解説者のプロフィール

白川太郎(しらかわ・たろう)
1983年、京都大学医学部卒業。ウエールズ大学医学部大学院実験医学部助教授、京都大学大学院医学研究科教授などを経て、2008年、長崎県諫早市にユニバーサルクリニックを開設。以降、末期ガン、糖尿病などで独自の治療法を駆使し、高い成果を上げている。18年、如月総健クリニック院長。20年、ユニバーサルクリニック東京開設。著書に『「糖尿病」の非常識』(産学社)など。
インスリンが出ていても血糖値が下がらない理由
糖尿病の患者数は、全国で約1000万人。さらに予備軍を加えると2000万人になるといわれています。20歳以上の4人に1人となり、糖尿病はまさに国民病といえるでしょう。
糖尿病が怖いのは、自覚症状が現れにくい点です。そのため放置していると、知らぬ間にじわじわと各所の毛細血管が傷つき、血流が悪くなって、さまざまな合併症を引き起こします。
三大合併症といわれる糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害以外に、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症(足梗塞)などの動脈硬化をベースとした重篤な病気の発症リスクを高めます。
また、血液中にブドウ糖が多いと、白血球の機能が落ち、免疫力が低下します。新型コロナなどの感染症はもちろん、ガンや膠原病などの病気も招きやすくなるのです。
糖尿病とは、一般には、インスリンというホルモンが十分に働かず、血液中のブドウ糖(血糖)が増える病気と考えられています。しかし、私は少し違う考え方をしています。
結論から先にいえば、糖尿病は「ミネラルの病気」なのです。どういうことか、説明しましょう。
食物をとると、膵臓からインスリンが分泌されます。インスリンは、細胞の表面にあるインスリン受容体にくっつきます。この両者はよく鍵と鍵穴にたとえられます。
インスリンという鍵が、細胞の受容体という鍵穴にピタリはまると、血中のブドウ糖が引き寄せられて、細胞内に引き入れられます。これによって血中のブドウ糖が減り、血糖値が下がるのです。
糖尿病の人は、膵臓からのインスリンの出が悪くなっていて、細胞の鍵穴にピタリとはまる鍵が足りず、血糖値が下がらないという現象が起こります。
しかし、糖尿病の人のなかには、インスリンがちゃんと分泌されているのに血糖値が下がらない人がいます。しかも、そうした人が患者さんの3~4割を占めています。
インスリンの分泌以外にも、糖尿病を左右する重要な要素があるのです。
血糖値が下がるしくみ
食物をとると膵臓からインスリンを分泌➡︎ ①インスリンが細胞の表面のインスリン受容体にくっついて、ブドウ糖を細胞の表面まで連れてくる。➡︎ ②酵素であるGTFの助けを借りて、ブドウ糖を細胞の中に引っ張り込む。➡︎ 血液中のブドウ糖が減り、血糖値が低下
この謎を解明しようと、研究者たちが注目したのが、「グルコース・トレランス・ファクター(GTF)」という物質です。日本語では、「糖耐性因子」と呼ばれています。
この物質は、酵素の一つと考えていただければよいでしょう。GTFは、インスリンが細胞のインスリン受容体にくっついたあと、ブドウ糖を細胞内に引き込むサポート役を担っています。
糖尿病の患者さんは、共通して、このGTFが不足していることがわかってきました。
インスリンが分泌されていても、GTFの能力が低下すると、ブドウ糖を細胞内にうまく引き入れることができません。ブドウ糖が血中に残り、血糖値が下がらなくなります。
糖尿病は、インスリンが不足する病気であるだけではなく、GTFが不足する病気でもあるのです。
このGTFは、たんぱく質とミネラルからなります。なかでも重要な役割を果たしているのが、クロムという微量ミネラル。クロムが体内で枯渇していると、GTFが不足してしまうのです。
クロムは、赤ちゃんが母胎にいるとき、母から受け渡されます。そのクロムの分量は、約60年分しかないとわかっています。
糖尿病は40代から増え始め、60代になると急激に増加します。体内に蓄積されていたクロムが尽きるのと、発症の頻度とは密接に関連しているのです。糖尿病が、ミネラルの病気という意味はこういうことです。
食生活と運動で糖尿病は十分よくなる
現在、行われている糖尿病治療の基本は、血糖をコントロールすること。血糖降下薬やインスリン注射を使って、血糖値を下げれば、「治ったのと同じ状態を保てる」という考え方です。要するに、それは治す治療ではありません。
それに対して、私が行っている糖尿病治療は、文字通りの治す治療です。病状によりますが、患者さんに2ヵ月ほど、クロムを中心としたミネラルを摂取してもらいます。併せて、食事療法も行います。
クロムというと、クロム公害の危険なイメージがありますが、有毒なのは六価クロム。食品中のクロムは「三価クロム」で、微量ミネラルとして体内で有効に働いています。
この治療法で2ヵ月ほどミネラルを摂取すれば、原則として、再度の治療を行う必要はありません。なぜなら、この2ヵ月で60年分のクロムを摂取してもらうからです。患者さんが60歳なら120歳まではクロムが不足しない計算になります。
この治療法を試したところ、ヘモグロビンA1cが1ヵ月で1%や2%下がる人が、次々と出てきました。数値が高い人ほど、劇的な改善が見られました。100人の患者さんのうち98人の血糖値が大きく下がり、血糖降下薬やインスリン注射を卒業することができたのです。
Aさん(69歳・女性)は、20年近く、糖尿病の薬を飲み続けてきました。3年前、ヘモグロビンA1cが10%を超え、私たちの治療を受けることになりました。
まもなく空腹時血糖値が100mg/dlを切るようになり、治療開始後20日で、今まで飲んでいた2種類の薬の服用を中止。Aさんは、ヘモグロビンA1cが基準値内で落ち着き、現在も薬の服用なしで、健康な状態を維持できています。
Bさん(60代・男性)は40代から糖尿病と診断を受けましたが、放置していたため症状が悪化。ヘモグロビンA1cが12.5%となり、眼底出血により失明寸前でした。
ミネラル投与で順調に改善し、ヘモグロビンA1cは5.4%まで下がりました。インスリン注射をやめられて、目の手術も成功。失明を免れました。
残念ながら、腎臓は治療が間に合わず、人工透析を受けることになりました。ところが、透析開始後、再度ミネラル投与を続けると、止まっていた尿が出るようになったのです。透析日数も週3回から2回に減らすことが検討されています。
Cさん(56歳・男性)は、35歳のときに糖尿病を発症しましたが、病気を軽く考え、薬は飲まず、暴飲暴食を続けていました。ところが、40代後半から体重が減りだし、95kgあった体重が50kg近くまで激減。病院で検査を受けると、ヘモグロビンA1cが15.2%でした。足の神経障害も始まっていて、医師から、インスリン治療を始めたほうがいいといわれました。
そこでCさんは、5年前に私のところでミネラルの摂取を開始。食事に気をつけ、ウォーキングも始めたところ、4ヵ月後にはヘモグロビンA1cが6.9%まで下がりました。その後も薬に頼らず、ウォーキングなどを続けたところ、7%前後を維持できています。

ミネラル治療によるヘモグロビンA1cの変化
糖尿病は治らないといわれてきましたが、治る病気となりつつあります。現在、私のクリニックは万全のコロナ対策を講じるため、休院中。開院の準備を整えているところです。
私は、末期ガンの患者さんの治療を専門的に行ってきました。ガン患者さんには糖尿病を併発している人が多いため、糖尿病に取り組むことが必然的に求められたのです。結果として糖尿病治療の新たな可能性を追求する仕事が始まりました。
糖尿病に取り組むなかで、食事や運動の重要性もあらためて認識しました。私は、ヘモグロビンA1cが10%未満であれば、薬に頼る必要はないと思っています。食生活を改め、運動を行うことで、糖尿病は十分によくなると実感しているからです。
まずは暴飲暴食をやめる
糖尿病の原因として、過食(特に高脂肪食)、肥満、運動不足、ストレス、遺伝、加齢などが挙げられます。こうしたことをあらためていくことで、生活習慣病である糖尿病の多くはよくなります。特に治療の柱となるのは、食事と運動。ここでは、食生活の有効なポイントを五つ紹介しましょう。
❶控えるべき食品
私の糖尿病治療では、クロムを含むミネラル補給と同時に、いくつかの食品の摂取を控えてもらいます。糖尿病の場合、食事は足し算より引き算が有効です。体によくない物を控えることで病状が回復することも多いのです。
控えるべき食品は、
①白パンや白米などの精製された炭水化物
②糖分の多い清涼飲料水
③食品添加物の多い加工食品
④砂糖、化学調味料
⑤塩分の過剰摂取
⑥油を多く使う食品
などです。
こうした食品を意識して控えると同時に、まず暴飲暴食をやめましょう。微量ミネラルのクロムは、血中のブドウ糖を細胞内に取り込むときに欠かせない栄養素であることがわかっています。暴飲暴食をしていると、大切なクロムが余分に消費されるのです。
糖尿病の人は、パンやご飯、麺類などで炭水化物をとり過ぎている傾向があります。単糖類のブドウ糖や果糖を含んだ食材をたくさんとると、尿へのクロムの排出が増加します。この点からも、糖質(炭水化物から食物繊維を引いた物)のとり過ぎはよくありません。
ただし、もともと糖質は効率のよいエネルギー源として体にとって必要な物。とらないと体力が落ちるので、ほどよくとることが大事です。
ですから患者さんには、食後血糖を急上昇させる精製された白パンや白米などは控えてもらいます。かわりに、ライ麦パンや全粒粉のパン、玄米、十穀米などをとるようアドバイスしています。
同様に、砂糖や合成甘味料などが多く使われている清涼飲料水(スポーツドリンク、コーラなど)、白砂糖は極力控えましょう。清涼飲料水をよく飲む人に、糖尿病なる人が多いこともわかっています。
食品添加物の多い加工食品もよくありません。例えば、ハム、練り物、スナック菓子、インスタント食品などに使われている無機リン。こうした加工食品を多くとれば、血管内でリンがカルシウムと結合し、血管の石灰化(硬化)を進めます。心筋梗塞や心不全など、糖尿病の合併症を促すことになります。
化学調味料や塩分の過剰摂取、油を使った揚げ物などは、過食の原因となり、肥満につながるので控えめにしましょう。
1日2食で腸を休めればミネラルの吸収もアップ
❷体を温める食材をとる
糖尿病や高血圧で重症の人を調べると、低体温の人が多いことがわかっています。
私たちの生命活動をスムーズに機能させてくれる酵素は、低体温では働きが悪くなります。酵素の働きが悪ければ、糖を細胞内に取り込み、エネルギーとして使う機能も低下します。
酵素を効率よく働かせるには、体温は36.5~37度が最適。ふだんから、ショウガやニンニクなどの体温を上げる食材を意識的にとるようにしましょう。
❸ミネラルの摂取
沖縄県に糖尿病患者のいない村があります。その村の人たちは糖尿病になりやすい遺伝子を持っているにもかかわらず、誰一人、糖尿病になっていないのです。この事実に気づき、その理由を調査したのが、琉球大学医学部の益崎裕章教授です。
益崎先生がその村の人たちの食事を調べると、生のゴーヤをよく食べていることがわかりました。実際に、生のゴーヤをすりつぶし、糖尿病患者に与えたところ、症状が改善したと報告されています。
実は、このゴーヤに多いのが、クロムなどのミネラルです。クロムはゴーヤのほかにも、ヒジキ、ワカメ、ブロッコリー、アサリ、ホタテ、カツオ、パルメザンチーズ、松の実、落花生、きな粉、ココアなどに多く含まれています。こうした食品をふだんからとるように心がけるのもいいでしょう。

ゴーヤやブロッコリーなどクロムの多い食品をとるのもよい
❹1日2食で腸を休める
1日3食でおやつまでとれば、24時間、腸に何かが残った状態です。腸が疲れることになり、腸内細菌の働きが悪くなります。
また、酵素の働きを助けるミネラルの吸収も落ち、酵素自体の働きも低下します。細胞の入れ替えや組織の修復、毒素の排泄などの機能も衰え、糖尿病になりやすくなります。
私は、朝食は紅茶のみの1日2食です。夕食から次の日の昼食まで、約16時間何も食べないことになり、腸を休めることができます。
休息によって腸が回復すると、消化・吸収の能力も上がり、腸内細菌の働きもよくなります。それが、巡り巡って糖尿病にもよい影響を及ぼすと考えられます。
❺1日1リットル水を飲む
水は、血液の循環をよくし、血液中の害となるものの濃度を下げるという意味で、十分な摂取が必要です。少なくとも1日1Lの水分補給をしましょう。
こうした食生活とともに、運動(主にウォーキング)を行えば、薬なしで病状を改善させることも十分に可能なのです。
座ってばかりいると血糖値は上がる一方
糖尿病と運動習慣の間には、密接な関連があります。
両者の関係性がよくわかる事例を挙げましょう。以前、知人の産業医に頼まれて、あるタクシー会社の健康診断を行ったことがあります。調査の結果、糖尿病にかかっている人が多くて驚きました。なんと、8割もの人が糖尿病でした。
タクシー運転手は勤務時間中、ずっと座っています。お客さんの命を預かっているわけですから、緊張しますし、ストレスがかかります。体は動かさないのに、運転や接客で、頭を使うのでおなかが空きます。休憩中や勤務後の食事は、カツ丼などのヘビーなメニューを好む人が多いそうです。
しかも、隔日制の24時間勤務。休みはまる1日ありますが、24時間働いたあとなので、寝ているだけで、運動しないという人が大半。こうしたケースを見ればわかるように、運動不足が血糖値の上昇に大きくかかわっていることは間違いありません。
私は、ヘモグロビンA1cが10%未満(8~9%台)なら、薬に頼るよりも、むしろ積極的に体を動かすことが大事だと考えています。特に、60歳を超えて糖尿病といわれる数値になってきた人にはそう伝えます。
なぜ、体を動かすことが重要なのでしょうか。
筋肉を動かすことで、ブドウ糖を消費するからです。体を動かすと、エネルギーが使われます。細胞は、足りなくなったエネルギーを補給するために、エネルギーの元になるブドウ糖を血中から細胞内に取り込みます。
こうして血液中の糖の量が減り、血糖値が下がります。長時間歩いたり、運動を多めに行ったりして、エネルギーをさらに消費すれば、体内に蓄積された中性脂肪を分解し、エネルギー源として使うようになります。その結果、筋力はアップし、やせていくのです。
運動しないと、筋肉が衰え、ブドウ糖を取り込む力も弱まります。先例のタクシー運転手さんのように座ってばかりいれば、血糖値はどんどん上がる一方です。
ですから、まずウォーキングなどで足腰の筋肉を強化し、エネルギーをより多く使えるようにすることです。そうすることで、血糖コントロールが容易になります。
また、ウォーキングなどの運動は、体温を上げるうえでも効果的です。体温が上がると、体内の酵素の働きがよくなるので、細胞への血糖の取り込みも活発になるはずです。
無理のない範囲でウォーキングを習慣化しよう
ウォーキングを行うことで、血糖値が顕著に下がった例を紹介しましょう。
Dさん(50代・男性)は、都心の有名な洋食店に毎日のように通い詰めていました。連日2500キロカロリーもあるコース料理を食べていたところ、1年で15kg太り、ヘモグロビンA1cも9%まで上がってしまったのです。
相談を受けた私は、「10kmのウォーキングを日課にしたら、血糖値を含め健康診断の数値が全部よくなった人がいますよ」とアドバイス。Dさんは、万歩計をつけて、朝晩の合計で毎日10km歩くことを続けました。
すると、あっという間に体重が15kg減って元の体重に戻り、ヘモグロビンA1cも5%台の正常値になりました。食事の量は、以前よりは少し減らしたものの、コース料理を食べ続け、お酒も飲んでいるそうです。それでも体重が落ち、血糖値を含む全数値が改善したのです。
そうやって毎日のウォーキングを行うことで血糖値が改善した人を、ほかにも5人ほど知っています。ヘモグロビンA1cがむやみに高くない限り、運動さえしっかり行えば、薬なしでも糖尿病はよくなるという実感が私にはあります。
まずは、気軽にウォーキングを始めてみましょう。目標としては10km歩くことですが、最初から長い距離を目指す必要はありません。無理をすると続きませんし、ひざを痛める危険性もあります。
初めは1~2kmでかまいません。それくらいの距離なら、毎日歩けるはずです。慣れてきたら少しずつ距離を延ばしていきましょう。
血糖降下に役立つウォーキングのやり方

姿勢を正し、肩の力を抜いたリラックスした状態で、両手を前後に振って、歩幅を少し広めにとって歩きます。呼吸が乱れない程度の速度がいいでしょう。1kmが3km、5kmとなり、目標の10kmが歩けるようになるころには、血糖値にもいい影響が出てくるでしょう。
ただし、毎日といっても雨の日まで必ず外に出てウォーキングをする必要はありません。そうしたことが気持ちの負担になれば、かえってストレスになります。
雨の日は、音楽を聴いたり、テレビを見たりしながら、その場で足踏みをしたり、ゆっくりスクワットを行ったりして、楽しく足の筋力強化をはかるといいでしょう。
人間も動物です。歩くこと、体を動かすことが本来あるべき姿なのです。そうした機会が少なくなっている私たち現代人は、意識して体を動かす必要があると思います。

この記事は『壮快』2020年10月号に掲載されています。
www.makino-g.jp