排便の基本は、便意が起こったら直ちにトイレに行き、排便すること。それが、肛門に負担をかけず、痔にならない最もシンプルな方法です。ところが、便意がなくても決まった時間にトイレに行き、座ってから便意が起こるのを待つという人がいます。これは、痔の症状のある人には勧められない習慣です。今回は、痔を改善するための排便のポイントをご紹介しましょう。【解説】平田雅彦(平田肛門科医院院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

平田雅彦(ひらた・まさひこ)

1981年、筑波大学医学部専門学群卒業。1985年、社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、大腸肛門科の臨床経験を積む。現在は、平田肛門科医院の3代目院長。著書に『痔の9割は自分で治せる』(マキノ出版)など多数。
▼平田肛門科医院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

スマホや新聞をトイレに持ち込まない

トイレに行くときに、皆さんは、新聞や雑誌、スマートフォン(スマホ)を持って入っていませんか。痔に悩んでいる人には、これは勧められない習慣です。

なぜでしょうか。

トイレにスマホを持って入ってはいけない理由は、次の3つです。
体の声を聴かなくなる
長時間いきむ
排便に集中できない

排便の基本は、便意が起こったら直ちにトイレに行き、排便すること。それが、肛門に負担をかけず、痔にならない最もシンプルな方法です。

ところが、新聞や本、スマホを持ってトイレに入る習慣のある人は、便意がなくても決まった時間にトイレに行き、座ってから便意が起こるのを待つケースが大半です。便意がないのにトイレに行くのは、本来、不自然な行為です。こうした習慣を続けていると、自分の便意自体を気にかけなくなります。つまり、便意をとらえる感覚が鈍くなり、それが痔を誘発するリスクを高めることにつながるのです。

また、トイレの時間が長くなると、その間、必要以上におなかに力を入れていきむことになります。いきむと、腹圧とともに血圧も上がります。ふだんより40~50㎜Hgは高くなるるため、最大血圧が200㎜Hgを超えることも少なくありません。このように高い腹圧や血圧は、肛門の血管に多大な負担をかけて、痔を引き起こします。

私は患者さんに、「トイレにいる時間は3分まで」といっています。3分たっても出ないなら、いったんトイレから出てください。新聞や本を読んだり(なかにはトイレに本棚を置いている人もいらっしゃいます)、スマホを持って入ったりすると、ついつい長居してしまいます。こうした習慣は、明らかに痔によくありません。

私たちの体の中には、便を排出しようとする、自然のリズムがあります。リラックスして、心を空っぽにしていると、自分の体の声に耳を傾けやすくなります。
ところが、別のことに気を取られていると、便を出そうという体の声をとらえにくくなります。排便のチャンスを失ってしまうのです。

スムーズな排便を行うためには、手ぶらでトイレに入り、3分間、排便のリズムをとらえることに集中しましょう。

便が出やすいポーズはコレ

皆さんは、和式トイレと洋式トイレとでは、どちらが排便しやすいでしょうか。

和式の場合、背すじをまるめて足を踏ん張らねばならず、楽な姿勢ではありません。そんな和式と比べると、洋式の姿勢のほうが優れているように思えます。しかし実は、和式の姿勢のほうがずっと便を出しやすいのです。

洋式便器に座った姿勢では、直腸と肛門は、「く」の字型に曲がっています。直腸と肛門が形作る角度を、「肛門直腸角」といいますが、その角度が直角に近くなるのです。

画像1: 便が出やすいポーズはコレ

一方、和式で排便する場合は、体が前かがみになることで、この角度がまっすぐに近くなります。そのため、洋式の場合よりも、便がスムーズに進みやすいのです。

画像2: 便が出やすいポーズはコレ

洋式トイレでも、肛門直腸角を広げる方法があります。

前かがみになって、ひじを太ももの上に乗せ、かかとを軽く上げましょう。こうすると、肛門直腸角の角度が開きます。それでもなかなか出ない人は、足元に踏み台を置き、軽い体育座りのような体勢で試してみてください。

画像3: 便が出やすいポーズはコレ

いわゆる慢性の便秘には3種類あります。
1つが、腸のぜん動運動(便を送り出す動き)がが不活発になって起こる弛緩性便秘
次が、ストレスなどによって腸の活動が異常になるけいれん性便秘
最後が、便が直腸にたまって滞留してしまう、直腸性便秘です。

直腸性便秘は、便意を我慢している人が陥りがちな便秘です。便を我慢し続けていると、脳からの指令に腸が反応しなくなって、便が出なくなるのです。

上記のポーズは、特に直腸性便秘の人に勧められます。直腸性便秘の場合は、便が直腸まで来ているので、直腸と肛門の角度を開くと便が出やすくなるのです。

痔に優しいお尻の拭き方

肛門の周辺の皮膚にはシワがたくさんあるため、トイレットペーパーでふいた程度では、なかなかきれいになりません。だからといってゴシゴシこすったり、丁寧に何度もふいたりすると、肛門のシワの中に便をすり込むことになり、逆効果です。

排便後は、お尻をお湯で洗い流すのがいちばんです。最近は、自宅でも公共のトイレでも、温水洗浄式便座、いわゆるシャワートイレがふえてきました。これは、肛門を清潔にするのに大いに役立ちます。

シャワートイレがないご家庭では、排便後の座浴をお勧めします。お尻がすっぽり入るくらいの洗面器を用意し、ぬるま湯をはってお尻をつけ、手や脱脂綿で優しく肛門を洗います。お尻をお湯につけることで、肛門の血行がよくなり、うっ血を防ぐ効果も期待できます。
ただし、痔ろうの人の場合、温めると化膿がひどくなって痛みが増すので、座浴は避けてください。

シャワートイレの使用も座浴もできない場合、紙でふくことになります。その際に、ひと工夫しましょう。排便前に、トイレペーパーを小さく丸めたものを2~3個作り、それを軽く水でぬらしておきます。排便後に、それで肛門を優しくふくのです。そのあと、乾いた紙で軽く押さえて水分を取ります。くれぐれも、ゴシゴシこすってはいけません。

また、ハンディタイプの肛門洗浄剤や、スポイト式の簡易洗浄器も市販されています。外出や旅行時に携帯すると便利です。

便をよく観察する

皆さんは、ふだん、自分の便の状態を見ているでしょうか。

痔にお悩みの人は、「排便できるかどうか」という点にのみ、関心が向きがちです。便が出た段階で満足してしまい、状態まで確認しないことがほとんどです。

便をよく観察すると、自分の健康状態や食習慣を知ることができます。痔は、高血圧や糖尿病などと同じ、生活習慣病の1つです。薬や手術の前に、自分の体調や生活習慣をよく把握し、日々見直すことがとても大切なのです。

便を観察して、状態がよくなければ、その原因を考えてください。よくない便は肛門に負担をかけ、痔を悪化させます。原因を取り除いたり改善したりすることで、便の状態を理想に近づけることができます。

いい便のポイントは、次の5つです。
色は濃すぎず、薄すぎず
かさが多い
太くてやわらかい有形軟便。チューブに入った、練り歯みがき剤のやわらかさ
においが少なく、くさくない
トイレの水に浮く
トイレの水に浮くのは、食事で食物繊維がとれている証拠です。食物繊維を十分にとることで、腸内環境がよくなります。逆もまた然りです。

この5つのポイントを満たす便を出せるように、地道に生活習慣の改善に努めてください。いい便が継続的に出ることは、肛門への負担を軽減し、痔の症状緩和につながります。

なお、本稿は『痔の9割は自分で治せる』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。

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