解説者のプロフィール

内藤裕二(ないとう・ゆうじ)
京都府立医科大学消化器内科学教室准教授、同大学附属病院内視鏡・超音波診療部部長。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。専門は消化器病学、消化器内視鏡学、消化管学、酸化ストレスと消化管炎症、生活習慣病。長年、腸内細菌を研究し続けている腸のスペシャリスト。
▼専門分野と研究論文(CiNii)
ビフィズス菌は腸内の最も中心的な善玉菌
腸内環境は私たちの健康状態に大きな影響を与えています。
腸内環境が整っていれば便通がよくなるのはもちろん、消化や吸収、ビタミン合成などの代謝が促進され、免疫力がアップします。腸は新型コロナ禍の今ますます重要性が高まっている臓器といえます。
この腸内環境を整えるのに、絶好の食品が「チーズ納豆」です。
まず初めに、腸内の善玉菌についてお話ししましょう。
私たちの腸内には約1000種類以上、100兆個もの腸内細菌が棲息しており、これらの細菌が形成する生態系を腸内細菌叢(フローラ)といいます。
ヒトの腸内細菌叢で最も代表的かつ中心的な善玉菌はビフィズス菌です。腸内細菌のうち10%程度を占めています。ちなみに乳酸菌は1%未満です。
私たちは、京都府北部にある京丹後市に住む高齢者の長寿の秘訣を探るため、「京丹後長寿コホート研究」という疫学調査を行っています。
この地域は、100歳以上の長寿者が全国平均の約2.7倍で、大腸ガンの罹患率は半分以下。腸内細菌叢を調べたところ、ビフィズス菌をはじめとする善玉菌が、ほかの地域の人よりも多く存在していました。よい腸内環境は、健康長寿と深いかかわりがあることがわかります。
ビフィズス菌は、腸内で主に二つの役割を担っています。
一つめは、もちろん腸内環境の改善です。
ビフィズス菌は乳糖やオリゴ糖をエサに増え、腸内で発酵を起こすことで、酢酸と乳酸を生成します。
この酢酸は非常に強い殺菌力を持ち、悪玉菌の働きを抑えます。つまり、腸内細菌叢を善玉菌優勢にするのに、ビフィズス菌は重要な役目を果たしているのです。
二つめの役割は、大腸の傷の修復です。
大腸の上皮は薄く、かたい便が通ると傷がつきやすいため、そこから炎症が起こると、さまざまな病気が引き起こされる可能性があります。
この大腸の傷を修復しているのが、ビフィズス菌の生み出す酢酸だということが、我々の最新の研究で判明しました。酢酸が多く生成されれば、腸を健康な状態に保つことができます。
ところが残念ながら、ビフィズス菌は自然の食品中には存在せず、添加されていないかぎりヨーグルトにも含まれません。
チーズの乳糖と納豆のオリゴ糖が腸を健やかに
では、腸内でビフィズス菌を増やすにはどうするか。そこでお勧めなのがチーズ納豆です。
チーズには乳糖が含まれており納豆にはオリゴ糖が豊富なので、ビフィズス菌を増やすことで善玉菌を優勢にして、腸を健やかに保ちます。
先日この話をNHKの番組で解説したところ、大きな反響がありました。チーズ納豆は腸内環境を整える「腸活」に最適な食品といえるのです。
ご承知のとおり、チーズも納豆も良質なたんぱく源です。近年、たんぱく質の摂取が腸内細菌叢に与える影響についての研究が進み、特に植物性たんぱく質のほうが、よい影響を与えることがわかってきました。
チーズは動物性ですが、発酵反応によってアミノ酸やペプチドに分解されているため、植物性である納豆同様に、良質なたんぱく質と考えていいでしょう。
納豆には多彩な健康効果があることが、多くの研究により明らかになっています。発酵食品であるうえ、大豆の食物繊維は腸内の善玉菌のエサになります。単独で食べてももちろん、腸内環境改善の一助になります。
ちなみに、納豆に含まれる水溶性食物繊維は大豆そのものと比べ約1.5倍多く、血糖値の上昇抑制に効果があることがわかっています。糖尿病の人は意識してとるといいでしょう。

チーズの乳糖と納豆のオリゴ糖がビフィズス菌のエサになる!
納豆とチーズはいずれも、ビタミンやミネラルが豊富です。
特筆すべきは、ビタミンK2。血液の凝固や、骨の形成、動脈の石灰化抑制に作用します。納豆はビタミンK2の含有量が多い代表的な食品で、チーズにも多く含まれています。
血栓症などの治療のため、抗凝固剤であるワーファリンを服用している人は、医師から「納豆を食べないように」と指示を受けているはず。これは納豆の血液凝固作用と、ワーファリンの作用が相反するためです。
ビタミンK2が不足すると、出血が止まりにくくなる、骨粗鬆症を発症しやすくなるといったおそれがありますが、過剰摂取による副作用はありません。
そして、ミネラルでいえば、納豆にもチーズにも多く含まれているのがカルシウムです。カルシウムといえば、健やかで丈夫な骨づくりに欠かせません。
ビタミンDと併せてとると腸管からの吸収が高まりますが、幸い納豆には、ビタミンDも多く含まれています。
そう、ビタミンK2やD、カルシウムを豊富に含むチーズ納豆は、骨の強化食としても優れているのです。
このように多くの健康機能を備えているチーズ納豆。ぜひうまく活用して、多方面からの健康づくりに役立ててください。
チーズ納豆の作り方

【材料】(作りやすい分量)
納豆…1パック
粉チーズ…適量

【作り方】
納豆に粉チーズを加えて、よく混ぜるだけ!
※チーズは好みのタイプでOK。
※好みにより添付のタレなどで調味してもよいが、塩分過多にならないよう量を控える。

この記事は『壮快』2020年11月号に掲載されています。
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