解説者のプロフィール

関由佳(せき・ゆか)
2008年、山梨大学医学部卒業。専門は内科、予防医学、栄養療法。 学生時代から予防医学に興味を持ち、医食同源の考えのもと、野菜ソムリエ、みそソムリエの資格を取得。ニューヨークの料理専門学校Natural Gourmet InstituteでChef's Trainingディプロマ取得後、ミシュラン星付きレストランなどでインターンを経験した「ドクターシェフ」。現在はオンライン栄養カウンセリングやダイエット外来の監修を行う他、レシピ開発やメディアでの啓蒙活動を行っている。『腸活みそレシピ』(海竜社)など著書多数。
食べていても栄養を吸収できているとは限らない
飽食の時代の現代日本では、飢餓による栄養失調はほとんどありません。その代わりに、私たちの健康を静かに脅かしているのが「隠れ栄養失調」です。
隠れ栄養失調とは、食事はきちんととっているにも関わらず、肝心の栄養素を十分に吸収できないために、必要量に満たない状態のこと。肥満であっても、隠れ栄養失調を起こしている人はたくさんいます。
その主な原因は、腸の栄養吸収力の低下です。腸内環境が悪いと、いくらよいものを食べても、栄養素が十分に取り込めません。すると、必要な栄養が体に行き渡らなくなり、細胞の機能が落ちます。結果、代謝や内臓の働きが悪くなります。
慢性的な隠れ栄養失調は、病気のもとにもなります。例えば、生活習慣病である高血圧は、過剰な塩分が一因と言われます。しかし、実はマグネシウムやカリウムが十分にとれていれば、不要な塩分はそれらのミネラルによって排泄されるので問題となりません。
これは裏を返せば、マグネシウムやカリウムが不足すると、塩分過剰になる可能性がある、ということ。つまりミネラルの不足が高血圧を招くのです。
実は、私自身が、長年、隠れ栄養失調による体調不良に悩まされていました。
私の体調に異変が起きたのは、15歳のとき。どこにも異常がないにも関わらず、月経が止まり、下痢や便秘をくり返す過敏性腸症候群や、立ちくらみなどの症状に苦しんできました。
そして、食と病気の関連について学びを深める中で、自身の体調不良が、腸の炎症と隠れ栄養失調がもたらす副腎疲労によるものだと気がついたのです。
そこで、私は、みそや塩麹を塩代わりに使ったり、ドレッシングに入れたりと、さまざまな発酵食品を日々の食事に取り入れました。
同時に、心身のバランスをくずす要因になる「こうすべき」という思考でなく、「こうしたい」を選択する生き方を心がけたのです。
すると33歳になって、18年止まっていた月経が再開。お通じも整い、立ちくらみなどの症状もなくなりました。
その他、私が腸内環境改善を指導した患者さんでも、めまいやじんましん、うつなど、さまざまな症状が改善しています。
麹菌以外の善玉菌も引き寄せて増やす
麹のもたらすメリットは、大きく分けて次の三つです。
①食物の栄養素を消化吸収しやすくする、増やす
麹菌には発酵の過程で、栄養素を吸収しやすい形に分解したり、新たな栄養素を産生したりする作用があります。
みそを例に説明すると、消化しにくい大豆たんぱくを、吸収しやすいアミノ酸に分解します。さらに発酵の過程で、大豆そのものには含まれていないビタミンB12や、抗酸化物質であるメラノイジンが生み出されます。
②腸内環境を整える善玉菌を増やす
麹菌のもう一つの特徴は、さまざまな善玉菌を引き寄せるという点です。麹菌がつくる酸性の環境下では、乳酸菌や酵母など善玉菌が繁殖しやすく、悪玉菌は繁殖できません。
その結果、空気中から入った善玉菌だけが増えるので、出来上がったみそには、麹菌以外の多様な善玉菌までもが豊富に含まれることになります。
③おいしくなる
日々とり続けるためには、おいしさや使いやすさも重要です。その点、麹菌の発酵食品は発酵によって、うま味成分も豊富になっています。
今、私は料理に塩そのものを使うことはほとんどありません。塩味は、みそかタマネギ麹(下記参照)で付けています。
その方が料理の味に深みが出て、仕上がりがワンランク上がるからです。さらに健康にもよいのですから、一石二鳥。ぜひ活用してください。
タマネギ麹の作り方

❶タマネギ1個(200g)をすりおろす。

❷塩10g、米麹50g、水大さじ3を加えてよく混ぜる。

❸ラップをして室温(20~25℃程度)に1日置く。

❹密閉容器に移して冷蔵庫で保存する。保存は冷蔵庫で1週間が目安。

この記事は『安心』2020年10月号に掲載されています。
www.makino-g.jp