納豆には多くの健康効果に加え、強い抗菌作用があり、抗ウイルス作用があることもわかってきました。また今年発表された国立がん研究センターによる大規模疫学調査で、心筋梗塞や脳梗塞による死亡リスクを下げられることも証明されました。【解説】須見洋行(倉敷芸術科学大学名誉教授)

解説者のプロフィール

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須見洋行(すみ・ひろゆき)
倉敷芸術科学大学名誉教授。1945年、奈良県生まれ。74年、徳島大学医学部大学院修了。九州大学理学部、宮崎医科大学生理学助教授、倉敷芸術科学大学教授などを経て、現職。シカゴ大学マイケルリース研究所で研究中、血栓溶解に働く「プロウロキナーゼ」「ナットウキナーゼ」を発見。納豆研究の第一人者。著者に『納豆は効く 解明された納豆パワーの秘密』(ダイナミックセラーズ出版)など多数。

インフルエンザの増殖を抑え抗体を増やす

近年、納豆が再び注目を集めています。免疫を上げる食品として、新型コロナウイルスの感染予防や重症化を防ぐことに役立つのではないかと話題になっているのです。

確かに、納豆にはそうした期待をさせるほど、多くの健康効果があるのは間違いありません。ここでは、納豆の代表的な健康効果について、順に説明しましょう。

感染症予防効果

納豆には強い抗菌作用があります。ブドウ球菌、赤痢菌、チフス菌などのほか、病原性大腸菌O-157に対しても抑制効果のあることが判明しています。さらに、抗ウイルス作用があることもわかってきました。

2000種類以上ある納豆菌の一つに、「S-903」という納豆菌があります。マウスにこの納豆菌の入ったエサを1週間食べさせたのち、インフルエンザに感染させ、ウイルス量や抗体(ウイルスから体を守る物質)の量を計測しました。

すると、マウスの体内でインフルエンザの増殖が抑えられ、感染後、体内での抗体量を増やす効果のあることが確認できました。

S-903だけに限りませんが、納豆菌は腸内で乳酸菌などのさまざまな善玉菌を活性化させたり、悪玉菌の増殖を抑えたりして腸内環境を改善し、胃腸の働きを整えます。

胃腸が弱ると体力も低下し、インフルエンザにも感染しやすくなるため、こうした面からの感染症予防にも役立ちます。新型コロナに対しては、まだはっきりとはわかりませんが、予防効果は大いに期待できると思います。

血栓を溶かす作用

私が、納豆からたんぱく質分解酵素である「ナットウキナーゼ」を発見したのは、1980年、シカゴ大学の研究所で血栓(血の塊)の研究中のことでした。

日本の食品が恋しくなり、納豆を食べていたときに思いついたのです。大豆のたんぱく質を溶かす納豆菌は、血栓のたんぱく質も溶かすのではないかと。

実験してみると、納豆菌は、当時研究していた血栓溶解酵素よりも、短時間でたくさんの血栓を溶かしたのです。これが、私と納豆との長いつきあいの始まりでした。

特に驚くべきことは、その効果の持続力です。

心筋梗塞に使われる注射薬の、血栓を溶解する持続時間は4~20分。一方、ナットウキナーゼは、口から摂取したもので、8~12時間も作用し続けるのです。

納豆を食べてナットウキナーゼが体内で働けば、血液がサラサラと流れやすくなるので、高血圧や脳卒中、心筋梗塞などの予防効果が期待できます。

認知症の2割を占める脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血が原因となり、血栓が脳の血管に詰まることがきっかけで起こります。日ごろからナットウキナーゼで、心・血管障害を予防できるなら、それが同時に、認知症予防にもなるはずです。

また、認知症の半数以上を占めるアルツハイマー型についても、その主因といわれるアミロイドβ(たんぱく質の一種)をナットウキナーゼが分解する可能性が示唆されています。

アレルギー疾患を予防し老化を遅くする効果も

腸内環境の改善効果

先述のように、納豆菌や納豆に多く含まれる水溶性食物繊維が腸内環境を改善すると、腸の動きが活性化します。便秘の改善はもちろん、消化・吸収も促進され、免疫力も上がります。

豊富なビタミン・ミネラルの働き

納豆は、肝臓の働きを助けるビタミンB2、貧血を防ぐB12、老化防止に役立つビタミンEなど、多くのビタミン類を含みます。なかでも、ビタミンK2は、動脈硬化や骨粗鬆症の予防効果を持つため、脚光を浴びています。

また、納豆にはカルシウムをはじめとして、マグネシウム、鉄、カリウム、亜鉛、銅などのミネラルが含まれています。例えば、マグネシウムは、補酵素として代謝を高めたり、神経の興奮を鎮めたりする作用があります。

画像: 病気退治のビタミン、ミネラルが豊富

病気退治のビタミン、ミネラルが豊富

女性ホルモン様効果

女性ホルモンのエストロゲンと似た構造をしている、納豆の大豆イソフラボンは、女性ホルモンと同様の働きをします。

女性は閉経後、エストロゲンの分泌が急減し、さまざまな不定愁訴(頭痛、ほてり、イライラ、動悸、めまいなど)に襲われます。大豆イソフラボンは、女性ホルモンの代用物として働き、これらの不定愁訴を和らげる効果があります。

慢性炎症を抑える効果

納豆には、たんぱく質の一つであるポリアミンも多く含まれています。ポリアミンは、体内の慢性炎症を抑制したり、細胞の代謝を活性化したりする働きがあります。

動脈硬化やアレルギー疾患の予防効果老化を遅くする効果などが期待できるとされています。

血小板凝集抑制作用

最近、私が興味を持って研究しているのが、ピラジン化合物という納豆の香気成分です。大豆には存在せず、納豆菌によって産生されます。

この成分は、血液中の血小板の凝集を抑制する働きを持ち、血液をサラサラにしてくれます。ナットウキナーゼの血栓溶解作用にも、同様の血液サラサラ効果がありますから、両者がともに働き、血液の状態を浄化してくれると考えられるのです。

納豆には、このように多くの有効成分が存在し、それらが補い合って働くことで、強力な健康効果をもたらしていると考えられます。

疫学調査では心臓疾患の死亡リスクが約20%低下

今年のはじめ、国立がん研究センターによる大規模疫学調査の研究結果が発表されました。

この研究は、全国の成人男女約9万人を対象として、納豆やみそなどの発酵大豆食品の摂取量と病気による死亡リスクとの関連性を、15年間にわたって追跡調査したものです。

とても興味深い結果が出ています。

例えば、納豆を毎日26g(約2分の1パック)以上食べる群では、全く食べない群と比べ、心臓疾患による死亡リスクが男女とも約20%低下していました。

納豆を食べることで、心筋梗塞や脳梗塞による死亡リスクを下げられることが証明されたのです。

納豆が心疾患のリスクを減らすことについては、ナットウキナーゼやビタミンK2、ピラジン化合物などの有効成分が影響していると考えられます。いずれにしても、納豆の常食によって、このような大きな違いが生み出されてくるのです。

皆さんも多彩な健康効果を有する納豆を食べて、病気を寄せつけない体になってください。

納豆に期待できる代表的な健康効果

① 感染症予防効果
納豆菌には、抗菌作用、抗ウイルス作用があり、病原性大腸菌O-157の抑制効果や、インフルエンザの予防効果などが期待できる。

② 血栓を溶かす作用
納豆のたんぱく質分解酵素であるナットウキナーゼには、血栓を溶かし、血液をサラサラにする効果がある。高血圧、心筋梗塞、脳卒中から認知症まで予防効果が期待できる。

③ 腸内環境の改善効果
納豆菌や納豆に豊富な水溶性食物繊維が腸内環境を改善し、腸の動きを活性化。便秘の改善、消化・吸収の促進による免疫力の向上も期待できる。

④ 豊富なビタミン・ミネラルの働き
納豆は、肝臓の働きを助けるビタミンB2、貧血を防ぐB12、老化防止に役立つビタミンE、動脈硬化や骨粗鬆症の予防効果を持つビタミンK2など、ビタミン類が豊富。カルシウムをはじめ、体の機能維持に必要なマグネシウム、鉄、カリウム、亜鉛、銅などのミネラル類も多く含む。

⑤ 女性ホルモン様効果
納豆の大豆イソフラボンが女性ホルモンと同様の働きをすることで、女性の更年期以降の不定愁訴(頭痛、ほてり、イライラ、動悸、めまいなど)や骨粗鬆症の改善に役立つ。

⑥ 慢性炎症を抑える効果
納豆のポリアミンは、体内の慢性炎症の抑制や、細胞の代謝を活性化する働きを持つ。動脈硬化やアレルギー疾患の予防効果、老化を遅くする効果などが期待できる。

⑦ 血小板凝集抑制作用
納豆菌によって産生される香気成分のピラジン化合物は、血液中の血小板の凝集を抑制する働きを持ち、血液をサラサラにする。

⑧ 血糖値の上昇を防ぐ働き
納豆のネバネバ成分が、腸からの糖質の吸収を緩やかにし、血糖値の上昇を抑制。インスリンの分泌を促進する成分(ペプチド)も発見される。

画像: この記事は『壮快』2020年11月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年11月号に掲載されています。

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