骨にある程度の衝撃や負荷を加えれば、新たな骨が生まれるといわれています。ただ、骨に衝撃を与える運動の多くは、股関節やひざ関節に負担がかかります。そこでお勧めなのが、自分の体の重みを負荷にして床との接地面積を小さくする体操です。【解説】笠谷房子(フィットネス・エデュケーター)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

笠谷房子(かさたに・さこ)
フィットネス・エデュケーター。1950年生まれ。1981年にカナダ・バンクーバーに留学し、フィットネスの理論や指導法を学ぶ。帰国後は自身のスタジオ「スタジオ・サコア」をはじめ、各地でピラティスを指導。著書に『50歳を過ぎても 骨は強くなる!』(新星出版社)などがある。

測定技師も驚きの骨密度の高さ!

私は、30歳頃にカナダで単身留学をしたり、アメリカ旅行に行ったりと、世界各地を飛び回りました。

しかし、その最中に何度も、瀕死の状態になるような大事故に遭っています。今この世にいるのが不思議なくらいの事故でしたが、骨折もなく生き延びています。運と骨が強かったからでしょうか?

しかしその後、後遺症のせいか、第4・第5腰椎(背骨の腰の部分)の間にズレやゆがみが生じました。ここは、今でも時折痛みます。医師からは、「将来は歩けなくなるかもしれない」と言われたこともありました。

また、事故だけでなく、2回の開腹手術で、今でも腸の癒着に悩まされています。さらに昨年は、左肩腱板損傷の診断も受け、現在手術を延期している状態です。

こんな経験をしているため、2004年頃から、骨や関節を支える深層筋を意識した体幹トレーニング「ピラティス」の講師として、活動を始めました。

では、筋量を増やすトレーニングが主だった私がなぜ骨に関心を持ったのか。きっかけは、2008年9月のことでした。

ある日、私はひざに違和感を覚えて、スポーツクリニックを受診しました。このときに、医師から「高齢になってきたし、骨密度検査も受けてみては」と勧められたのです。

女性は閉経後に女性ホルモンの分泌量が減るため、骨量が低下するといわれています。そして、年を追うごとに骨がもろくなる骨粗鬆症になりやすくなります。

私は30代で子宮と片方の卵巣を摘出しているため、女性ホルモンの分泌量は期待できません。そのため、骨密度は低いだろうと思っていました。

ところが、初めての検査後、測定技師が私に駆け寄り、開口一番「何か運動をしているのですか?」と問われました。このときの私の骨密度は、若年成人比較で108%。当時58歳の私の骨密度が、20~40代の女性よりも高かったのでした。

測定技師には「今までたくさんの患者を診てきたが、あなたが一番高い数値かもしれない」と言われました。私は単純なので、その言葉がうれしくて、帰る頃にはひざの違和感をすっかり忘れてしまいました。

亡き父は、骨つぼから遺骨がはみ出るくらい骨が残っている人でしたから、私の骨密度の高さは、遺伝もあるのでしょう。しかし、長年続けていた運動や食事の管理も、骨量の高さと骨の強さに関与しているのではないかと感じました。

同年代と比べると骨密度は144%

そこで私は、最初の検査以降「どうしたら骨が強くなるのか」を考え始めました。そして、毎年自分の誕生日後に、骨密度検査を受けるようにしたのです。

結果は、多少の増減はあるものの、毎年増加傾向にあります。昨年の検査結果では、若年成人比較で112%、同年代比較で144%に! 年齢を重ねても、自分の努力次第で骨は強くなると確信できました。

画像: 笠谷先生の骨密度の推移。10年以上約110%の骨密度を維持している

笠谷先生の骨密度の推移。10年以上約110%の骨密度を維持している

私は骨密度を維持するため、カルシウムはもちろん、コラーゲンやビタミンD、Kなどを積極的にとるようにしています。

というのも、骨の約20%はコラーゲンでできているためです。ビタミンDは体内でカルシウムの吸収を助けますし、ビタミンKはカルシウムを骨に沈着させます。

さらに、運動では「骨に刺激を与える」ことを意識したエクササイズを取り入れました。

骨の中に存在する骨細胞が衝撃を感じると、新しく骨を作る骨芽細胞と、古い骨を破壊する破骨細胞が活発化します。この働きによって、骨は日々生まれ変わっています。そのため、骨にある程度の衝撃や負荷を加えれば、新たな骨が生まれるといわれています。

「私はもう年だから……」と、座ってばかりの生活を送っていると、骨は休憩に入ってしまいます。そして、次第に骨の量は低下し、軽石のようにスカスカになってもろくなり、骨粗鬆症になってしまうのです。

では、骨に刺激を与える運動とはどういったものでしょうか。私のお勧めは、踏み台昇降や片足ケンケン、縄跳び、ジョギングなどです。私自身は、通常の階段よりも少し高い踏み台を自作し、踏み台昇降を習慣にしています。

体を地面から離す骨ストレッチがお勧め

ただ、骨に衝撃を与える運動の多くは、股関節やひざ関節に負担がかかります。そこでお勧めなのが、自分の体の重みを負荷にして床との接地面積を小さくする体操です。

具体的に説明すると、カートを押したり、いすに座ったりすると、6本の足が地面についていることになります。それを、通常の立ち姿勢である2本足、さらには片足1本立ち……と、床と体の接地面を少なくすることで、骨に体重の負荷をかけ、強くしていくということです。

今回は、この床などの接地面積を小さくした、骨を強化する4つの体操「骨ストレッチ」をご紹介します。

■骨ストレッチQ&A

Q1. 1日に何回行うのがお勧め?

A1. 1日1回は必ず行いましょう。
このストレッチで大事なのは、数をこなすよりも、継続することです。最初にがんばり過ぎると、続けるのがつらくなってくるので、最低でも1日1回は行うよう心がけましょう。

Q2. いつ行うのが効果的?

A2. いつでもOKです。
基本的には、どのタイミングで行っても問題ありません。特にネコのポーズは、起床後に行えば目覚めがよくなり、呼吸もらくになります。また、就寝前に行えば、血流がアップし、深い眠りも期待できます。

Q3. 注意することは?

A3.
①安全を確認し、無理なく行う。
けがをしないために重要です。関節痛や腰痛がある方は、がんばらずに、無理なく行ってください。
②呼吸を止めない。
呼吸は止めないように、常に自然な呼吸で行ってください。
③水分補給はしっかりと。
ストレッチを行う前後には、必ず水分補給をすること。どの運動をするにも、こまめに水分補給をするようにしてください。

Q4. 足が上がりません……。

A4. できる範囲で行うだけでも、効果が見込めます。
骨を強くするには、床と体の接地面を少なくすることがポイント!Q1でも述べた通り、最も大切なのは継続です。思うように足が上がらないときは、できる範囲でやってみましょう。

Q5. 効果を上げるポイントは?

A5. 背骨のつながりを意識して行いましょう。
背骨は、首に7個、胸に12個、腰に5個、仙骨に5個の骨がくっついた塊、尾骨と、積み木のようにつながっています。年を重ね、何もしないでいると、背中が丸く固まり、呼吸も浅くなってしまいます。背骨の一つ一つのつながりを感じながら、スムーズに動くよう心がけましょう。

骨ストレッチのやり方

①ネコのポーズ

背骨は積み木のようにつながっていて、骨の内部には他の部位と同様、細い血管が通っています。長時間同じ姿勢でいると、背骨が固まってネコ背になり、内臓に悪影響を与えたり、呼吸が浅くなったりします。

「ネコのポーズ」では、背骨一本一本の流れを意識することで、背骨・骨盤・内臓の位置を、本来あるべき場所に正して血流をアップさせます。

【①~③を2~3回くり返す】

画像1: 【骨粗鬆症を予防】骨が強くなるストレッチ4種を紹介 考案者は骨密度100%超えを10年以上キープ

ボールを抱え込むイメージで、両手を前方に伸ばして組む。へそをのぞき込むように下を向き、10秒間キープする。
 

画像2: 【骨粗鬆症を予防】骨が強くなるストレッチ4種を紹介 考案者は骨密度100%超えを10年以上キープ

 
 
 
背もたれのあるいすに少し浅く腰かけて、背すじを伸ばす。
 
  
 

画像3: 【骨粗鬆症を予防】骨が強くなるストレッチ4種を紹介 考案者は骨密度100%超えを10年以上キープ

 
①の姿勢に戻った後、両手でいすの背もたれを持つ。足の甲を地面に向けるよう後方に伸ばし、胸を前に出すようにして体を反らして斜め上を見る。この状態を10秒間キープ。

②片足立ち

バスが急発進・急停車して、体がぐらついたことはありませんか? 片足立ちを行うことで、骨や関節に近い筋肉を意識し、バランス感覚を高めます。

【両側を1回ずつ行う】

画像4: 【骨粗鬆症を予防】骨が強くなるストレッチ4種を紹介 考案者は骨密度100%超えを10年以上キープ

 
 
いすの左横に立ち、背もたれに軽く手を添える。

背中をまっすぐ伸ばし、おなかに力を入れて左足を持ち上げる。股関節とひざ関節が平行になるのが理想だが、難しい場合は足をできるだけ地面から離すだけでよい。

左手を天井にまっすぐ上げた状態で、10秒間キープ。
右に重心をかけないように!
背骨を意識し、まっすぐ立つ。
反対側も同様に行う。

③いす押し

いわゆる「腕立て伏せ」の立ちポーズです。息をゆっくりと吐きながら、肩甲骨をグーッと引き寄せることで、ネコ背の解消や、背骨を正しい位置に戻す効果があります。

【10~20回行う。】
※いすが前方に動かないよう、前方を壁や大きいテーブルなどで固定する。
※足が滑らない場所で行う。

画像: ③いす押し

呼吸は止めないこと!
ゆっくり息を吐きながら、体重を前にかける。元の姿勢に戻るときは、ゆっくり息を吸う。

いすから20~30㎝離れた場所に立ち、両手で背もたれの両端を持つ。

片足を後ろに伸ばし、ゆっくり息を吐きながら、胸を背もたれに近づける。

息を吸いながら、①の姿勢に戻る。

④肩のストレッチ

肩関節周りの柔軟性を高めて、リンパ(体内の老廃物や毒素、余分な水分を運び出す体液)や血の流れを促します。肩こりの解消や、わき腹の可動域を広げる効果もあります。

【両側を1回ずつ行う。】

画像5: 【骨粗鬆症を予防】骨が強くなるストレッチ4種を紹介 考案者は骨密度100%超えを10年以上キープ

壁から左に20~30cm離れ、横向きに立つ。

体を①の状態にしたまま、両手を胸の高さで壁に付け、左手だけを徐々に上に伸ばしていく。

右足を1歩前に出し、体を壁に寄せる。体重が左側にかかるようにする。

左腕の上に頭を乗せ、10秒間キープする。
反対側も同様に行う。

エクササイズはなによりも「継続」が重要。この四つの動きは、いつでもどこでも実践できます。行うタイミングは、起床後や就寝前がいいでしょう。

また、健康維持のためには、明日は今日よりも、少しだけ負荷や回数を増やすことをお勧めします。少しずつ運動強度を高めれば、老化は抑えられます。

ぜひ、このストレッチで骨を強くして、「加齢」を「華麗」に笑って過ごしてください。

画像: この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.