解説者のプロフィール

安珍永(あん・じんよん)
椿漢方クリニック院長。1969年生まれ。東国大学韓方医学部卒業。韓医学博士。2006年より日本に留学し、東京で和漢医療(西洋医学と東洋医学を組み合わせた医療)と鍼灸、整体を学ぶ。08年、ソウルにて椿漢方クリニック開設。症状を治すだけでなく、自己治癒力を強化して体質から改善する治療を行う。
※ハチミツは1歳以下の乳児には与えないでください。
真っ先に吸収されて二日酔いを早く覚ます
私の母国・韓国では、「食べる」ことで健康を維持するという考えが、伝統的に根づいています。精製加工されてできたサプリメントや健康食品よりも、自然由来の食べ物に価値をおく傾向があります。
そうした暮らしにおいて、非常に身近で、どこの家庭にも常備されているのが「ハチミツ」です。水やぬるま湯にハチミツを溶いた「ハチミツ水(湯)」は、家庭はもちろん、市中の喫茶店でも、定番の飲み物です。老若男女、世代を越えて一般的であり、もはや食習慣の一つといってもいいでしょう。
ハチミツの優れた効能として挙げられるのは、主に疲労回復や滋養強壮、およびハチミツの微細な分子による、皮膚や消化器内壁への保護膜形成と、細胞再生作用です。
韓国ドラマをよくご覧になるかたなら、お酒を飲み過ぎた夫に、妻がハチミツ水を差し出すシーンを見たことがあるのではないでしょうか。二日酔い対策というわけですが、実際、これは韓国ではよくあることです。
アルコールは、体内に入ると初めは熱を発生しますが、時間が経つにつれて「冷」の性質になり、それが、酔い覚めの頭痛や吐き気といった二日酔いの症状をもたらします。
一方、ハチミツの性質はやや「熱」性であるため、内臓を温めます。また、ハチミツの糖は微細なため、真っ先に体に吸収されて、エネルギーとなります。これが、早く酔いを覚まし、体調を戻すことにつながるというわけです。
ハチミツのような熱性を持つ食品は、韓方でいう脾胃(ひい)、すなわち消化器系が冷えがちな「寒体質」の人に、大変適しています。日本人には、冷え症のかたが比較的多いので、ハチミツは健康補助食品として、利用価値が高いといえます。
疲労回復や滋養強壮に効くというのも、ハチミツの豊富な栄養と、この迅速なエネルギー源としての作用によるものです。
冷やしても温めても効能は変わらない
私は韓方医なので、ハチミツそのものやハチミツ水を、患者さんに薬として出すことはありません。とはいえ、「ハチミツ水が健康に役立つか」と患者さんから聞かれれば、熱体質でないかぎり、お勧めしています。
加えて、韓方薬の処方自体にハチミツを含ませることはよくあります。生脈散(しょうみゃくさん)、双和湯(そうわとう)、瓊玉膏(けいぎょくこう)などがそれに当たり、いずれも、滋養強壮や疲労回復などに有効です。
私のクリニックでは、生脈散は夏に、双和湯はそのほかの季節に常備し、患者さんに処方します。私自身も、お茶のような感覚で、よく飲んでいます。
瓊玉膏は、主材料の一つがハチミツです。これは、年間を通して、体質に合った患者さんに処方しています。
ハチミツ水の作り方について特に決まりはありません。適量の水やお湯に、好みの量のハチミツを溶かすだけです。1日に1~3回程度、飲むとよいでしょう。
ちなみに、ハチミツ水は、冷やしても温めても、その効能に変わりはありません。暑い夏には、氷水で作るのもお勧めできます。先に述べたとおり、ハチミツは熱性なので、のど越しは涼やかでも、おなかを冷やすことはありません。
ただ、温めるときは注意が必要です。ハチミツは加熱し過ぎると、その有効成分が損われてしまいます。ですから、熱湯を用いるのは厳禁です。ホットで飲むときでも、必ずぬるま湯で溶かしてください。
また、人によっては、ハチミツ水を飲んだあと、口が渇くような感覚が起こることがあります。このような場合は、体内で熱が過剰に産生されていると考えられるので、飲むのを控えたほうがよいでしょう。

冷たくしてもおなかが冷えない
ハチミツは分子が非常に小さいため、細菌やウイルスなどといった微生物の影響も受けません。天然のハチミツを長期保存しても劣化しないのはそのためで、先に述べた保護膜の形成や細胞再生作用も、こうした特性から生まれるものです。
ですから、ハチミツは、美容にも大いに役立ちます。内から外から取り入れることで、肌や髪などの細胞の、修復や再生が促されるのです。実際、韓国では、芸能人がテレビ番組などで健康・美容法としてハチミツに言及することが、しばしばあります。
これは、どの国も事情は同じかと思いますが、ハチミツは養蜂の条件や製造過程により、品質に著しい差が生まれます。管理の行き届いた良質なハチミツは、価格も相当なものです。
韓国では、こうしたハチミツが、大事な人やお世話になった人への贈答品として、しばしば用いられます。私も、いいハチミツをいただいたときは、ハチミツ水にしたり、木のさじでハチミツをすくい、白湯を添えてなめたりします。もちろん、薬効を損わない形で、料理に使うこともあります。
皆さんもぜひ、健康と美容のため、ハチミツ水を食習慣に取り入れてはいかがでしょうか。
壮快編集部おすすめの
ハチミツ水の作り方
※ハチミツは1歳以下の乳児には与えないでください。

【材料】(作りやすい分量)
・ハチミツ…大さじ2杯(約40g)
・水…500ml
※ハチミツの量は好みで調整してよい。

【作り方】
ハチミツを水に少量ずつ溶き入れ、均一に混ぜる。

レモンや塩を加えてもよい。

さまざまな種類のハチミツを試すのもお勧め。
【飲み方と注意】
・1日に500ml~1L程度を目安に飲む。
・冷蔵庫で2~3日は保存可能。
・温めて飲む場合は60度くらいまでを目安にし、加熱し過ぎない。

この記事は『壮快』2020年9月号に掲載されています。
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