痔を予防・改善するためには、便通を整えて肛門に負担をかけないことが大切です。便秘がちな人は、「宿便を取る」というチラシに心を惹かれたり、市販の下剤に頼りたくなったりもするでしょう。しかし、痔のためには、毎日の食生活を見直し、腸内環境を良好にして便秘を解消するのが基本です。地道ではありますが、痔を改善するためにはそれが一番の近道になります。【解説】平田雅彦(平田肛門科医院院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

平田雅彦(ひらた・まさひこ)

1981年、筑波大学医学部専門学群卒業。1985年、社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、大腸肛門科の臨床経験を積む。現在は、平田肛門科医院の3代目院長。著書に『痔の9割は自分で治せる』(マキノ出版)など多数。
▼平田肛門科医院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

便秘も下痢も肛門を傷つける

痔を引き起こす最大の要因が便秘です。かたくなった便が肛門を傷つけ、それが痔の原因となります。もともと便は、強いアルカリ性の老廃物です。便秘によって肛門が傷つけられると、その傷口から細菌が入って炎症を起こします。

しかも、便秘でトイレの時間が長くなると、必要以上におなかに力を入れていきみます。このときの腹圧は200㎜Hg以上。脳の血管なら破れてしまうような圧が、肛門周囲の血管にかかります。これも痔を誘発する要因となります。

ちなみに、下痢もよくありません。水分の多い便は、肛門粘膜に浸透して炎症を起こしやすいうえ、粘膜を弱くしてしまいます。その結果、便が通るときにこすられると、すぐに切れて裂肛になったり、そこから便が染み込んで炎症を起こしたりするからです。

痔にならないためにも、また、できてしまった痔を快方へ導くためにも、便秘や下痢を解消し、毎日いい排便をすることが大切です。

「宿便」は存在しない

よく新聞などのチラシに「宿便を取ると健康になる」などと書かれています。皆さんも宿便について、いろいろと疑問をお持ちではないでしょうか。宿便とは、いったいどういうものなのでしょうか。

それ以前に、「そもそも宿便が存在するのかどうか」という問題もあります。

結論から申し上げましょう。西洋医学的には、宿便というものはありません。

便は3つのモノから成り立っています。
①食べ物のカス
②腸内細菌の死骸
③腸粘膜がはがれ落ちたもの
これら3つが混ざり合って便を形成します。

世間に流通している宿便のイメージは、「腸壁にこびりついて取れない便」という感じでしょうか。そもそも便は、③の腸の粘膜がはがれて、それがほかの要素(①の食べカスや②の腸内細菌の死骸)と一体になったものです。
つまり、腸壁から落ちたもので便が作られるので、便が腸壁にこびりついたままということはありえません。もし宿便が実在するのであれば、大腸の手術や大腸内の検査を行うのも難しくなってしまいます。

便秘をすれば、便が長く腸に滞留することはありますが、これは宿便とはいいません。健康食品や健康器具などで「宿便を取る」よりも、食事や生活習慣を改善することで、スムーズな排便習慣を身につけることが大切です。

食物繊維の量をチェックしながら食事をしよう

便秘解消のため、最も重要なのが食事です。特に腸を刺激し、同時に便の材料ともなる食物繊維の摂取は欠かせません。

食物繊維には、水に溶けない不溶性食物繊維と、水に溶ける水溶性食物繊維があります。

不溶性食物繊維は、穀類、野菜、豆類、イモ類などに多く含まれています。便のかさを増やして腸管を刺激し、腸のぜん動運動(便を先へ送る動き)を活発化して便秘を解消します。便とともに有害物質を排出する働きもあります。

水溶性食物繊維は、果物や納豆、海藻類(ワカメ、ノリ、コンブなど)に多く含まれています。便をやわらかくして、滑りをよくし、スムーズに便を外に出すのに役立ちます。また、腸内でビフィズス菌を増加させて、腸内環境を整え、便秘や下痢を抑制する効果もあります。

不溶性と水溶性の両方の食物繊維を、バランスよくとることが大切です。また、毎日、自分が食べている食品に食物繊維がどれくらい含まれているか、おおよその量をチェックしながら食事をするといいでしょう。下の表を参考にしてください。

画像: 食物繊維の量をチェックしながら食事をしよう

日本人の食物繊維の必要摂取量は、1日当たり男性19g以上、女性17g以上です。しかし、この量を生野菜サラダだけでとろうとすると、難しいかもしれません。トマトなら10~20個、キュウリなら20本以上が必要です。

そこで、私は野菜を加熱して、かさを減らし、摂取できる食物繊維量を増やすことをお勧めしています。煮物、具だくさんのみそ汁やスープなどです。サラダにするなら生野菜より海藻がお勧めです。ワカメやヒジキを使った海藻サラダなら、食物繊維をたっぷりとることができます。

便通が整う「きな粉ドリンク」の作り方

さらに私が、食事指導の一環として推奨し、便秘解消に役立ててもらっているのが、「きな粉ドリンク」です。

きな粉は、100g中に、16・9gの食物繊維を含んでいます。これは、全食品中でも、トップクラスの量。きな粉大さじ1杯(約10g)で、1・69gもあります。食物繊維が豊富といわれている玄米ご飯の約1杯分、白米なら約3杯分に相当します。

しかも、きな粉は、不溶性と水溶性の両方の食物繊維がバランスよく含まれている点も優秀です。
きな粉ドリンクの作り方は簡単です。牛乳か豆乳180mlにきな粉大さじ1杯を入れ、よく混ぜたら出来上がり。好みでハチミツを加えてもいいでしょう。寒い季節には温めて飲んでもけっこうです。

画像: 材料をコップに入れてスプーンで混ぜるだけ

材料をコップに入れてスプーンで混ぜるだけ

朝、起き抜けに、コップ1杯のきな粉ドリンクを飲む習慣をつけましょう。
空っぽの胃に飲食物が入ると、その刺激が自律神経(意志とは無関係に血管や内臓をコントロールする神経)を通じて大腸に伝わって、ぜん動運動を起こします。これが「胃・結腸反射」という現象で、強い便意が引き起こされます。

それに加えて、きな粉の不溶性と水溶性の両方の食物繊維の働きで腸の動きが活性化するので、この点でも便通を促進してくれます。

腸内環境をよくするためには、ほかにも善玉菌を増やす食生活を心がけることが重要です。善玉菌を増やすための食品としては、発酵食品のみそやぬか漬け、納豆、甘酒などがあり、オリゴ糖を多く含むゴボウやタマネギなどもお勧めです。

お酒と香辛料は絶対に避けるべき?

お酒は血行をよくするから、痔にもいいのではないか。そう考える人は多いかもしれません。

確かに、体の冷えは痔の悪化要因となります。お酒で血行がよくなれば、冷え予防という意味では役立ちます。しかし、適量以上に飲んでしまうと、お酒は、逆に痔を悪化させる要因となるのです。
アルコールが血管を拡張し、炎症を引き起こすためです。アルコールは、肛門に対する攻撃因子と考えておいたほうがいいのです。

アルコール摂取の適量は、1日にビールなら中瓶1本、日本酒は1合、ワインはグラス1杯程度です。アルコールは、心身の緊張をほぐすために、ほどほどに飲むのがいちばんです。

同じく嗜好品であるタバコは、「便秘の解消になる」といって、吸っている人がいるようです。しかし、タバコは肺ガンの原因になったり、狭心症や心筋梗塞を誘発したりなど、さまざまな健康被害を引き起こします。
タバコには頼らずに、この本で紹介している生活習慣の改善によって、便秘解消を目指しましょう。

ほかに、日常的に口にする食品では、香辛料に気をつけたほうがいいでしょう。
香辛料の中でも、特に注意したいのが、トウガラシです。トウガラシは、腸内でほとんど吸収されず、97%は便として出てしまいます。その際、便に含まれていた刺激成分が、肛門の傷にすり込まれるのです。痔にいいはずがありません。
トウガラシ以外にも、コショウやワサビなどの香辛料には、充血を促す刺激成分が含まれています。

とはいえ、食欲を増進させたり血行をよくしたりする効果もあるので、ほどよく利用しましょう。もちろん、痔のぐあいが悪いときは、激辛料理や、食べ慣れないスパイシーなエスニック料理などは、控えたほうが賢明です。

便秘になったら下剤を使ってもいい?

頑固な便秘に悩む多くの人が、わりと気軽に市販の下剤を使っています。
便をやわらかくする軟便剤はまだいいのですが、大腸を刺激するタイプの下剤を常用していると依存性が生じ、下剤を飲まないと便が出なくなってきます。下剤に頼って、腸が努力しなくなってしまうのです。

下剤は、いつ服用をやめるかの判断が大事です。医師は、そのやめどきを前提に、下剤の処方を考えます。ですから、自己判断で市販の下剤に頼るのはやめたほうが賢明です。

また、例えば、S状結腸がけいれんして便の通過障害を起こす「けいれん性便秘」では、下剤を飲むと、さらに腸が刺激されてけいれんし、腹痛や下痢を起こすことがあります。

下剤に頼る前に、ぜひ本稿を教科書に食生活を改善して腸内環境を整え、便秘を解消する努力を心がけてほしいと思います。痔を改善するためにも、地道ではありますが、それがいちばんの近道とお考えください。

なお、本稿は『痔の9割は自分で治せる』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。

画像: ▼「切らずに治す」が今の常識▼日本人の3人に1人が“痔主”▼イボ痔、切れ痔、痔ろうの特効セルフケア▼日本の常識は世界の非常識▼痔の9割を自力で治す極意を大公開 www.amazon.co.jp

▼「切らずに治す」が今の常識▼日本人の3人に1人が“痔主”▼イボ痔、切れ痔、痔ろうの特効セルフケア▼日本の常識は世界の非常識▼痔の9割を自力で治す極意を大公開

www.amazon.co.jp

This article is a sponsored article by
''.