解説者のプロフィール

吉良文孝(きら・ふみたか)
東長崎駅前内科クリニック院長。2003年、東京慈恵会医科大学卒業。東京警察病院消化器内科、JCHO東京新宿メディカルセンター(旧厚生年金病院)の消化器内科を経て、2018年、東長崎駅前内科クリニックを開設。日本内科学会認定内科医、日本消化器学会認定消化器病専門医、日本消化管学会認定胃腸科指導医、日本消化器内視鏡学会認定内視鏡専門医。
▼東長崎駅前内科クリニック(公式サイト)
のどや食道の神経を刺激して胃の周辺がスッキリ
ハッカ油は、昔から「メンタ湿布」と呼ばれる温湿布にも使われてきました。これは、ハッカ油を含ませたタオルやガーゼをおなかに巻くというものです。腸閉塞(腸の内容物が止まった状態)や便秘の患者さんに処置すると、おなかの張りなどの不快な症状が和らぎます。
このように、外用に使われることの多いハッカ油ですが、内服薬にも使われています。ハッカ油そのものではありませんが、ハッカ油の主成分であるメントールが、市販の胃腸薬(太田胃散やハイウルソなど)に添加されているのです。
市販の胃腸薬は、食べ過ぎ、胃もたれ、胸焼け、吐き気、胃のむかつきなど、胃の不快な症状を抑えるときに服用します。メントールには、こうした胃の不快な症状を緩和する効果があります。
しかし、メントールが直接胃の症状を治すわけではありません。メントールがのどや食道を通過するときに、そこにある神経を刺激して、胃の周辺をスッキリさせるのです。
これは、メントールで冷たさを感じるメカニズムと同じです。メントールを皮膚につけるとひんやりしますが、実際に皮膚が冷えるわけではありません。冷たいと感じる感覚神経が刺激されるだけで、いってみれば脳の勘違いです。
しかし勘違いであっても、胃の辺りがスッキリすれば、胸の焼けつく感じやムカムカ感は一時的に治まって、気分がよくなります。
食道炎や胃炎なら、そうした気分がよくなっている間に治療行えば効果的なのです。
当院の患者さんのなかには、以前から市販の胃腸薬をよく服用されている人がいて、「効果はあるんですか」と聞かれることがあります。
私はそのたびに、「合う人にはとてもよく効く、いい薬ですよ」と答えています。しょっちゅう胸焼けを起こしているような人は、こういう市販薬を利用するのもいい方法だと思います。
また、メントールはのどを通るときに清涼感があるので、気持ちを安定させる効果も期待できます。
ストレスで腸が緊張し便秘を起こす人に有効
医療の現場で、メントールが使われることもあります。私たち消化器内科の医師は、胃や腸の内視鏡検査をよく行います。そのときに胃や腸が活発に動いていると、内視鏡が入りにくく、内部もよく見えません。
そこで胃の検査のときは、内視鏡を挿入したあとに、直接胃の中にメントール入りの薬をまくことがあります。大腸の内視鏡検査でも、ときどきメントール入りの薬や、薄めたハッカ油を大腸にまきます。
こうして胃や腸の粘膜にメントールを加えると、筋肉が緩んで動きが緩慢になります。それで、検査がスムーズにできるようになるのです。
このメントールの作用を考えると、おなかが緊張している人にも有効に働く可能性があります。例えば、ストレスなどで大腸が緊張し、収縮が強くなって便秘を起こす人がいます。そういう人の便秘にメントールを使うと、腸が緩んで便が出やすくなります。
また、おなかが張っている人のなかには、実際にガスがたまっている人と、張った感じがするだけの人がいます。後者は緊張によっておなかが張っていることが多いので、メントールでその緊張を緩めると、張りが楽になります。
こうしたメントールの作用を手軽に活用できるのが、ハッカ水です。
食品添加物という表記のある食用のハッカ油をコップ1杯(200ml)の水に1〜2滴垂らして飲むと、のどや食道の辺りがスッキリして、胸焼けや胃のムカムカが楽になります。腸まで届けば、便秘やおなかの張りにも効果が期待できるでしょう。
効果やその持続時間は、人によって異なりますが、飲んで爽快感が足りないようなら、ハッカ油の量を1滴だけ増やしてください。ただし、量が多過ぎると、飲みにくくなります。
また、漫然と飲み続けると胃腸の動きが鈍ってしまうことがありますから、注意してください。症状のあるときだけ飲むといいでしょう。
吉良先生おすすめのハッカ水の作り方
【用意する物】
・ハッカ油(食品添加物と表記のあるもの)…1~2滴
・水…200ml

【作り方】
コップに水を入れ、ハッカ油を加えて…

よくかき混ぜれば出来上がり。



この記事は『壮快』2020年10月号に掲載されています。
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