子供たちに納豆を食べてもらうために考案
チーズと納豆を和えた「納豆あえ」は、愛知県豊田市の学校給食で提供されている献立の一つです。1975年ごろ、初めて給食に登場しました。以来長年にわたり、地域の皆さんに愛されています。
豊田市は、大豆の生産が盛んな地域です。納豆は代表的な大豆加工品ですが、当時この地域では、ほとんど消費されていませんでした。巷ではよく、「西日本はあまり納豆を食べない」といわれますが、実際、この地域には、納豆を食べる習慣が根づいていなかったのです。
けれども、納豆が非常に栄養価の高い食品であることは、周知の事実です。大豆は、「畑の肉」と称されるほどたんぱく質が豊富ですが、納豆は、さらに多くのビタミンやミネラルを含みます。
例えば、納豆1パック(45g)中に含まれるカルシウムは、牛乳1瓶(200ml)の約5分の1に当たる41mg。そのうえ、カルシウムと同じく丈夫で強い骨を作るのに欠かせないビタミンK2の含有量も、食品中でトップクラスです。
また、赤血球を構成するヘモグロビンの材料になり、貧血を予防する鉄も、比較的鉄分の多い食材である牛レバーの約40g分に当たる1.5mgが含まれています。
このように栄養価の高い納豆を、ぜひ子どもたちに食べてもらいたい。そうした願いから、当時の栄養士により、「納豆あえ」すなわちチーズ納豆が考案されました。
納豆をチーズと組み合わせた理由は、子どもたちに人気のチーズ風味にすれば、食べやすくなると考えたからです。
チーズも納豆同様、高たんぱく食品であり、カルシウムやビタミンK2も多く含まれます。丈夫で健康な体づくりにダブルの効果を狙ったのかもしれません。
給食で出したところ、期待どおり、子どもたちから大好評。すぐに定番メニューとなり、45年ほどが経過した今も、不動の人気を誇っています。
「納豆あえ」の基本的な作り方は下に挙げましたが、特徴的な点が、いくつかあります。
一つは、ひきわり納豆を使うこと。
給食に納入される納豆は県内で生産されている「フクユタカ」という品種の大豆で作られているのですが、これがかなり大粒なのです。そのため、子どもたちの口に合うよう、ひきわりを使っています。
ひきわり納豆を使うと、刻んだチーズとちょうど大きさがそろって、絡みやすくなります。これも、食べやすさアップにつながっているかもしれません。
隠し味の砂糖も、このレシピを特徴づける工夫の一つです。
砂糖を加える、といっても、せいぜいひとつまみ程度なので食べて「甘い」と感じるほどではありません。それでも、しょうゆの塩気の角を取り、全体をまろやかに整えるのに、十分な役割を果たしてくれます。
また、乾燥パセリを加えることで、彩りがよくなり、栄養価もアップします。
愛知県豊田市の給食で大人気!「納豆あえ」の作り方

【材料】(1人分)
納豆(ひきわりがお勧め)・・・1パック
プロセスチーズ・・・1個(15g程度の物)
乾燥パセリ・・・少々
しょうゆ・・・小さじ1/2
砂糖・・・少々
【作り方】
❶納豆をよく混ぜる。
❷チーズを5mm角に切る。
❸①に②とパセリ、調味料を加えて和える。
大人にとっても栄養的に大変優れた組み合わせ
この「納豆あえ」が給食に登場する日は、海苔もいっしょに添えられます。子どもたちは、海苔の上にご飯を広げて、「納豆あえ」をのせ、手巻き寿司さながらに、楽しく食べているようです。
もちろん、納豆が苦手な子もいますが、「チーズ入りなら食べられる」というケースは少なくありません。逆に、チーズが苦手でも「納豆と合わせると食べられる」という子もいます。納豆が、チーズの乳臭さをほどよく抑えるのでしょう。
「納豆あえ」が給食の献立として定着してくると、自宅でも「食べたい」とリクエストする子が、たくさん出てきました。そこからチーズ納豆が家庭の食卓に登場し、ひいては地域に広がったようです。
今では、子どもたちが家に帰ってから「納豆あえを食べたよ」と話すと、「それ、お母さんも給食で食べたわ」という返事が返ってくるそうです。
今年は大豆の価格が高騰したうえ、大量納入できる業者が見つからず、納豆を提供できない期間が3ヵ月ほどありました。
献立表に「納豆あえ」が載っていないのを見つけた子どもたちは、がっかり。「え~、今月も納豆ないの?」と、不満の声も聞かれました。ここにきて、ようやく供給体制が整い、給食に復活する目処がつきました。また子どもたちの笑顔が見られるかと、ほっとしています。
「納豆あえ」は、近年では豊田市のご当地レシピとしてテレビで取り上げられるほどまでに浸透し、給食づくりに携わる一人として、うれしい限りです。
給食が発端で広まったとはいえ、もちろん大人にとっても、チーズと納豆は栄養的に大変優れた組み合わせです。
高齢者のたんぱく質不足によるフレイル(心身の脆弱)が、近年、話題となっています。
おいしいだけでなく、植物性と動物性、両方のたんぱく質が同時にとれる「納豆あえ」。健康のためにも、ぜひ食生活に取り入れてみてください。

この記事は『壮快』2020年11月号に掲載されています。
www.makino-g.jp