解説者のプロフィール

馬渕知子(まぶち・ともこ)
学校法人食糧学院副学院長・マブチメディカルクリニック院長。東京医科大学医学部医学科卒業。マブチメディカルクリニックを開設、現在に至る。専門は内科学、皮膚科学であるが、あらゆる科と提携を結び、多面的に人間の体を総合的にサポートする医療を推進している。
10代や20代といった若い世代も白髪に悩む
シニアの髪のお悩みアンケート結果(安心編集部まとめ)
髪に関するお悩みトップ5
[1位]白髪、[2位] 薄毛、[3位] 抜け毛、[4位] 臭い、[5位]かゆみ
髪を染める頻度は?
[月に1回]60%、[2ヵ月に1回]25%、[週に1回]5%、[3ヵ月に1回]5%、[半年に1回]5%
グレイヘア(白髪を染めず、白髪を生かしたヘアスタイル)について、どう思う?
[実年齢より老けて見えると思う]60%、[ステキだと思う]15%、[実践したいが、勇気がない]10%、[どうとも思わない]10%、[実践したことがあるが、老けて見えたのでやめた]5%
白髪が気になり始めるのは、早ければ30代、たいていは40代に入ってから。一般的にはそう思われています。しかし、最近は10~20代といった、若い世代の患者さんからの白髪相談が増えています。医師の間でも、このことが話題に上るほどです。
つまり「白髪になるのは年のせい」と、単純には言い切れないようです。では、どうして白髪になってしまうのでしょうか?
最近になり、白髪の発生にはストレスが大きく関わっていることが、ハーバード大学で行われた実験によって、分かってきました。
その実験の内容を紹介するに当たって、まず、髪に色がつく仕組みから説明します。
実は、髪はそもそも白髪の状態で生えてきます。髪は頭皮にある毛根で作られていますが、できたばかりの髪は、色がついていない状態なのです。
この白髪に色をつけるのが、毛根にある「色素幹細胞」という細胞です。
色素幹細胞は、黒褐色をしたメラニン色素を生成します。それが髪に投入されて初めて、黒髪になるのです。ちなみに、メラニン色素の色や濃度は、人種によって違います。金髪や茶髪など、いろいろな髪色があるのは、その違いによるものです。
毛根の色素細胞が枯渇すると白髪になる
さて、ハーバード大学の実験に話を戻しましょう。この実験では、ラットにストレスを与えると、体毛にどのような影響があるかを測定しています。
その結果、ストレスによって色素幹細胞の働きが狂わされるということが分かりました。ストレスを与えられたラットは、「ノルアドレナリン」というホルモンが皮膚に集中して放出されていたのです。
ノルアドレナリンには、判断力や集中力を高める作用があるのですが、その一方で、神経を興奮させます。このとき、頭皮にある毛根にも、ノルアドレナリンが流れ込みます。すると、色素幹細胞は異常に活性化し、メラニン色素を放出し続けます。
その状態が続くと、最終的にメラニン色素の生成能力が失われてしまいます。するとそれ以降、その毛根から生える髪には、色がつかなくなることが分かりました。

「マリ―アントワネットが処刑される前夜、一夜にして白髪になった」という逸話がありますよね。
いくら強烈なストレスであっても、すでに生えた髪が、白くなることはありません。しかし、全ての毛根のメラニン色素が枯渇し、それ以降、総白髪になることはありえる、といえます。
現代はストレス社会といわれます。若い世代に白髪が増えているのも、ストレスが一因の可能性は大いにあります。
また、加齢による白髪も色素幹細胞の機能が低下、あるいは枯渇したことが原因という可能性もあります。この場合は、年齢的な体の変化や老化の一つとも考えられます。
食事に気をつける人は病気をしても回復が早い
では白髪になったら、諦めるしかないのかというと、そんなことはありません。一時的に機能が低下している色素幹細胞であれば、再び活性化することは、十分にありえます。
それを促すために、私がお勧めしていることの一つが、「食べて白髪を治す」方法です。
私たちの体の状態は、日々の食習慣によって大きく影響を受けています。それを痛感させられたのが、かつて大学病院で勤務していたときのことです。
同じ病気で、同じくらいの年齢で、同じような手術をしても、患者さんによって術後の回復が早い人と、そうでない人の差がとても大きいことに、私は気がつきました。
その差はどこから生まれるのか……?不思議に思った私は、患者さんたちに生活習慣などについて、いろいろ伺ってみました。そこで気がついた一つが、その人の食習慣です。
しっかり食事を食べられる人、栄養豊富で自分の体に見合った食品を食べている人、体によいとされる食材を積極的に食べている人などは、術後の回復が早く、退院後の予後も良好でした。
逆に、食事をあまりとらない人、食に興味がない人、食生活に気を使っていない人などは、回復が遅く、予後もかんばしくなかったのです。
このことがきっかけとなり、健康における食べ物の大切さを痛感した私は、専門的な栄養学を学び、患者さんに治療とともに、食事指導を行うようになりました。
白髪も例外ではありません。
食生活に気を配ることで、色素幹細胞の機能が活性化して、黒髪が復活する可能性は十分にあります。では、次項では、どのような食事をとると白髪によいのかをご紹介します。ぜひ実践してみてください。

白髪を減らす食事と生活習慣のポイント
日本人の毛髪の量は、平均的に約10万本といわれています。
そして、成長期の髪の毛が伸びる速さは1日に0.3~0.4mm前後。約9割の毛髪が成長期と考えられるので、簡単に計算しても0.3mm×10万本×0.9=27m‼ なんと、1日に約27mもの髪の毛をつくっていることになります。
これほど伸びるのだから、毛に必要な栄養を食事から補充するのは、非常に大切なこと。そして、摂取した栄養を髪の毛に届けるのは血液ですから、頭皮の血行をよくすることも必要不可欠です。
年をとると、白髪だけでなく薄毛の悩みも出てきますが、そのどちらにも食生活と血行不良が関係している可能性が高いのです。
この2点に気をつけることが、まずは白髪と薄毛の予防改善につながると考えられます。ここでは、そのために心がけるといい食事と生活習慣のポイントについて解説します。
【食事のポイント①】
髪に色をつけるときに必要なビタミン・ミネラルをとる
生まれたての髪に色をつける過程には、さまざまな栄養素が関わっています。その中でも特に重要なのが、ビタミンやミネラルといった栄養素です。
お勧めはビタミンB群、鉄分や亜鉛、カルシウムなどのミネラルが豊富な赤身の魚。卵もお勧め。ゆで卵を一度に多めに作り、食事に、おやつにと食べてもいいですね。

【食事のポイント②】
髪の毛の材料となるたんぱく質とコラーゲンをとる
肉や魚、卵や大豆など、髪の毛の材料となるたんぱく質も必須の栄養素です。
一方、髪の毛に潤いを持たせるのは、たんぱく質の中でもコラーゲンの役目。コラーゲンは、魚や鶏の皮、牛すじなどに多く含まれます。
食べやすさも考慮すると、最もお勧めなのは皮ごと食べられる魚。サケやイワシ、シシャモなどはもちろんのこと、シラスもいいでしょう。また、魚の頭部にもコラーゲンがたくさん含まれているので、カブト煮、アラ煮などもお勧めです。
魚に含まれるDHA、EPAは、血液をサラサラにして、血行をよくしてくれます。たんぱく質が豊富でコラーゲンもとれる、一石三鳥といえる食材です。

【食事のポイント③】
ストレスを緩和するセロトニンの材料となる食材をとる
前述したように、白髪の発生にはストレスによるノルアドレナリンの分泌が大きく関わっています。そのノルアドレナリンを抑える働きをするのが、セロトニンというホルモンです。
そこで、セロトニンを十分に分泌させストレスを軽減できるように、セロトニンの材料となる食材を食事から補充しておきましょう。
セロトニンの主な材料となるのは、トリプトファンというアミノ酸。手軽な食材としては、バナナに含まれています。

【食事のポイント④】
緑黄色野菜でビタミン・ミネラルを補充する
赤や緑、黄色、オレンジなど色の濃い緑黄色野菜は、ビタミン・ミネラルが豊富に含まれます。
保存や調理で失われる栄養素もあるので、新鮮なうちに調理し、葉物はさっと火を通すだけに。一部の栄養素は水に溶けだすので、スープやみそ汁など、汁も余さず飲める調理方法がお勧めです。

【生活習慣のポイント①】
マッサージで頭部の血行を促す
髪に栄養を届けるために、頭部の血行をよくすることが大事。私は入浴時に指の腹で頭皮をもみほぐすことを習慣としています。それから、頭を冷やさないことも心がけて。洗髪後は、ドライヤーでしっかりと乾かしましょう。

【生活習慣のポイント②】
ストレスをためない思考法を身につける
「経済的に不安」「職場での人間関係がつらい」「親の介護」などのストレスの原因そのものは、生きている限り、誰しも避けられません。
ですが、それが「ストレス」か「ストレスではない」かは、自分の受け止め方一つで変えられる、ということです。
ストレスの原因を取り除くことが難しいようであれば、考え方をチェンジして、よい方向で受け止める習慣をつけてみる。上司のつらい一言も、自分への励ましに聞こえてくる可能性だってあります。
また、ストレスの原因に固執し、そのことばかり考えているのもNG。「今日も1日、よくがんばった」と、自分を労う方向に意識を向けると、それは「超えるべき試練」の一つになります。
人間は考え方を変えられる生き物です。ストレスに対する考え方を変えて、前向きに物事をとらえる思考法を身につけることで、人生すべてにおいて幸福度が高まることでしょう。


この記事は『安心』2020年10月号に掲載されています。
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