解説者のプロフィール

MISUMI(大槻水澄/おおつき・みすみ)
マジカルトレーニングラボ主宰。ヴォイストレーナー。有名アーティストなどにヴォイストレーニングを提供。現役のロックボーカリストでもあり、コーラスアレンジャー、英語作詞家として数多のCMやCDの制作に携わる。著書『「自分」が伝わる声ヂカラ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『LENNON~ボクの声が叶えてくれたこと~』(アーバンプロ出版センター)好評発売中。▼『声出していこうっ!』(公式ブログ)
マスクに負けない
「え? なんておっしゃいました? もう1回お願いします。」
最近、会話の最中に、相手から聞き返されることが増えています。声の専門家である私としては、これはゆゆしき問題です。よもや、老化・・・?
いやいや、多少お年頃になってきたとはいえ、毎日のように歌ったり、レッスンしたりしているのに、そんな急激に衰えるなんてこと、あってはいけない。あるわけがない。
犯人は、マスクです。
マスクは人の耳に届きやすい声の成分を吸い取ってしまいます。
マスクのせいでくちびるが動かしにくいから、知らず知らずに発音だって曖昧になる。口を大きく動かすとマスクがずれちゃうからと、おちょぼ口になるのもいけません。
なんだか息苦しいから、呼吸もついつい浅くなります。
聞き手からすれば、話し手の表情や口元が見えないので、日頃、無意識に受け取っている視覚からの情報も受け取れません。
私たちを守ってくれるマスクが、コミュニケーションの邪魔をする。そんな悩ましい状況を打破するために、ぜひ試していただきたい秘策があります。
それは
「アニメキャラの若い女の子のようにしゃべる」、
もしくは
「渋谷109の店員さんのようにしゃべる」(分かるでしょうか?)
こと。
こう言うと、「あんな高い声、出ません」などという人がいるのですが、大事なのは声の高さではなく、あの鼻声気味の、「ミーミー」と聞こえるような音色。
あの音色が耳に届きやすい声の成分を強調してくれるのです。
だから、顔の筋肉をほとんど動かさなくても、最小限の声で話しても、言葉が届きやすくなるんですね。
ちょっとやってみましょう。腹話術のイメージで口をなるべく動かさず、声を鼻にかけて…はい!
「いらっしゃいませ〜」「ご試着どうぞ〜」。
大事なのは遊び心です。ふざけてやっているうちに、コツがつかめますよ。
コミュニケーションは伝わってなんぼ。「ミーミー声」は必ずしも耳に心地よい声とは限りませんが、伝わらないストレスを抱えて悶々とするよりは、ずっといいはず。
とはいえ、顔の筋肉を使わない発声が日常化すると、老け顔になってしまう上に、声の表現力もどんどん衰えてしまいます。
ミーミー声は「withマスク」にとどめておくことをオススメします。

この記事は『安心』2020年10月号に掲載されています。
www.makino-g.jp