当院では「低下した腎臓の機能を、大腸に代わって果たしてもらう」という、東洋医学の発想に基づく治療を、漢方薬とツボ刺激で行っています。そのうち、ツボ刺激は市販の円皮鍼(置き鍼)やお灸を使って、ご家庭でも行うことができます。【解説】足立裕一(足立医院院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

足立裕一(あだち・ゆういち)
足立医院院長。日本東洋医学会認定専門医。西洋医学に東洋医学の鍼、漢方薬等の治療を取り入れた診療を行い、慢性腎不全のほか、嚥下障害、難治性疼痛、脳卒中後の片マヒ、拘縮・失語症、脊髄損傷によるマヒ、心疾患・肺疾患による呼吸苦、めまい、耳鳴り、睡眠時無呼吸症候群、複視、味覚障害、難治性しゃっくりなど、西洋医学が苦手とする症状の治療に効果を上げている。在宅医療やがんの緩和医療にも力を入れている。

腎臓の機能を大腸に代替させる

当院では西洋医学に加え、7年前から鍼や漢方薬といった東洋医学的アプローチを取り入れた診療を行っています。透析回避に高い成果が上がっていることから、現在は日本全国から慢性腎臓病に苦しむ患者さんが来院しています。

東洋医学の特徴は、病気が発症する前の「未病」の段階から対策を講じること。また、体を細切れの「部分」の集合体ではなく、「全体」として捉えることです。

腎臓の機能が低下すると、本来尿から排出している老廃物や代謝産物、毒素が血液中に残留しやすくなります。

尿臭のもとであるアンモニアなどの尿毒素を多く含む血液が体内を巡り、汗や呼気を通じて排出されることで、体臭や口臭がおしっこ臭くなってくるという現象がよく見られます。

これは見方を変えれば、尿が担っていた尿毒素の排出を、わずかながら汗や呼気が代わって果たしているとも言えます。

そこから「低下した腎臓の機能を、最大の排泄機能を持つ大腸に代わって果たしてもらう」という東洋医学の発想に基づく治療を行っているのです。

それでは、当院で行っている、慢性腎臓病に対する東洋医学的治療について、詳しく説明しましょう。

まずは漢方の下剤を使い、大腸の機能を高めて、腸から排泄を促します。

強い冷えとエネルギー不足による胃腸障害を改善する「附子理中湯(ぶしりちゅうとう)」に、緩下作用を持つ生薬(漢方薬の原材料となる動植物、鉱物などの天然物)である「大黄(だいおう)」を配合して処方しています。

大黄には尿毒素の産生自体を抑制する作用もあります。そのため、この処方は単なる対症療法ではなく、根本的治療になると、私は考えています。

鍼治療では、背骨の両脇にある「胃兪(いゆ)」と「脾兪(ひゆ)」という消化器を活性化するツボを刺激します。

東洋医学では、五臓(心・肝・腎・肺・脾)が陰=月、六腑(胃・小腸・大腸・胆嚢・膀胱・三焦)が陽=太陽。太陽が光れば月が輝くということから、五臓を元気にするには六腑を活性化すればよい、と考えます。

胃兪と脾兪を刺激することで、胃・小腸・大腸を活性化させることができます。それによって、大腸からの毒素の排出を促すほか、腎(腎臓)をはじめとする五臓に好影響を与えることができるのです。

漢方薬の処方は、大黄の配合量や下痢のコントロールなどで専門家の細やかな見極めが必要です。けれども、ツボ刺激は市販の円皮鍼(えんひしん)(置き鍼)やお灸を使って、ご家庭でも行うことができます

当院でも最初だけ私が鍼治療を行いますが、その後は患者さんに各自で円皮鍼をはって、実践していただいています。

ツボ療法のやり方

詳しいツボの位置の見つけ方は、下記を参照してください。ツボの位置が多少ずれていても問題ありません。

円皮鍼は週2回くらいはり替えましょう。お灸の場合も週2回行えば十分です。

なお、むくみがひどい場合は、胃兪脾兪と合わせて「三焦兪(さんしょうゆ)」も刺激すると、より効果的です。

こうして漢方薬と鍼治療を行うと、患者さんは「臭い便がたくさん出始めた」と言います。同時に体臭や口臭からおしっこ臭さが消えていき、血液検査の結果もよくなっていくのです。

【円皮鍼とは】
0.5~2mm程度のごく短い鍼がシールに付いたもの。置き鍼、シール鍼などとも呼ばれる。
※セルフケア用には、鍼ではなく粒がついた接触型(刺さらないタイプ)が薬局・ドラッグストア等で購入できます。

画像1: ツボ療法のやり方

【やり方】
脾兪、胃兪、三焦兪(むくみが強いとき)に、円皮鍼をはる。またはお灸を据える。

画像2: ツボ療法のやり方

脾兪▶︎
ひじの高さにある背骨の突起(第十二胸椎棘突起)とその上の突起の間で、人さし指と中指の幅分、左右外側に進んだところ

胃兪▶︎
ひじの高さにある背骨の突起(第十二胸椎棘突起)とその下の突起の間で、人さし指と中指の幅分、左右外側に進んだところ

三焦兪▶︎
胃兪の約3cm下

漢方薬と鍼治療で数値が改善した例

漢方薬とツボ刺激での実際の症例を3例ご紹介しましょう。

Hさん(61歳・男性)は高血圧性腎硬化症で、かかりつけ医に透析を勧められるも、なんとか透析を回避したいと、当院のホームページを見て2017年5月に来院されました。当時の血清クレアチニン値は4.79mg/dlでした(男性の基準値は1.2mg/dl以下)。

すぐに漢方薬や鍼治療を導入したところ、10月には数値が1.97mg/dlまで下がりました。2018年に奥さまを亡くしたストレスが影響し5.73mg/dlに上昇しましたが、2ヵ月後の9月には3.62mg/dlに
低下。それから現在まで3mg/dl台をキープしていて、透析は回避できています。

同じく高血圧性腎硬化症のTさん(女性)は、現在88歳。2018年には血清クレアチニン値が1.79mg/dlで、2019年には2.03mg/dlと、徐々に上がってきていました(女性の基準値は1.0mg/dl以下)。

2019年11月から鍼治療を導入しましたが、それ以降も数値の上昇が止まりません。今年3月には5.16mg/dlまで上がってしまいましたが、諦めず治療を続けると、なんと5月に4.74mg/dl、7月には4.17mg/dlと下がってきました。通常ならこの年齢で、いったん上がったクレアチニン値が下がることは、まず期待できません。これは快挙だと思います。

Nさん(69歳・男性)は、糖尿病で長年、当院に通っていた方です。2008年に1.0mg/dlだった血清クレアチニン値は、2012年には3.19mg/dlに上昇。糖尿病性腎症となり、2013年から鍼治療を導入。

それからも数値は徐々に上がっていたのですが、症状がないため、透析には至りませんでした。昨年5月にクレアチニン値13.41mg/dlとなり、胸水がたまってきたため、6月についに透析開始となりました。それでも、発症から7年も透析なしで過ごせたのは、特筆すべきことです。

私は40歳で開業して以来、「どんな病気にも対応できる、地域の氏神のような存在でありたい」と思い、患者さんの治療に当たってきました。それができるのは、漢方薬と鍼治療という東洋医学の手法を身につけたからこそだと思っています。

皆さんも、ぜひツボ刺激を実践してみてください。

画像: この記事は『安心』2020年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年10月号に掲載されています。

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