解説者のプロフィール

坂田英明 (さかた・ひであき)
川越耳科学クリニック院長。埼玉医科大学卒業後、帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手を務める。ドイツ・マグデブルグ大学耳鼻咽喉科研究員、埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科副部長、目白大学保健医療学部言語聴覚学科教授を経て、2015年、川越耳科学クリニックを開設。『耳鳴りは1分でよくなる』(マキノ出版)など、著書多数。
※ハチミツは1歳以下の乳児には与えないでください。
有力なセルフケアとして患者さんに勧めている
耳鳴りやめまいといった症状の改善に重要なのが、患者さんのセルフケアです。
病気の原因が明白であれば、医師は当然、その原因を取り除く治療を行います。しかし耳鳴りやめまいは、原因が特定できないことも少なくありません。そして、そのようなケースでは生活習慣の改善が、症状を軽快させる場合が多いのです。
また、原因が特定できるケースであっても、耳のためによい生活習慣の実践が、より早期の回復につながることは、いうまでもありません。いずれにせよ患者さん自身が「治そう」という意識を持ち、セルフケアの重要性を認識し行動することが、症状改善には不可欠です。
私は耳鼻科医として、日ごろから、いくつかのセルフケアを患者さんに勧めています。なかでも食習慣で有力視しているのが、今回ご紹介する「ハチミツレモン水」です。
甘くておいしいハチミツレモン水が、なぜ、耳の機能の改善に役立つのでしょうか。その前に、耳鳴りやめまいについて、少し話しましょう。
耳鳴りやめまいと、密接に関連しているのが、耳の血液循環です。内耳(頭蓋骨の内部に位置する、耳の最も奥に当たる器官)には、非常に細い、クモの巣のような血管が張り巡らされています。
その微細さゆえ、内耳は、ストレスによる負荷や気圧の変化といったさまざまな影響を受けやすく、容易に血流が悪化します。
内耳の血流が悪くなると、むくみが生じます。耳鳴りやめまいの原因の多くを占めているのが、この、内耳の血流不全や、むくみなのです。
有効なビタミンB群と不足しがちな水分を補給
そこで注目なのが、ハチミツレモン水です。
ハチミツにはビタミンやミネラルが豊富に含まれています。特に注目したいのが、ビタミンB群。細胞内の代謝を助ける役割を持ち、体内でエネルギーを生み出すのに欠かせません。
ビタミンB群の働きとして、血行促進や疲労回復が知られています。さらに、B群のなかでもナイアシンは、末梢血管の血流を促進します。内耳の微細な血管に、血液が滞りなく流れるようになれば、耳鳴りやめまいが改善に導かれるでしょう。
また、高齢のかたは、頻尿を気にして水分の摂取を控えがちですが、これも血流を悪くする一因です。ハチミツを水に溶かして飲めば、水溶性のビタミンB群と、不足しがちな水分を、同時に補給できます。
ハチミツに多く含まれる糖分が、耳鳴りやめまいの改善に有用な場合もあります。
もちろん糖尿病の患者さんなどは、摂取を制限する必要がありますが、本来、糖は耳の機能維持に必要な栄養素です。実際、低血糖からめまいの症状が起こっているときには、ブドウ糖を点滴することもあります。
ハチミツの糖は、主に果糖とブドウ糖です。これらはいずれも単糖類と呼ばれ、構造上、糖として最小の単位です。かたや砂糖は、果糖とブドウ糖が結合したショ糖を主成分とします。よって、砂糖よりハチミツのほうが、体に入るとすばやく吸収されるというわけです。
レモン汁を入れるのは、ビタミンCの抗酸化作用や、クエン酸の代謝促進作用を期待しての工夫です。もちろん、酸味が加わることで、よりおいしさが増します。お好みで、ミントの葉を加えるのもお勧めです。
私自身、ハチミツレモン水を作って、毎日朝晩、飲んでいます(作り方は下記参照)。水は、できれば、塩素の多い水道水は避け、ミネラルウォーターを使うのがベターです。また、保存に使う瓶は、化学物質で作られたペットボトルよりも、ガラス製のほうが望ましいでしょう。
診察時の問診のなかで、患者さんにハチミツレモン水を勧めることも、もちろんあります。冒頭に述べたとおり、耳鳴りやめまいの症状を克服するうえで肝心なのは、患者さん自身の変化、つまり生活習慣の改善です。特に、以下の3点は、患者さんに必ずお伝えしています。
❶寝る3時間前に夕食を終える
❷ぬるめの湯で半身浴をする
❸寝る前にコップ1杯、水を飲む
これらを実践したうえで、ハチミツレモン水を飲むことを習慣づければ、耳を含め全身の血液循環がよくなります。耳鳴りやめまいなどの症状も、きっと改善に向かうでしょう。
坂田先生のハチミツレモン水の作り方
※ハチミツは1歳以下の乳児には与えないでください。

【材料】(2~3日分)
・ミネラルウォーター…1L
・ハチミツ…大さじ3~4杯
・レモン汁…1個分
【作り方と保存】
すべての材料をよく混ぜる。ガラス製などの瓶に入れ、冷蔵庫で保存する。3日ほど日もちする。
【飲み方と注意】
・朝と晩に、コップ1杯ずつ飲む。
・朝はぬるい程度に温めるとよい。
・逆流性食道炎や胃の疾患がある人はレモン汁の量を調整し、体に合わない場合は飲用を控える。

この記事は『壮快』2020年9月号に掲載されています。
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