解説者のプロフィール

原幸夫(はら・ゆきお)
いいだ整骨院・鍼灸院・いいだカイロプラクティック院長。柔道整復師。鍼灸・あんまマッサージ指圧師。中国に渡り鍼麻酔、中国鍼を研修。東洋医学、カイロプラクティックの技術を用いて、日々治療にあたっている。著書に『誰でもスグできる! ねこ背をぐんぐん治す!200%の基本ワザ』(日東書院)など多数。
▼いいだ整骨院・鍼灸院・いいだカイロプラクティック(公式サイト)
筋膜のゆがみが取れて神経の働きや血流が改善
首や肩、腕の痛みやコリに悩んでいる人は、筋膜が原因かもしれません。
筋膜とは、筋肉を包んでいる薄い膜のことで、ボディスーツのように全身を覆っています。ところが、この筋膜は、悪い姿勢や加齢などが原因で、かたくなったり、ゆがんだりします。
そうなると、歩きづらくなったり、関節が曲がりにくくなったりするなど、体の動きが悪くなり、痛みやコリが出やすくなるのです。
また、前述したように、筋膜どうしはつながっているため、ある箇所の筋膜の異常のせいで、全く関係のない箇所に痛みが生じる場合もあります。
そのしくみは、テントにたとえられます。テントの支柱(ポール)を骨、布(シート)を筋膜だと想像してください。
テントを張るときは、支柱だけでなく、布をピンと引っ張ることで、全体が安定します。この状態で、布の一部分を引っ張ると、どうなるでしょうか。引っ張った箇所の布がゆがむだけでなく、全く別の箇所の布もゆがんでしまいます。それが原因で、テント全体が傾く恐れさえあるでしょう。
そこで有効なのが、ゆがんだ箇所以外のシートを直すことです。テント全体はつながっているので、別の箇所のシートを調節すれば、引っ張った箇所やテント全体を整えることが可能です。
この考えを応用した健康法が、今回ご紹介する「手の甲つまみ」です(やり方は下記参照)。その名のとおり、手の甲を刺激することで、全身の筋膜にアプローチできます。
手はもちろんのこと、特に筋膜のつながりが近い、首や肩、腕の筋膜の解放に役立ちます。
手の甲の皮下組織には、多くの神経と血管が走っています。手の甲の筋膜が解放されれば、神経の働きや血流がよくなります。こうして、手や腕の痛みやしびれ、肩や首の痛みやコリの改善に、大きな力を発揮するのです。
また、肩やひじ、手首、指の関節が動かしやすくなるので、五十肩や腱鞘炎、ヘバーデン結節(指先から一つめの関節に痛みや腫れが出る疾患)、バネ指などの改善にも役立ちます。
手の甲つまみを行って、痛みを感じたり、皮膚が突っ張ったりする箇所が見つかったら、それこそ、筋膜がかたくなったり、ゆがんだりしている証拠といえます。その影響が、手の甲の神経や血流に現れているわけです。
そこで、その箇所を5秒程度つまんで、軽く引っ張ったり、上下左右に動かしたりしましょう。手の甲の筋膜が、柔軟性を取り戻します。
手の甲つまみのやり方


左手の甲全体や指と指の間を、右手でまんべんなくつまみ、痛む箇所や、皮膚が突っ張る箇所があったら、そこを軽く引っ張ったり、上下左右に動かしたりする。右手も同様に行う。
※目安は5秒。
※1日1回行うのが基本。何回行ってもよい。
五十肩や腱鞘炎が軽快した人も
私の治療院では、患者さんに手の甲への刺激を勧めています。なかでも、手や腕の痛み、しびれ、むくみの改善には、すばらしい成果が現れています。
ほかにも、手から肩にかけての関節の動きがよくなった、五十肩や腱鞘炎が軽くなった、手や腕の倦怠感や疲労感が取れたという声が、続々と届いているのです。
また、女性の場合、指が細くなったり、手が小さくなったり、手の甲にあったシミやシワが取れたりした、と喜んでいるかたもいます。
手の甲に現れたシミやシワは、血行不良が原因のことがほとんどです。手の甲の刺激によって血行がよくなれば、シミやシワが取れても不思議なことではありません。手指の血行がよくなるので、冷え症のかたにもお勧めです。
また、手の甲のツボ刺激を同時に行えることも、手の甲つまみの利点です。手の甲には、たくさんのツボが存在するので、ツボの位置を知らなくても、自然と刺激することができるのです。
手の甲にあるツボをつまんだとき、痛みや皮膚の突っ張りを感じたときは、そのツボに対応する部位に異変が現れている可能性があります。ツボ刺激の効果で、思わぬ症状の改善にもつながるかもしれません。
手の甲つまみは、場所と時間を選ばず手軽に行えます。1日に何度行ってもかまいません。ぜひ今日からお試しください。

この記事は『壮快』2020年9月号に掲載されています。
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