私はよく患者さんに、「脊柱管狭窄症でしてはいけないことは、してはいけないことを考えること」と話しています。症状は必ず改善するので、「脊柱管狭窄症ごときに人生を変えられてたまるか」と考え、前向きに日々の生活を送るようにしてください。【解説】谷川浩隆(谷川整形外科クリニック院長)

解説者のプロフィール

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谷川浩隆(たにかわ・ひろたか)

谷川整形外科クリニック院長。1962年長野県生まれ。信州大学医学部を首席卒業後、整形外科の傍ら精神科医の臨床に従事し、心身医学的な方法論をとり入れた「心療整形外科」を提唱。整形外科専門医でありながら心療内科学会の評議員に任命された。安曇総合病院副院長、信州大学医学部臨床教授を歴任し、2013年に谷川整形外科クリニックを開設。著書に『腰痛は歩いて治す』(講談社現代新書)などがある。
▼谷川整形外科クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

メンタルが不調だと痛みが増幅する

私は整形外科医として、体の症状を診る整形外科の治療をベースに、心療内科の心理療法の要素を加えた「心療整形外科」の心構えで、いつも患者さんを診療しています。

腰痛や肩こり、関節痛などの原因は、もちろん体にあるのですが、同時に、ストレスや不安といった「こころ」が密接に関係しています。整形外科においても、患者さんのこころのケアというのはたいせつなのです。

痛みには、いくつか種類があります。切り傷や打撲などの物理的なケガによる「侵害受容性疼痛」、患部から脳の間の神経が障害されて起こる「神経障害性疼痛」、症状を心配するあまり、メンタルから痛みが出てくる「心理的疼痛」の三つです。通常、これらが重なり合って、痛みが生じています。

脊柱管狭窄症も、神経障害性疼痛だけでなく、過去のことを悔やんだり、「このまま動けなくなってしまうのか」という未来への不安に駆られたりすることで、さらに痛みが増しているケースが少なくありません。そのような気持ちが、交感神経ばかりを働かせて血流が悪化し、痛み物質を蓄積させるのです。

痛みの程度は、主観によるものです。手術をして痛みが緩和し、大喜びする人もいれば、残った痛みが気になって「もう1回、手術をしたい」という人もいます。つまり、痛みを本人がどう受け取るかということも重要です。

多くの患者さんは、医師に「加齢のせいだ」といわれたら、「年だから死ぬまで治らない」とあきらめてしまいます。しかし、原因を決めつけるだけでは、何の進展もありませんので、私は「過去のことは反省しなくていい。これからやれば治りますよ」とよく話しています。

そもそも、脊柱管狭窄症の原因は、加齢や肉体労働、飲酒、喫煙などが取り上げられています。しかし、実際は「これをしたら、脊柱管狭窄症になる」と直接的に断言できる原因はないのです。

「今」に集中すると瞑想状態に近づく

私のクリニックに来られる患者さんの多くは、歩行時に腰やお尻、太ももなどに、しびれや痛みが出て足が前に出なくなる「間欠跛行」を訴えます。

私はこうしたことを踏まえ、脊柱管狭窄症をはじめとする腰痛持ちの患者さんには、心身を同時によくしていくために、歩くこと、特に「マインドフルネスウォーク」を勧めています。

マインドフルネスとは、心療内科でも精神疾患を治療するときに利用されている、気持ちを落ち着かせたり、痛みを緩和させたりする瞑想法です。ただ、いきなり瞑想するのは難しいものです。そこで、ウォーキングで「今」に集中することで、瞑想状態をつくり出すのです。

脊柱管狭窄症の患者さんは、体を動かすと、しびれや痛みが出るので、「歩いたり体を動かしたりすると、痛みが出る、具合が悪くなる」という間違った認知があります。また、医師から「あまり歩かないで、様子を見ましょう」といわれることも、まれではありません。

しかし、実際は寝たきりの人が寝返りを打つ際に強い痛みを訴えるように、人間の体は、動かさずにこり固まってしまうことで、逆に痛くなるのです。歩かなければ、筋肉は衰え、足は萎えて、ほんとうに歩けなくなってしまいます。

ガンなどの疾患が見当たらず、「様子を見ましょう」といわれたら、「歩いていい」ではありません。「歩かなくてはいけない」のです。マインドフルネスウォークは、こうした間違った認知を正す「認知行動療法」でもあるのです。

やり方は、まず肩の力を抜いて自然な姿勢を取ります。そして、腕を大きく振りながら、やや大股でかかとに体重を乗せるようにして20分、2km歩きます。こうすることで、全身の筋肉が使われます。

歩くときは、リラックスしつつ、「今、目の前のこと」だけに集中して歩きましょう。目の前の風景や風などを体で感じて、ただひたすら歩いていると、瞑想に近い状態になっていきます。

すると、過去を否定したり、未来を思い煩ったりすることもなくなります。行動を変えたことで、気持ちが明るく前向きになっていくのです。

脊柱管が狭くなった状態は変わらないので、500m歩いてしびれが出る日もあれば、1km歩ける日もあるでしょう。しびれが出てきたらいったん休憩して、しびれが治まってからまた歩けばいいのです。

マインドフルネスウォークを続けていると、自分の体を少し冷静に見られるようになります。歩いて間欠跛行が出ても、休めばいいし、これくらい進める、とわかれば、今の生活でできることをほかにもどんどん探せるようになります。

そして、初めはできなくても、くり返していくうちに2km歩けるようになるのです。

マインドフルネスウォークのやり方

画像: 「今、目の前のこと」に集中して、20分間、2kmを歩く。

「今、目の前のこと」に集中して、20分間、2kmを歩く。

焦らずあきらめなければ症状は必ず改善する

マインドフルネスウォークを患者さんに紹介するようになって以来、「歩いたら症状がよくなった」という話をよく聞くようになりました。

私が医師になって35年、何千人もの患者さんを診てきましたが、歩いて体を悪くした人は1人もいません。むしろ、しびれや痛みを恐れて歩くのを控える人のほうが、寝たきりになることがよほど多いものです。

ではここで、マインドフルネスウォークで脊柱管狭窄症が改善した患者さんの例を一部ご紹介しましょう。

「痛み止めの薬が減った!」Aさん(80代・男性)

Aさんは、脊柱管狭窄症の症状がひどく、50m歩くとしびれが出て足が止まるほどでした。その結果、自然と家に閉じこもることが増えたそうです。

しかし、毎日公園に出かけて歩くようになったところ、休みながらも歩けるようになり、消炎鎮痛剤などの薬が減らせたのです。

「手術を受けずに済んでいる」Bさん(60代・男性)

Bさんは、強いしびれや痛みが出たときに「手術をするしかない。仕事も辞めなければいけない」と思い悩んでいました。深く悩んでいるとき、人は判断を誤りがちになります。

しかし、歩き始めるようになってからは、気持ちに余裕が出てきて、焦ることがなくなりました。自分の体を冷静に見られるようになったのです。

今のところ手術もせず、仕事も辞めることなく、続けられています。

「骨密度がよくなった」Cさん(70代・女性)

Cさんは、骨粗鬆症と脊柱管狭窄症を併発。骨がもろく圧迫骨折を起こし、しびれがありました。
圧迫骨折が落ち着いてからは、「骨は使えば使うほど強くなる」と話し、歩いてもらうようにしました。すると、骨密度が改善し、しびれも気にならなくなったのです。


私はよく患者さんに、「脊柱管狭窄症でしてはいけないことは、してはいけないことを考えること」と話しています。

マインドフルネスウォークとともに、今やれることを考えてみましょう。脊柱管狭窄症の症状の改善には少し時間がかかりますが、気持ちは歩き始めたその日から変わります。

脊柱管狭窄症の心構えは、年だから治らないと決めつけない、症状改善を焦らない、あきらめないことが肝心です。症状は必ず改善するので、「脊柱管狭窄症ごときに人生を変えられてたまるか」と考え、前向きに日々の生活を送るようにしてください。

画像: この記事は『壮快』2020年9月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年9月号に掲載されています。

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