解説者のプロフィール

佐藤孝彦(さとう・たかひこ)
浦安駅前クリニック院長。順天堂大学浦安病院内科の勤務を経て、現在の医院を開院。腎臓の専門病院として人工透析などを行う他、アロマを用いた診療などの代替療法も行う。
▼浦安駅前クリニック
体に負担をかけず不調を改善できる
[別記事:手のひら診断&手もみのやり方→]
人工透析を受けている患者さんの中には、原因不明の手足の痛みやかゆみに悩む方が少なくありません。また、人工透析を長期間受けている患者さんは、扁桃炎(扁桃腺に細菌が付着して炎症が起こる状態)などのさまざまな不調を起こしがちです。
これらの全てを薬で対処しようとすると、多くの薬を使わなければなりません。薬は肝臓と腎臓で代謝されるため、薬を増やすと、人工透析を受けている患者さんの腎臓に、大きな負担がかかってしまいます。
そんなとき、体に負担をかけずに症状を和らげる手段として、「手もみ」は有効だと考えています。
手のひらには、全身の臓器や器官に対応する「反射区」が存在します。手もみは、この手のひらの反射区を刺激して、健康の維持・不調の改善を図る代替療法です。
代替療法とは、西洋医学の代わりに用いられる療法のことで、鍼灸や漢方なども含まれます。私は西洋医学だけでは治療できない病気や症状を補う手段として、長年代替療法に関心を持っていました。
二日酔いの頭痛やだるさがスッキリ
手もみを患者さんに勧めるようになったきっかけは、10年以上前の私の体験です。
ある会合に参加したとき、私は恥ずかしながら、二日酔い気味でした。それを雑談として周囲に話したところ、同じ参加者だった足利仁先生が、肝臓の反射区を押してくれました。
これが、ビックリするほど痛かった!しかし、その後すぐに頭痛や気だるさなどの二日酔いの症状が消えて、スッキリとしたのです。
強い関心を持った私は手もみの勉強を始め、自分の疲れ目や首の痛み、腰痛のケアなどに活用。その後、患者さんにも勧めるようになりました。
私は、手もみは四肢のかゆみや扁桃炎、首・肩のこり、腰痛、検査では異常のない胃腸の不調、その他気持ちが優れないなどの病名がつかない症状や、免疫力(病気に対する抵抗力)を高めてほしい患者さんに勧めています。
また、患者さんとのコミュニケーションツールとしても、手もみが役立ちます。もみ方を教える会話の中で、家での過ごし方や食事の内容など、普段の患者さんの生活習慣がうかがえるからです。
■二日酔いのだるさが消える!肝臓の反射区の押し方
■反射区の見つけ方
右手の薬指から下の延長線上にある、ボコッと出た骨のすぐ下。
■もみ方
反射区に逆の手の親指の先を当てて、手のひらに向けて垂直にグーッと7秒間押しもむ。

手のひらへの刺激は習慣化しやすい
手もみは、患者さんたちにも「簡単ですぐに効果が体感できる」と好評です。
ある40代の女性は、アトピー性皮膚炎のため、体のあちこちがジュクジュクにただれ、ひどいかゆみに悩まされていました。
これ以上強いステロイド剤は処方できないと判断した私は、かゆみが出たら手をもむように勧めました。すると、症状は徐々に改善。1ヵ月後には、ステロイド剤を半分以下まで減らすことができました。
60代のある女性は、病気でもないのに、のどの痛みなどですぐに薬をほしがる方でした。そこで、薬を処方する代わりに手もみを勧めました。彼女は日中こまめに手をもんだようで、後日、「いつもよりのどの痛みが早く治った」と報告してくださいました。
海外では、反射区を刺激すると、対応する内臓の体温が上がるという研究報告もあるようです。ただ、私自身は、手もみは反射区に対応する部位だけでなく、体全体の調子を整えて症状の改善を促しているのではないかと感じています。
患者さんにとっても、西洋医学ではどうにもできない症状を自分でケアできる点が、安心感につながっているようです。
手もみと似た代替療法に、足裏の反射区を刺激するリフレクソロジーがあります。しかし、足裏を触るには前かがみになる必要があり、腰やひざが悪い人には容易ではありません。
一方、手もみは目の前にある手のひらを刺激すればいいだけですから、誰でも習慣にしやすいのが特長です。
また、反射区の範囲は鍼灸のツボと比べると広いため、専門的な技術がなくても刺激しやすいという利点もあります。
患部に直接触れずに症状の改善が狙える点も、うれしいところです。扁桃炎の患者さんの中には、素人判断でのどをマッサージして、症状を悪化させる例があります。手もみなら、その心配がありません。
足利先生のお話では、手もみには症状の予防効果もあるのだとか。習慣にすれば、病気の予防や健康の維持が期待できるかもしれません。
[別記事:手のひら診断&手もみのやり方→]

この記事は『安心』2020年9月号に掲載されています。
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