解説者のプロフィール

須見洋行(すみ・ひろゆき)
倉敷芸術科学大学名誉教授。1945年、奈良県生まれ。74年、徳島大学医学部大学院修了。九州大学理学部、宮崎医科大学生理学助教授、倉敷芸術科学大学教授などを経て、現職。シカゴ大学マイケルリース研究所で研究中、血栓溶解に働く「プロウロキナーゼ」「ナットウキナーゼ」を発見。納豆研究の第一人者。著者に『納豆は効く 解明された納豆パワーの秘密』(ダイナミックセラーズ出版)など多数。
納豆菌がビタミンK2を作る量は腸内細菌の7倍
2020年6月、「オランダの医師らがビタミンKの欠乏と新型コロナウイルス患者の症状悪化に関連性を発見」というニューズウィーク誌の記事が出て、ビタミンKに注目が集まりました。
新型コロナとの関連はまだ明確ではありませんが、ビタミンKが注目の成分であることは確かです。
ビタミンKは、脂溶性ビタミンの一種で、K1と、K2という二つのタイプがあります。体内吸収率がより高いのがK2で、特に納豆に豊富に含まれています。このビタミンK2に、若さと健康を保つ重要な働きのあることがわかってきました。
その一つが血管を柔軟にして動脈硬化を防ぐ効果です。
高血圧などによって、血液中の余分なカルシウムが血管壁に沈着すると、血管がかたくなる、石灰化という現象が起こります。
ビタミンK2には、血管壁からカルシウムを抜き取り、骨へ移動させる作用があります。これによって、動脈硬化を防ぐ効果が期待できるのです。
納豆は、ほかにもナットウキナーゼの働きで血液をサラサラにする効果もあります。
納豆を常食すると、ビタミンK2やナットウキナーゼなどの有効成分の相乗作用により、血管がやわらかく、若々しく保たれると考えられるのです。そのため、高血圧の予防・改善にも役立ちます。
もう一つ、ビタミンK2には女性に多い骨粗鬆症の予防効果があります。
ビタミンK2は丈夫な骨づくりに欠かせないビタミンです。骨に存在するオステオカルシンという物質を活性化します。そして、動脈壁から抜き取ったカルシウムを骨に沈着させて、骨の形成を促す作用があるのです。
このビタミンK2をヒトに投与すると、骨量が増えることがわかっており、現在、骨粗鬆症の治療薬としても使われています。
本来、ビタミンK2は、食事から摂取するものではなく、私たちの腸内細菌が作り出すものです。
抗生物質を服用したり、添加物の多い食品をとったりして、腸内環境が悪化すると、ビタミンK2をつくり出す能力が落ち、その結果として、骨が弱くなるのです。
納豆にはビタミンK2が豊富に含まれているため、ビタミンK2の補給源となります。それと同時に、納豆に含まれる納豆菌が、ヒトの腸内細菌が通常つくる量の、7倍ものビタミンK2をつくり出すのです。
本来の腸内細菌の働きを、納豆菌がかわりに果たしてくれるといってもいいでしょう。
納豆消費量が多い東日本は大腿骨骨折が少ない
骨粗鬆症の人に多い、大腿骨骨折の人口当たりの割合は、興味深いことに、東日本よりも西日本のほうが高い傾向にあります。都道府県別で比べると、最も発生率の高い沖縄県と、最も低い秋田県では、発生率が2倍以上違っているのです(骨粗鬆症財団の調査)。
こうした違いを生み出しているのが、納豆のビタミンK2であると考えられています。
血液中のビタミンK2の濃度を測ると、西日本より東日本の人のほうが高いのです。ご存じのように、納豆は西日本では消費量が少なく、東日本ではよく食べられています。
こうした事例を見ていくと、まさに納豆をよく食べる地域では、その常食が血中のビタミンK2を増やし、骨を丈夫にしている。そういう相関が見えてきます。
さらに、納豆には大豆イソフラボンも含まれています。
女性は閉経を迎えると、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急減し、骨粗鬆症となる確率が非常に高まります。
大豆イソフラボンは、その構造がエストロゲンに似ているため、大豆イソフラボンを摂取すると、それがエストロゲンのかわりに働いて、骨粗鬆症予防に役立つのです。
いつまでも若々しい血管を保つため、さらに丈夫な骨を維持するためにも、ぜひ納豆を毎日とることをお勧めします。
ビタミンK2は、納豆のネバネバの強い物ほど、多く含有されていることがわかっています。動脈硬化や骨粗鬆症の予防の観点からいえば、ネバネバの度合いが高い納豆を選ぶといいでしょう。

ネバネバが強い納豆ほどビタミンK²が多い!
私は、長年、納豆の研究を続けています。その関係で、今でも多くの地域から研究室に納豆が送られてきます。それらの納豆を朝昼晩の食事ごとに、必ず1~2パックいただいています。そのおかげか、75歳になる今も、とても元気に研究を続けられています。
納豆の食べ方はオーソドックスなものです。刻んだネギを散らし、カラシを加えるくらいです。味つけは、海藻を含んだ市販のタレを使っています。
納豆は単体で食べるだけでなく、ほかの食品と組み合わせてもいいでしょう。例えば、納豆とメカブやモズクなどの海藻類をいっしょにとるのは、大いに推奨できます。納豆と海藻の多様な健康効果を得ることができるからです。
皆さんもいろいろな組み合わせを楽しんでください。

この記事は『壮快』2020年11月号に掲載されています。
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