素の働きを阻害して、インスリンの分泌を促すというものです。

つまり、メカブと納豆を合わせて食べると、糖質の吸収が緩やかになったり、インスリンの分泌がさらに促されたりするなどの相乗的な血糖降下作用が期待できるのです。

メカブ納豆は、メカブ1パック(40g)と納豆1パック(40g)を混ぜて1日1回、できれば食前に食べてください。好みで、しょうゆや酢などを適量加えるといいでしょう。

食後血糖値の上昇を抑えるには、食事の最初(メカブ納豆ファースト)にとるのが重要です。メカブ納豆を最初に食べると、満腹感が得られ、ご飯の量も減らせます。それも、血糖値が高めの人によい効果をもたらします。

メカブ納豆は、血糖値が気になる人ならどなたにもお勧めです。ヘモグロビンA1cが高い人は食後血糖値も高い可能性があります。基準値より高いなら、早めにメカブ納豆を食べる習慣を持つといいでしょう。

メカブ納豆の作り方

画像1: メカブ納豆の作り方

【材料】(作りやすい分量)
納豆…1パック
メカブ…1パック

画像2: メカブ納豆の作り方

【作り方】
納豆にメカブを加えて、よく混ぜるだけ!
好みにより添付のタレなどで調味してもよい。メカブに味がついている場合は調味料の量を控える。

画像: この記事は『壮快』2020年11月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年11月号に掲載されています。

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