解説者のプロフィール

高林孝光(たかばやし・たかみつ)
1978年、東京都生まれ。アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長。病棟研修時代から肝臓の疲労と痛みとの関連に着目し、全身の若返りを目的としたセルフケアを考案。2016年車いすソフトボール日本代表チーフトレーナーなど、スポーツトレーナーとしても活躍している。『病気を治したいなら肝臓をもみなさい』(マキノ出版)など、著書多数。
肝臓のケアでめまい、耳鳴り、肥満が改善!
「肝臓をもんでください」不調のある患者さんに私がこう言うと、たいていの方は驚かれます。肝臓をもむなど、ほとんどの人は考えたこともないでしょう。
しかし、肝臓は外から触れる数少ない臓器の一つです。しかも、「肝心(腎)要」と言われるくらい重要な臓器。代謝や解毒をはじめ、500以上もの大事な仕事をしています。
私が肝臓の重要性に気づいたのは、ボクシングの「レバーブロー」という言葉がきっかけでした。これは、右上腹部にある肝臓へのパンチで、ここを打たれると、屈強なボクサーがいとも簡単に倒れてしまうのです。
この大事な肝臓を優しくケアすれば、肝臓が元気になり、いろいろな症状が改善するのではないか。そんなことを考えていた頃、たまたま私は肩こりと腰痛に悩んでいました。そこで、試しに使い捨てカイロをはって肝臓を温めたところ、翌朝とてもらくになっていたのです。
それから私は、患者さんの肝臓を直接ケアするように。すると予想通り、体の各部の痛み、めまい、耳鳴り、不眠、肥満など、さまざまな症状が改善しました。
その経緯の中で考案したのが、肝臓マッサージでした。マッサージは、次の三つのステップで行います(詳しいやり方は後述)。
①さする
肝臓をさすって、血液を集めます。また、さすると細胞の入り口が開き、細胞の中に血液が入りやすくなります。
②なで回す(ローリング)
円を描くように肝臓をなでて、集まった血液を温めます。
③押す(ポンピング)
ポンプのように肝臓を押して、温まった血液を全身に送り出します。
いずれも、優しいタッチで行います。やり過ぎると肝臓が疲れるので、2日に1回くらいでいいでしょう。いつしても構いませんが、血流のよいお風呂上がりにすると、効果的です。
腰痛が1ヵ月で解消!髪も抜けなくなった
肝臓は血液を集めて全身に配る、血液のコントロールセンターです。肝臓マッサージで肝臓が元気になると、肝臓だけでなく全身の血流がよくなり、体温も上がってきます。
また、肝臓は血液が固まらないように、ヘパリンという物質を作っています。肝臓が元気になればヘパリンも増えて、血液がサラサラになります。
さらに、肝臓にはクッパー細胞という異物や毒素を処理する免疫細胞があります。この細胞も元気になり、免疫力(病気に対する抵抗力)が高まります。
実際にどのような効果が期待できるのか、患者さんの例を見ながら説明しましょう。
Aくん(20歳・男性)は、野球部に所属している学生です。毎日の猛練習で1年前から腰痛と腱鞘炎に悩まされるようになり、半年ほど前に来院。すぐ肝臓マッサージを始めました。
Aくんの腰は座っているだけで痛く、曲げ伸ばしすると激痛が走ります。バットを振ろうとしても腰をひねれず、左手首は腱鞘炎で痛み、野球どころではなかったそうです。
肝臓マッサージの効果は、すぐに現れました。始めた日の翌朝から腰がらくになり、ベッドからスッと起きられたのです。それからマッサージを毎日続け、1ヵ月ほどで腰痛はすっかり解消。腱鞘炎も、気づいたら消えていました。
腰痛は、表面にある筋肉ではなく、深部の筋肉をほぐさなければ痛みやこりは改善しません。深部の筋肉は触れませんが、肝臓マッサージで血流がよくなると、その部位に血液が届き、こり固まった筋肉をほぐすことができます。
その結果、短期間で腰痛や肩こり、腱鞘炎などの痛みが改善していきます。
Bさん(70代・女性)は抜け毛と指のささくれがひどく、マッサージの後、いつも枕に髪の毛が散らばるのを気にしていました。Bさんにも肝臓マッサージを勧めたところ、1週間ほどで髪が抜けなくなり、ささくれも修復しました。
肝臓マッサージをすると、末端まで血流が届くようになり、髪の毛や肌が健康になります。めまいや耳鳴りに効果があるのも、血流がよくなるからです。
四つのツボを押せば効果がアップ
肝臓マッサージの効果をさらに高めるのが、ツボ押しです。手足にある「労宮(ろうきゅう)」「陽池(ようち)」「曲泉(きょくせん)」「太衝(たいしょう)」の各ツボを10秒ほど押すと、肝臓で温められた血液が保温されます(ツボの具体的な位置は下記参照)。
四つのツボはいずれも、肝臓の機能や血流をよくして、温かい血液を全身に巡らせます。その結果、全身の臓器が元気になり、体調がよくなります。
ツボ押しは、肝臓マッサージの後や、体調が悪いときにするといいでしょう。
以上の肝臓ケアは、2分もあれば全部できるので、老若男女を問わず、どなたにもやっていただきたい健康法です。
■肝臓マッサージの効能
●体の痛み(腰痛、ひざ痛、腱鞘炎など) ●めまい、耳鳴り ●不眠 ●肥満 ●抜け毛や白髪 ●ささくれや肌トラブル ●慢性疲労 ●物忘れ ●頻尿 ……など
肝臓マッサージのやり方
●肝臓マッサージは、2日に1回ほどのペースで行う。やり過ぎはかえって肝臓が疲れるので注意。※ツボ押しは、毎日行っても問題ない。
●タイミングはいつ行ってもよい。お風呂上がりか、夜寝る前に行うのがお勧め。
●強くさすったり、押したりしない。優しくタッチすることを心がける。
●直接マッサージすると皮膚が傷つく恐れがあるので、下着やTシャツの上から行う。
① 肝臓さすり
右側の肋骨を下からなぞり、胸骨(胸部中央にある太い骨)にぶつかった少し下に手のひらを当てる。その肋骨の際が、肝臓が出ている位置。そこから肋骨に沿って、下から斜め上に、気持ちいいくらいの強さで20秒さする。

② 肝臓ローリング
①と同じところに、人さし指から小指までの指4本を当てる。円を描くように30秒間なで回す。

③ 肝臓ポンピング
両手を組み、①と同じ肋骨の際の部分を挟む。肋骨が少し動くくらいの強さで10秒間、両手に力を入れたり抜いたりして、肝臓が出ている部分を押す。


肝臓マッサージの後に押したい4つのツボ
❶ 労宮
握りこぶしを作ったとき、中指と薬指の先端が当たるところの中間。

❷ 陽池
手首の手の甲側の横ジワ上で、中央よりわずかに小指側に寄ったくぼみ。

❸ 曲泉
ひざを曲げたときにできる、ひざの裏の深いシワの内側の端。

❹ 太衝
足の甲の第1指と第2指の間を、指で足首側にたどっていったとき、骨に当たって止まる部分。


この記事は『安心』2020年9月号に掲載されています。
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