解説者のプロフィール

加勢田千尋(かせだ・ちひろ)
管理栄養士。一般社団法人CHO-JIN食育協会代表理事。大学卒業後、企業やクリニックなどで、乳幼児から大人まで5000人以上の栄養相談を行う。料理をがんばらない「ずぼら腸活」で、アトピーやアレルギーを改善。自身の経験を多くの人に伝えるため、3ヵ月で学べる腸の専門学校「CHO-JIN食育学校」を運営する。著書に『たった4か月で10kgの減量に成功した管理栄養士が教える「やせ玉」腸活ダイエット』(主婦と生活社)がある。
▼一般社団法人CHO-JIN食育協会(公式サイト)
ダイエットに200万円以上費やした
私が考案した「やせ玉」は、みそや塩麹などの発酵食品と、腸内で善玉菌を増やす食材を併せて、調理1回分ずつに取り分けて丸めたものです(作り方は下項参照)。
やせ玉の特長は、作りおきをしておけば、腸を元気にするスープやおかずを、いつでも簡単にとれること。らくに作れておいしいので、「料理が苦手」「時間がない」などの理由で、毎日発酵食品を食べるのが難しい方にお勧めしています。
実は私は、このやせ玉で食生活を改善し、10kgの減量に成功。さらに、アトピーでボロボロだった肌も、きれいに生まれ変わりました。その経験について、これからお話しします。
10~20代前半のときの私は、常に便秘と肥満、過食に苦しんでいました。毎日、ファストフードやスナック菓子を買い食いし、1日5食は当たり前。ピーク時のBMI(肥満度の判定方法の一つ)は、標準値の25を超えていました。
※BMIの出し方:体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
身長160㎝、体重55㎏の場合は、55㎏÷1.6m÷1.6m=BMI21.5となる。
この状況をなんとかしたいと、エステやサプリ、医療ダイエットを試しましたが、結果はあまり出ず。200万円以上費やしたのにも関わらず、リバウンドをくり返していたのです。
そんな中、唯一効果を実感できたのが、プチ断食合宿でした。ここで発酵食品を中心とした、和食の重要性を学んだのをきっかけに、食習慣を改善しようと決心しました。
すると、たちまち便秘が解消。1週間に1~2度のお通じは、数日でほぼ毎日つくようになり、体重も落ち始めました。
毎日ランチに具だくさんみそ汁をとったら……
しかし、いくら効果を感じているとはいえ、毎日発酵食品を使った料理を用意するのは大変なこと。というのも私は、管理栄養士なのに調理が苦手で、ズボラな性格なのです。
そこで考案したのが、やせ玉でした。みそや麹をはじめとした、腸が喜ぶ発酵食品と、その力を生かす食材を先にまとめてしまえば、調理の手間が省けると考えたのです。
最初に作ったのは、みそに削り節粉と白すりゴマを加えて丸めた「みそ玉」でした。私はこのみそ玉を、昼食にみそ汁としていただくようになりました。
作り方はとても簡単。朝のうちに、レンジで火を通した野菜とササミ、みそ玉を用意するだけ。ランチタイムに全部合わせて熱湯を注げば、具だくさんみそ汁の完成です。これにおにぎりを添えるだけで、十分満足できる昼食になりました。
そんな生活を続けているうち、ある変化が起こりました。味覚が変わったのか、今まで大好きだったスナック菓子などがおいしいと思えなくなったのです。おかげで、4ヵ月で体重は10kg減。ウエストも10cm以上細くなりました。
変わったのは、味覚や体形だけではありません。便通がすっかりよくなり、今では1日に3度のお通じがつく日もあります。さらに、保冷剤で冷やさないと寝られないほどかゆかったアトピーの皮膚も、いつの間にかきれいになりました。
髪や爪も整い、中性脂肪値も下がっています。免疫力(病気に抵抗する力)がついたのか、カゼもひきづらくなりました。
また、些細なことで泣かなくなるなど、やせ玉をとり始めてから、とにかくさまざまな変化が起こったのです。
便秘が解消すれば不調や肥満の改善に
では、なぜ食生活を変えただけで、こんなに多くの変化が現れたのでしょうか。それには、腸内環境の改善が関係していると私は考えています。
自分自身もそうでしたが、やせにくく太りやすい体質の人は、便秘である場合が少なくありません。便秘になると、腸内では悪玉菌が増加します。この状態では食べたもののエネルギーへの代謝がうまく行われなくなり、消費し切れなかったエネルギーが脂肪として体に蓄えられます。
実際、肥満の人の腸内には、悪玉菌が多いという研究報告もあります。さらに、悪玉菌が作る腐敗物質は、アンモニアや硫化水素などの有害物質を発生させます。それらが腸から血液に取り込まれると、肌荒れや疲労感などの不調が生じやすくなり、免疫力も低下するのです。
これらの不調を及ぼす、生活習慣によって起こる便秘の原因は、
①腸の動きが悪い
②ストレス
③便意の我慢
の三つに分けられます。
この全てに有効なのが、やはりやせ玉。やせ玉と合わせる食材の選び方次第で、それぞれの便秘の原因が解消します(詳しくは下の表参照)。
①腸の動きが悪いタイプ
筋肉不足や虚弱体質が原因で、便を外に送り出せなくなっている。食事制限をしている人にも多い。腹部が張っても便意が起こりづらいのが特徴。
【お勧めの食べ方】
●水溶性食物繊維をプラス
(ワカメ・モズクなどの海藻類、ナメコなど)
●やせ玉料理やスープに香辛料をプラス
(トウガラシ、コショウ、ニンニク、ワサビなど)
②ストレスが原因のタイプ
ストレスで自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)が乱れることで便秘になるタイプ。食後に腹痛が起こる、下痢と便秘をくり返すなどが特徴。
【お勧めの食べ方】
●水溶性食物繊維+みそ玉のみそ汁
(ワカメ・モズクなどの海藻類、ナメコなど)
※食べ過ぎなど、胃に負担を与えないようにする。
●温かくして食べる
(基本のスープが◎。ただし、温め過ぎには注意)
③便意の我慢が原因のタイプ
便意を我慢し続けた結果、直腸の感覚が鈍くなっているタイプ。便意を感じにくいのが特徴。
【お勧めの食べ方】
●不溶性食物繊維をプラス
(ゴボウ、レンコン、サツマイモなど)
●みそ玉
(ゴマに含まれるマグネシウムには便を柔らかくする効果がある)
やせ玉で便秘が解消し、腸が元気になれば、体は太りにくくなり、不調や病気の改善が期待できます。さらに、やせ玉にはうま味があるため、上手に使えば減塩にも役立つでしょう。
また、食品添加物の中には、腸で炎症を引き起こしやすいものもあるので、余分な調味料を使わずに済むという利点もあります。
美容や健康によい食品を食べても、腸が元気でなければ、その成分は十分に吸収されません。ぜひやせ玉を活用して、手軽においしく「腸活」をしてみてください。
「やせ玉」の作り方
★最低でも1日1回はやせ玉を摂取する。
とり過ぎで問題になることはないので、朝昼晩3食に使うなどしてもよい。
★やせ玉はどのタイミングで食べても問題ない。
朝の腸の動きだしを助けるため、朝食時にとるのがお勧め。
★やせ玉は、生で使っても、加熱して使ってもよい。
発酵食品に豊富な善玉菌は加熱調理すると死んでしまうが、死んだ菌も腸内細菌のエサになるため、腸内環境を整えるのに役立つ。
● みそ玉 ●
お湯に溶かすだけでだしの効いたみそ汁に!高血圧改善や免疫力アップ、便秘解消に◎

【材料】(10個分)
・みそ…100g
・削り節粉…10g(荒節、枯れ節どちらでもOK)
・白炒りゴマ…20g

材料を全て混ぜたら、やせ玉のもと完成!

大さじ1ずつラップに取り分け、球状に包んで保存する。
【保存期間】冷蔵で10日・冷凍で1ヵ月

【基本のスープ】
みそ玉1個をおわんに入れ、お湯120mlを注ぐ。ダマがなくなるまで溶かしたら出来上がり。
※乾燥ワカメやゆで野菜を加えれば、具だくさんのみそ汁に!
● ダイコン塩麹玉 ●
ダイコンに豊富なオリゴ糖が消化を助ける!血栓予防や解毒作用も

【材料】(10個分)
・ダイコンおろし…100g
※軽く水を切る。
※自分でおろしたダイコンが理想だが、難しい場合は市販のチューブでも構わない。
・塩麹…30g
※市販のものを使用する場合、なるべく無添加のものを選ぶ。

材料を全て混ぜたら、やせ玉のもと完成!

大さじ1ずつ取り分け、製氷皿などに入れて保存する。
【保存期間】冷蔵で1週間程度、冷凍で1ヵ月

【基本のスープ】
ダイコン塩麹玉1個をおわんに入れ、お湯120mlを注ぐ。ダマがなくなるまで溶かしたら出来上がり。
※削り節を加えれば、よりほっとする味わいに。
● トマト塩麹玉 ●
トマトの力で腸が活性化!疲労回復やアンチエイジング効果も期待できる

【材料】(34個分)
・トマト水煮缶…1缶(400g)
※トマトは軽くつぶしておく。
・塩麹…120g
※市販のものを使用する場合、なるべく無添加のものを選ぶ。

材料を全て混ぜたら、やせ玉のもと完成!

大さじ1ずつ取り分け、製氷皿などに入れて保存する。
【保存期間】冷蔵で1週間程度、冷凍で1ヵ月

【基本のスープ】
トマト塩麹玉1個をおわんに入れ、お湯120mlを注ぐ。ダマがなくなるまで溶かしたら出来上がり。
※ミックスビーンズや卵を入れると、栄養満点の具だくさんスープに!
■レシピ/加勢田千尋(管理栄養士)、調理・スタイリング/古澤靖子
「みそ玉」アレンジレシピ
みそ玉ジャガ
みそ玉とみりんだけなのに驚くほどコク深い!胃も心も癒される優しい味わい

【材料】(2〜3人分)
みそ玉……3個
ジャガイモ……2個(300g)※皮をむいて食べやすい大きさに切る
タマネギ……1/4個 ※くし切り
みりん……大さじ3
キヌサヤ(あれば)……4〜5本 ※ゆでたものを千切り
【作り方】
❶鍋にジャガイモとタマネギを入れて、ひたひたの水(分量外)を注ぐ。
❷みそ玉を加え、落としぶたをして12~13分コトコトと煮る。
❸ジャガイモが柔らかくなったら、みりんを加え、汁気を絡めるように混ぜながら煮る。
❹器に盛り、キヌサヤを天盛りにする。
「みそ玉」アレンジレシピ
ナスのお刺し身風
甘辛みそがナスのうま味を引き立てる!お酒のアテにも最適

【材料】(2人分)
みそ玉……1個
ナス……2本
ハチミツ……大さじ1/2
ゴマ油……小さじ1/4
大葉(あれば)……2枚
練りカラシ……適量
【作り方】
❶ナスは、ヘタと先端を切り落とす。
❷①をラップで1本ずつふんわり包み、600Wの電子レンジで4分加熱する。冷めるまでそのまま置いておく。
❸みそ玉、ハチミツ、ゴマ油を混ぜる。
❹②を食べやすい大きさの輪切りにし、大葉と一緒に器に盛る。③と練りカラシを添え、ナスにつけながら食べる。
「ダイコン塩麹玉」アレンジレシピ
サケとキノコのワイン蒸し
主な味付けはやせ玉だけ!少ない材料で作ったとは思えない、風味豊かな味わいに驚くこと間違いなし

【材料】(2人分)
ダイコン塩麹玉……3個
生サケ……2切れ
塩……少々
オリーブ油……大さじ1
キノコ(シメジ、エリンギなど)……100g ※石づきを除き一口大に切る
白ワイン(または酒)……大さじ3
粗びき黒コショウ……少々
レモン、ディル(あれば)……適量
【作り方】
❶サケに塩を軽く振って5分おき、水気を拭く。
❷フライパンにオリーブ油を熱し、①の片面を焼いて裏返す。
❸②にキノコ、ダイコン塩麹玉、白ワインを加えてふたをし、7~8分蒸し焼きにする。
❹器に③を盛って粗びき黒コショウを振る。残った煮汁をよく混ぜてかけ、レモン、ディルを添えたら出来上がり。レモンを絞りながら食べる。
「ダイコン塩麹玉」アレンジレシピ
モロヘイヤと豚しゃぶの塩麹あえ
お疲れぎみの胃腸も喜ぶさっぱりとした味わい!

【材料】(2人分)
ダイコン塩麹玉……3個
モロヘイヤ……1袋(100g)
豚バラ肉……100g
しょうゆ……少々
【作り方】
❶モロヘイヤは葉の部分を摘む。
❷豚バラ肉は半分に切っておく。
❸①を熱湯でさっとゆでてざるに上げ、手早く冷ましておく。
❹再度お湯を沸騰させて火を止め、②を加えて手早く混ぜる。豚肉の色が変わったらざるに上げて水気を切り、ボウルに入れる。
❺④にダイコン塩麹玉と、水気を絞った③を加えよく混ぜる。しょうゆで味を調えて出来上がり。
「トマト塩麹玉」アレンジレシピ
根菜たっぷりラタトゥイユ
たっぷり野菜を手軽にとれる!食べ応え抜群、栄養満点の一皿

【材料】(3〜4人分)
トマト塩麹玉……4個
タマネギ……1/2個
赤パプリカ……1/2個
カボチャ……100g
レンコン……小1/2節
ゴボウ……1/3本
インゲン……6本
ニンニク……1片(粗みじん切り)
オリーブ油……大さじ2
塩、コショウ……各少々
バジル(あれば)……適量
【作り方】
❶タマネギ、赤パプリカ、カボチャを2~3cm角に切る。レンコンは皮付きのまま厚さ1cmの半月切りにする。ゴボウはめん棒で軽く叩いてから乱切りにし、インゲンは長さ5cmに切る。
❷鍋にニンニクとオリーブ油を入れ、火にかける。ニンニクのいい香りがしたら、カボチャ以外の①を加え炒める。
❸油が回ったらトマト塩麹玉、水大さじ3〜4(分量外)を加え、ぴったりとふたをして10分蒸し煮にする。
❹カボチャを加え、さらに10分蒸し煮にする。途中水分が少なくなったら、水を足す。
❺野菜が柔らかくなったら、全体を混ぜる。そのまま置いて味をなじませる。
❻冷めたら塩、コショウで味を調えて、バジルを添える。
「トマト塩麹玉」アレンジレシピ
ナガイモとタコのカルパッチョ風
トマトの酸味と塩麹のまろやかさが癖になる!ナガイモとタコの異なる食感も楽しんで

【材料】(2人分)
ナガイモ……100g
タコ……80g
粗びき黒コショウ……少々
大葉……2枚(千切り)
Ⓐトマト塩麹玉……3個
レモン汁(または酢)……大さじ2
オリーブ油……大さじ1
【作り方】
❶ナガイモは薄い輪切りにする。タコは斜め薄切りにする。
❷Ⓐの材料をよく混ぜて、ドレッシングを作っておく。
❸器に①を彩りよく並べ、②をかける。粗びき黒コショウを振り、大葉を散らして出来上がり。
■レシピ監修/加勢田千尋(管理栄養士)、レシピ考案・調理・スタイリング/古澤靖子

この記事は『安心』2020年10月号に掲載されています。
www.makino-g.jp