回答者のプロフィール

森維久郎(もり・いくろう)
腎臓内科医。三重大学医学部医学科卒業。東京医療センター研修医、千葉東病院腎臓内科・糖尿病内科、東京北医療センター総合内科/腎臓内科、ふくだ内科を経て、2020年5月に「赤羽もり内科・腎臓内科」を開業。人工透析予防や生活習慣病の予防を目指し、診療を行っている。webサイト「腎臓内科.com」で、腎臓病の情報を積極的に発信中。
▼赤羽もり内科・腎臓内科(公式サイト)
▼腎臓内科.com(森先生が発信する腎臓の情報サイト)
Q1. 腎機能が低下すると何がよくないのですか? そもそも、腎臓病ってどんな病気ですか?
A1.
腎機能が低下し、正常な働きをしなくなった状態が、腎臓病です。腎臓病になると、体に老廃物がたまり、多様なリスクがあります。
腎臓は、背中に二つある握りこぶし大の臓器です。腎臓は体内で多くの働きをしていますが、一番大切なのは、「体に必要なものを体内にとどめ、不要なものを尿として外に出す」というものです。
何らかの理由でその機能(腎機能)が低下して、正常な働きをしなくなっている状態のことを、腎臓病といいます。
腎機能が低下すると、それまで腎臓が担っていた仕事ができなくなり、さまざまな問題が起こってきます。
老廃物が体にたまっていくと、だるさが出るだけでなく、尿毒症や高カリウム血症などを引き起こして、命に関わることもあります。病状が進行すると、最終的には人工透析や腎移植が必要になります。
腎臓は血液や筋肉、骨を作る働きもしているので、腎機能が衰えてくると、貧血になったり、筋肉や骨が衰えたりもしてきます。
また、腎臓病になると、心筋梗塞(心臓の血管が詰まって起こる病気)や、心不全のリスクも高くなると言われています。
このように、腎臓病になると、全身に多様な悪影響が起こりますから、決して軽視してはいけません。

尿を作るだけじゃない! 腎臓のさまざまな働き
Q2. 腎臓病にはどんな種類がありますか?
A2.
糸球体腎炎や腎盂腎炎など多数ありますが、現在最も多いのは、「糖尿病性腎症」です。
腎臓病には、糸球体腎炎や腎盂腎炎、糖尿病性腎症、IgA腎症、腎硬化症、ネフローゼ症候群、多発性嚢胞腎など、いろいろな種類があります。
これらによって腎機能が慢性的に落ちた状態が、慢性腎臓病(CKD)です。
この中で、患者数が最も多く、透析患者も多いのは、糖尿病性腎症です。しかし、糖尿病の怖さが一般に啓蒙された結果、この10年で、糖尿病患者のヘモグロビンA1cの平均値は0.5%ほど下がりました。ですから、今後、糖尿病性腎症は減少してくる可能性があります。
その代わりに問題になってくるといわれているのが、高血圧によって起こる、高齢者の腎硬化症です。今後は、この腎臓病の割合が増えていくと考えられます。

人工透析になっているのは糖尿病性腎症の患者が最も多い
Q3. 腎機能が低下していると言われました。どの診療科にかかったらいいですか?
A3.
まずは内科、またはかかりつけ医の受診を。高血圧や糖尿病をしっかり治療することが重要。
腎機能低下の原因によって、対処は違います。高血圧や糖尿病があったら、まずそれをしっかり治療することが大事です。
また、腎臓病のタイプに関わらず、塩分を控え、しっかり運動してください。
腎臓専門医は少ないので、受診する科は一般内科でいいでしょう。最初は内科で診てもらい、重症化したら腎臓内科に移るというのが一般的な流れです。かかりつけ医がいたら、まずは相談してみましょう。
Q4. 「尿たんぱく」「クレアチニン」「eGFR」って、何ですか?
A4.
いずれも腎臓の機能を示す数値です。尿たんぱくは未来の腎臓の状態、クレアチニン、eGFRは現在の腎臓の状態を示します。
●尿たんぱくとは?
たんぱく質は私たちの体にとって必要なもののため、腎臓が正常に機能していれば、体外に排出されることはありません。尿たんぱくは、それが尿に出て混じっている状態のことで、腎臓のろ過機能の低下を示しています。
この段階で、きちんと検査をし、適切な治療をすれば、尿たんぱくを陰性にすることも可能です。なお、「たんぱく質をたくさんとっているから、尿たんぱくが出ている」と誤解している方が、ときどきいらっしゃいますが、たんぱく質の摂取量と尿たんぱくは、全く関係ありません。
●クレアチニンとは?
クレアチニンは、筋肉で作られる老廃物の一つです。通常は腎臓でろ過された後、尿に排出されますが、腎機能が衰えてくると、ろ過がうまく行かず、血液中に残ってしまいます。
ですから、その血中濃度(血清クレアチニン値)が高いほど、腎機能が低下している可能性があります。クレアチニン値は、血液検査で分かりますが、問題点もあります。高齢者だったり、男性だったりすると、同じ値でも、実際の重症度が変わってしまうのです。
そのため最近は、腎臓病の重症度の判定には、年齢、性別、クレアチニン(血清クレアチニン値)を合わせた指標である、eGFRを使用するのが主流となっています。
●eGFRとは?
eGFRは、クレアチニン値に年齢、性別を加味して算出した指標で、糸球体(腎臓でフィルターの役割を果たす部分)でどれくらいの量の血液がろ過されたかを示す値です。といっても、ピンとこないですよね。
そこで、ものすごくざっくりいうと、健康な人の腎臓を100とした場合、どの程度の腎臓の能力があるかを示す数値が、eGFRです。例えば30なら、腎機能が30%に衰えている、というふうに考えると、分かりやすいでしょう。
eGFR値で、腎臓病の重症度が5段階に分けられています。これが10を切ると、腎臓だけで体の毒素を排出できなくなり、人工透析や腎移植が必要となります。

eGFR値と腎臓病の重症度
私がよく患者さんにお伝えしているのは、「クレアチニン、eGFRは現在の腎臓、尿たんぱくは未来の腎臓の状態を表す」ということです。
クレアチニンやeGFRの数値が悪化してからの回復は、まず望めませんが、尿たんぱくが出た時点で手を打てば、未来の腎臓を守ることができます。
Q5. 腎臓病の検査法は、どんなものですか。検査は痛いですか?
A5.
採尿、採血、超音波の三つの検査が基本。採血以外は、痛くありません。
採尿検査、採血検査、超音波検査(エコー)の三つが基本です。
尿検査では、尿たんぱくと尿潜血、血液検査ではクレアチニン(Cr)、eGFRを中心に評価します。合併症については、尿素窒素(BUN)、カリウム(K)、重炭酸イオン(HCO3)などの数値を見ます。
また、腎臓は背景にある病気によって、形状が変わります。例えば、腎臓が萎縮していたり、表面がザラザラしていたりする場合は、動脈硬化が原因の可能性があり、肥大している場合は、糖尿病が原因の可能性が高くなります。
そこで、超音波検査で形や大きさを見ることで、どの病気が関わっているかを、ある程度判断できます。ちなみに、採血以外の検査は痛くありません。
この他にも、血圧や脈波の検査、頸動脈エコー、眼底検査などを行うこともあります。
確実に診断をつけるには、腎生検という検査が一番正確ですが、これは腎臓に針を刺して組織を採取するというもので、体にかなり負担がかかります。ですから、本当に必要なときのみに行います。
Q6. 糖尿病ですが、健康診断で腎機能の低下は指摘されていません。それでも、合併症の腎障害が心配です。気をつけるべきことはありますか?
A6.
尿たんぱくが出たら、必ず医療機関を受診してください。放置は禁物です!
糖尿病で血糖値が高い状態が長年続くと、腎臓に障害が起こります。これが「糖尿病性腎症」で、糖尿病の合併症の一つです。そして、患者数の最も多い腎臓病です。
やっかいなのは、糖尿病性腎症は、糖尿病を発症してから10~15年間は症状が全くなく、eGFRも正常範囲内にあることです。
そのため、「大丈夫だろう」と放置されがちなのですが、実は、その間ずっと、腎臓には負担がかかっています。
そして、ある点を超えると、急激に腎機能が落ちます(グラフ参照)。ここを超えてしまうと、どんな治療をしても、腎臓病のコントロールは難しくなってしまいます。

糖尿病で尿たんぱくが出ている人は要注意。15年たつと、腎機能が急激に落ちる!
そこで、糖尿病の方にお伝えしたいのが、「尿たんぱくが出たら、必ず医療機関を受診してほしい」ということです。
もう一度、上のグラフをご覧ください。糖尿病性腎症を発症してから、5年ほどで尿たんぱくが出始め、年がたつごとにじわじわと増えていくのが分かります。
これは、腎臓からのSOSのサインです。このサインを無視せず、医療機関を受診して適切に対処すれば、糖尿病性腎症の悪化を防ぐことができ、それが、ひいては人工透析を防ぐことにもつながります。「大丈夫だろう」は、禁物です。
適切な糖尿病の治療を受け、血糖値のコントロールを心がけることは、糖尿病性腎症を悪化させないための大前提です。また、血圧が高い人は、その治療を受けることも大切です。
それと合わせて、運動もしっかり行ってください。足腰に問題がなく、体力もある方なら、1日に8000歩は歩くことをお勧めします。

この記事は『安心』2020年10月号に掲載されています。
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