押すと痛む、硬いしこりになっている、周りの皮膚よりもへこんでいるなどの変化が現れているツボへの刺激は実によく効くものです。ツボを押して圧痛を感じるときは、その部分の毛細血管の血流が悪くなっている証拠だと考えられます。【解説】中村辰三(宝塚医療大学鍼灸学科教授・副学長)

解説者のプロフィール

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中村辰三(なかむら・たつぞう)
1971年に同志社大学卒業後、1973年明治鍼灸柔道整復専門学校鍼灸科・柔道整復科卒業、同校に勤務。後にアメリカのボストンにて鍼灸教育に従事し、明治東洋医学院専門学校校長、明治東洋医科大学サンフランシスコ校初代学長を経て、明治鍼灸大学大学院教授、同校学部長に就任。その後、森ノ宮医療大学教授、同校副学長を経て、現在は宝塚医療大学鍼灸学科教授および副学長を務める。眼科領域の鍼灸治療やお灸の研究も行っている。

押すと痛いツボは実によく効く

私は長年、鍼灸をさまざまな病気治療に応用する研究をしてきました。例えば、鍼灸治療によって、緑内障(眼圧の異常により視野が欠けたり、視力が低下したりする病気)で高くなった眼圧をコントロールできることが分かりました。また、ぜんそくの発作を抑えることもできます。

ことに、「押すと痛む(圧痛)」「硬いしこりになっている(硬結)」「その箇所が周りの皮膚よりもへこんでいる(陥凹)」などの変化が現れているツボへの刺激は、実によく効くものです。

私は普段の治療では、鍼やお灸を使用しますが、「いざ」というときは、それらの道具がないことがほとんどです。

そんなとき、私が重用するのが「押して痛みを感じるツボ=激痛ツボ」への刺激です。まずは、私自身が激痛ツボへの刺激で難を逃れたお話をご紹介しましょう。

40年ほど前、私は米国に約2年間在住し、鍼灸の指導やクリニックでの治療に当たっていました。

実はその頃、私は心臓に不安がありました。不整脈が出ており、房室ブロック(心臓の心房から心室へ刺激が伝わりにくい状態)と診断されていたのです。

慣れない外国暮らしによるストレスのせいでしょうか。心臓の調子が悪化するとともに、左肩や左の膏肓(こうこう)というツボ周辺に、ひどいこりが生じるようになりました。

膏肓は、肩こりや五十肩の特効ツボとして知られていて、背骨の第4胸椎と第5胸椎の棘突起(背中側に突き出した出っ張り)の中央から左右の外側に三寸の、肩甲骨内側にあります。

画像: 膏肓の位置

膏肓の位置

こりのひどさといったら、鍼灸の鍼では頼りなく、いっそ千枚通しのような太い針で突き刺したいほどの気分でした。もちろん、実際にそんなことをしてもケガをするだけですから、強い力でツボを刺激するよう、知人にお願いしました。

こりのひどい部分を押されると、激痛を感じます。しかし私は、これが治る痛みだと知っていたので耐えることができました。そうこうするうち、ひどいこりが解消され、それに伴って不整脈など心臓の調子も正常に戻りました。

その後、現在まで、検診においても心臓の異常を指摘されたことはありません。

ちなみに、膏肓を自分で刺激する場合は、あおむけに寝て、膏肓の位置にテニスボールやゴルフボールなどを当てて、自分の体重で押すように刺激するとよいでしょう。

心臓の特効ツボを押して応急手当

こんなこともありました。友人とゴルフに行き、私がラウンドを終えて、お風呂に入ろうとしたときです。先に入っていた友人のお兄さんが入浴中、急に苦しみだして、動けないと言うのです。

顔もみるみる青白くなってきて、ただ事ではない様子でした。聞くと、お兄さんは、心臓に持病があるとのことです。

私はとっさに左前腕部の郄門(げきもん)というツボを探りました。

郄門は心臓の特効のツボで、動悸や息切れに有効です。腕の手のひら側、手首とひじのシワ中央を結んだ線上の真ん中辺りにあります。

画像: 郄門の位置と押し方

郄門の位置と押し方

正確な位置は押して圧痛点を探しますが、お兄さんは口も聞けない状態でした。でも、触ると明らかに硬くこった箇所が見つかり、そこを親指で指圧しました。

その他にも、先ほどの膏肓と、背骨と肩甲骨の間にある心臓に効くツボ数ヵ所を2~3分指圧。するとお兄さんは大きく息を吐いて、「ああ、らくになった……」と言い、落ち着いた状態を取り戻し、青白い顔も元通りになりました。

これは、ツボ刺激で応急手当てに成功した事例です。その間に呼んでおいた救急車が到着して、病院に搬送されましたが、あのままだったら、命に関わっていたかもしれません。

体内の変化がツボに現れる

ツボを押して、圧痛を感じるときは、その部分の毛細血管の血流が悪くなっている証拠だと考えられます。

より詳しく言うと、毛細血管に至る手前の細動脈の分岐部に、血液の流れが滞りやすい箇所があります。そこで血流が滞ると、血管外に血液中の水分がもれ出して、その先の毛細血管の血流が低下します。

すると、その部分の組織に栄養や酸素が届かなくなり、半分死にかけの状態(半壊死)に陥ってしまうのです。「川」で例えると、曲がりくねり、分岐する川の流れの中、どうしても水がよどみやすい場所があって、そこの水は腐りやすい。そんなイメージです。

こうした血液の滞りが起こりやすく、体表に変化が現れてくるポイントが「ツボだ、という学説があります。私もこの考え方を支持しています。

痛いツボを見つけたら丁寧にしっかり押そう

では、ツボを刺激することで単にそこのこりや痛みが取れるだけでなく、遠く離れた内臓の調子まで改善するのはなぜでしょうか?それについても現在、世界的にさまざまな研究が行われていますが、

血流が改善する
自律神経の働きが調整される
ホルモンの分泌が促される
免疫(病気に抵抗する働き)を担う白血球が増える

などの効果があると分かってきました。こうした効果により、内臓やさまざまな臓器の機能が回復し、不調が治るものと考えられています。

私の経験上、ツボと対応している内臓の機能が低下していたり、ひざや腰などの部位が弱ったり、傷付いたりしているほど、ツボを押したときの痛みは強烈で、よく効きます。

ですから、激痛ツボを見つけたら、しっかり丁寧に押すことをお勧めします。

画像: この記事は『安心』2020年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年10月号に掲載されています。

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