解説者のプロフィール

佐々木達哉(ささき・たつや)
ささや整骨院院長・鍼灸師。鍼灸師の免許取得後、都内接骨院に8年勤務。2016年6月、東京都中野区にささや整骨院を開院。特に、骨盤から全身のバランスを整える治療には定評がある。痛みを緩和させ、歩く力をつけるための独自のセルフケアなども指導している。
▼ささや整骨院(公式サイト)
症状の悪化を防ぐには歩くための訓練が重要
私の治療院には、脊柱管狭窄症で悩んでいる人たちがよく来院されます。そのうちの大半が整形外科で治療を受けたにもかかわらず、症状が悪化し、しだいに歩けなくなった人や、手術を勧められている人です。
皆さん、少しでも改善する方法はないか、手術は避けたいなどと思っていらっしゃるのです。
脊柱管狭窄症とは、一般に、背骨の中にある脊柱管がなんらかの原因で狭くなり、その中を走る神経が圧迫され、足腰に痛みやしびれが起こる病気とされています。手術では、痛みの原因と考えられる狭窄部位を矯正し、神経への圧迫を解放しようとするわけです。
しかし私たちは、こうした西洋医学的なアプローチよりも、むしろ、背骨やそれを支える骨盤部(股関節も含む)の動作環境を整えることを重要視しています。
脊柱管狭窄症が悪化すると、間欠跛行という典型的な症状が現れます。しばらく歩いていると、足腰に痛みやしびれが出て歩けなくなり、少し休むと症状が和らぎ、再び歩けるようになるというものです。
そのため、安静にしてばかりいると、筋肉が落ち筋力が低下し、いよいよ歩けなくなり、症状も悪化するという悪循環に陥ります。
ここで重要なのは、現在の症状をより悪化させないように、歩くためのトレーニングを続けることです。正しいトレーニングによって筋力低下を防ぎ、背骨や骨盤部が正常に作動できるように導く必要があるのです。
私は患者さんにいくつかのセルフケアを実践してもらい成果を上げています。その体操を二つ紹介しましょう。
股関節と骨盤の連動がスムーズになる
まず、「ハイハイ歩き」です。これは、間欠跛行が悪化し、20分以上続けて歩けない脊柱管狭窄症の患者さんに勧めています。
やり方は簡単です(下記参照)。赤ちゃんになったつもりで、両手両足を使って歩いてください。部屋の中を8の字を描きながら、5分ほど歩くといいでしょう。
赤ちゃんは筋肉も骨も関節も未発達です。にもかかわらず滑らかに動き回ります。これは、ハイハイ歩きが極めて理にかなった歩き方だからです。
脊柱管狭窄症が重症化した患者さんは、文字どおり、歩けなくなりつつありますから、赤ちゃんの動作を学ぶことが、かっこうのトレーニングとなります。
ハイハイ歩きのやり方

❶床に両手、両ひざをつき、背すじを伸ばし、顔を上げる。

❷赤ちゃんのハイハイのイメージで、右手→左足→左手→右足の順でゆっくり前に進むことをくり返す。できれば、部屋の中を8の字を描きながら5分ほど歩く(向きは問わない)。

もう一つの体操が「足の数字書き」です。あおむけになって足で空中に数字を書くトレーニングです(下記参照)。
足の数字書きは、歩行時に欠かせない股関節の動かし方の練習になります。くり返せば、足が前に出やすくなります。同時に、筋力低下を起こしつつある足腰の筋力トレーニングにもなります。
数字を1から30まで書くのが一つの目標です。最初は無理せずに、まずは10まで行ってみましょう。少しずつ書く数字を増やしていけばいいのです。
足の数字書きのやり方

❶あおむけになり、右足を上げ、股関節、ひざ関節、足首の関節をそれぞれ90度に曲げる。

❷右足で空中にゆっくり数字の1を書く。続いて2,3…10と書いたら両足を伸ばして休む。
❸左足でも同様に、足で数字を1~10まで書く。
※慣れてきたら少しずつ書く数字を増やし、30を目標とする。
いずれの体操も、1日1回でいいので、毎日続けてください。併せて、実際に歩く機会をつくり、少しずつ歩く時間を延ばしていきましょう。
歩く際には、股関節と骨盤がスムーズに連動する必要があります。二つの体操を続けることによって、この連動が円滑にできるようになれば、足腰にかかる負担が減り、痛みやしびれも徐々に出にくくなるでしょう。
では、セルフケアの体操が役立った例を紹介しましょう。
Aさん(60代・女性)は、朝の起床後すぐに鎮痛薬を飲んでいました。そうしないと腰の激痛で身動きが取れないのです。30分待つと薬が効き、ようやく朝の家事を始められますが、数時間後に薬が切れれば、また痛みが復活。
かなりつらい状態でしたが、自宅で体操を続けてもらいながら少しずつ歩く距離を延ばしてもらいました。その結果、3ヵ月で痛みはほぼ消え、普通に歩けるようになり、薬も不要になりました。
脊柱管狭窄症の治療では、セルフケアの果たす意義はとても大きいのです。お悩みの皆さんは、ぜひお試しください。

この記事は『壮快』2020年9月号に掲載されています。
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