解説者のプロフィール

小松隆央(こまつ・たかお)
こまつ鍼灸院院長、小松式高麗手指鍼研究会代表。高麗手指鍼の理論を元に、頸椎症の治療や、腎臓病の進行を防ぎ、人工透析を回避するための独自の治療を行い、成果を挙げている。著書に、『腎臓病との闘い方、お教えします』(現代書林)がある。
▼こまつ鍼灸院(公式サイト)
手のひらにある「腎臓のポイント」を刺激
私は20年ほど前から、手のひらに鍼を打つ「高麗手指鍼」という療法で、腎臓病や頸椎症の治療に当たってきました。
現在、当院の患者さんの約6割は腎臓病で、その多くは、人工透析を宣告されるような重症患者さんです。それでも、約7割の方に効果があり、透析を先延ばしにしたり、クレアチニンの数値が改善できたりしています。
私が腎臓病に力を入れるようになったのは、急性糸球体腎炎の患者さんを治療したのがきっかけでした。その方は「将来、人工透析か腎移植になる」と医師から言われていましたが、私の治療でどんどんよくなっていき、6~7年でほぼ寛解したのです。
この経験から、高麗手指鍼が腎臓病に効果があることを確信し、腎臓病に特化した治療を行うようになりました。
私が行っている高麗手指鍼は、1975年に韓国の柳泰佑氏が創案したものです。私は、これに日本人の体質や病気などを加味し、改良を重ねて、現在の「小松式高麗手指鍼」を完成させました。
高麗手指鍼の基本的な考え方は、手に全身の臓器と経絡(生命エネルギーである気の通り道)が縮図化されているというものです。手を広げると、中指の一番上が頭で、そこから甲側に背骨が伸び、手のひらに全ての内臓があると考えます。
この手のひらにある腎臓のポイントを、鍼やお灸で刺激すると、反応が腎臓に現れて、腎臓の機能の回復や、病気の進行の抑制に役立ちます。
もう少し具体的に説明しましょう。
高麗手指鍼には、抗炎症作用や血流促進作用があることが分かっています。ですから、腎臓のポイントを刺激すると、慢性腎炎のように腎臓に炎症を起こしている病気では、炎症が速やかに引いていきます。
また、腎不全のように、ネフロン(腎臓で尿を作るシステム。糸球体とボーマン嚢から成る腎小体と尿細管が一つの単位。片方の腎臓に約100万個ある)が少しずつ死滅していく病気では、ネフロンの血流が促されて、ネフロンが復活します。
もちろん、完全に死んでしまったネフロンは元に戻りませんが、仮死状態なら、よみがえる可能性が高いのです。さらに高麗手指鍼には、免疫(体の防衛機構)を強化する作用があるので、自然治癒力が引き出され、悪いところが自然に治っていきます。
体に害なく行える腎臓のセルフケア
当院の患者さんには、来院していただいての鍼治療に加え、自宅では、セルフケアとして、手のひらにお灸をするように勧めています。お灸は、鍼ほど強力ではありませんが、毎日続ければ、鍼と同じような効果が期待できます。
やり方は次の通りです。
腎臓のポイントは、中指の付け根の横ジワの中央と、手首の一番上の横ジワを結ぶ点の中間点から、小指側に5mmほど真横に行ったところにあります。

腎臓のポイントの位置。
❶その辺りを、つまようじのとがっていない側で強く押すと、痛みを感じるところがあります。そこがポイントです。

つまようじのとがっていない側で押し、特に痛い点を探す。
❷そこに市販のお灸をはり、火をつけます。最初は、ヤケドをしないように、熱くなったら外します。

お灸は、「熱くなってきた」と感じた時点で外す。
腎臓が悪い人ほど熱さを感じにくいのですが、何回かやっているうちに熱さを感じるようになります。そうなったら、2回、3回と続けてお灸をします。じんわりした熱で、20分くらい温めてください。
糖尿病があり、糖尿病性腎症が心配な人は、腎臓の2cmくらい小指寄りにある膵臓のポイントにもお灸をすると、糖尿病の進行を抑えられます。

膵臓のポイントは腎臓のポイントから2cmほど小指側に入ったところ。
効果をさらに高めるには、つまようじを4~5本束ねて、とがっている側で、腎臓のポイントを痛くない程度にツンツンと押します。お灸と交互にすると、効果的です。

腎臓のポイント周辺を痛くない程度に刺激する。
お灸は、基本的には両手に行いますが、両手にするのが大変な場合は、後天的な体質を表す左手だけにしてもいいでしょう。
また、入浴の前後30分を除けば、いつしても、何回しても構いません。すればするほど効果があります。
お灸のよさは、体への害が一つもないことです。子どもからお年寄りまで、誰がしても安全です。そして、どんな人にも、一律に効果があります。
腎臓病は自覚症状が少ないので、効果が分かりにくいのですが、続けるうちに、クレアチニンの数値が改善したり、病状の進行が止まったり、という例も多くみられます。また、「だるさが取れて、体が軽くなった」「体調がよくなった」という声もよく聞きます。
ただし、注意していただきたいのは、西洋医学の診療を受け、食事療法もきちんと行った上で行う、ということです。ここがおろそかになっていると、鍼やお灸の効果も見込めません。
それに留意した上で、自分でできる腎臓の養生法として、ぜひ、手のひらお灸をお試しください。

この記事は『安心』2020年10月号に掲載されています。
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