解説者のプロフィール

菊池貴子(きくち・たかこ)
朝日生命成人病研究所附属医院研究部部長。総合内科専門医。日本糖尿病学会専門医・研修指導医。
やせるだけでなく血糖値やA1cも下がる
近年、糖質制限は広く知られるようになり、実際にたくさんの人が試すようになりました。しかし、1日の糖質摂取量を、どれくらい減らせば安全にダイエットができるか、科学的な裏づけのとれたデータは、まだ少ないといえるでしょう。
というのも、皆さんがご家庭で好きな物を食べている以上、データとして正確性に欠けるという事情があったのです。
今回、私たちの研究に参加したのは、42人の男女(男性35名、女性7名)で、年齢は20歳以上65歳未満。ややぽっちゃり型(BMI28程度)で、軽度の生活習慣病をなにかしら患っているかたがたでした。
私たちは、この参加者を2グループに分け、各グループに1日3食の食事すべてと間食を提供。2ヵ月にわたって食べてもらいました。
片方は、1日の糖質摂取量が50gの糖質制限食で、もう片方の糖質は1日120gです。1日の摂取カロリー(エネルギー)は、各人の身長に合わせて1600~1800kcalで統一。糖質50gの群には白飯はありませんが、かわりに、糖質の少ないパンなどがつきます。
運動については、研究を開始する以前と同じようにしてもらい、なるべく影響が出ないようにしました。
毎日の食事内容をそろえているため、ここから得られたデータは非常に信頼性が高いといえます。この臨床研究を通じて、いろいろ興味深いことがわかってきました。
結果、糖質50g群の体重は平均7.4kg減、糖質120g群の体重は平均6.3kg減となりました。ともに、2ヵ月で、大きく減量することに成功したのです。なかには、2ヵ月で10kg以上減ったかたもいらっしゃいます。
また、健康診断の数値も、多くのかたが改善しました。肝機能値や中性脂肪値、血糖値、血圧など、それぞれが改善したのです。糖尿病の被験者のかたの、血糖値も下がっています。なかには、8%あったヘモグロビンA1cが、2ヵ月後に、6.2%まで下がったかたもいらっしゃいました。
糖質を減らした分を脂質とたんぱく質で補おう
特に注目したいのが、糖質50g群と、糖質120g群を比較すると、確かに50g群のほうがやせてはいますが、それでも、明らかに認められる差がなかったことです。
これは、50gよりかなり緩めの120gの糖質制限であっても、ほぼ同等の減量効果が期待できるということです。
50g群では白米は食べられませんが、120g群なら、食事メニューに白いご飯も組み込まれていました。制限が厳しい場合と緩めの場合を比較したとき、後者のほうがより続けやすいことは明らかです。
体重が増えて困っているかたや、血糖値が気になるというかたは、こうした結果を踏まえて、緩めの糖質制限にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
白飯 | 茶碗1杯 | 55.2g |
食パン | 6枚切り1枚 | 26.6g |
ロールパン | 1個 | 14.0g |
ラーメン | 1玉 | 64.3g |
そば | 1玉 | 48.0g |
うどん | 1玉 | 50.2g |
そうめん | 1食分 | 70.2g |
もち | 1個 | 25.2g |
特に高齢になるにつれて、食事が偏ってしまう傾向がしばしば見られます。多くの場合、摂取するたんぱく質の量が減っていきます。これは、健康維持のうえで大きな問題です。
もしも高齢者が、太っているからといってカロリー制限のダイエットを安易に行ってしまうと、たとえ体重を減らすことができたにしても、筋肉量も落ち、フレイル(病的な虚弱状態)に陥ってしまうおそれがあります。
健康的にやせるのであれば、糖質を緩やかに減らして、糖質制限で減った分のカロリーを、たんぱく質と脂質で補う方法がお勧めです。
主食を減らしても、かわりに甘いお菓子やフルーツを食べ過ぎては意味がありません。もちろん運動もしたほうがいいでしょう。
日本人の1日における糖質の平均摂取量は、300g程度ですから、120gという糖質摂取量もかなり少なめです。ただ、この研究期間中には、食事自体が物足りないという声は出てきませんでした。
それは、肉や魚だけでなく、さまざまな種類の良質なたんぱく質がうまく活用されていたり、間食にナッツやチーズが使われたりと、空腹感が生じない工夫がなされていたことが大きかったと考えられます。こうした工夫は、皆さんが今後、糖質制限を行うときにも役立つでしょう。
また、この実験で、早寝早起きの人はやせやすく、21時以降に夕食をとる人は太りやすいという傾向があることも確認できました。
こうした現象が起こるのには、生活リズムの乱れによる自律神経の不調など、多くの要因が関係しています。これらの点にも配慮することで、ダイエット効果がより高まるでしょう。

この記事は『壮快』2020年10月号に掲載されています。
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