東日本より西日本の方が、骨折する女性が多いことをご存じでしょうか。「納豆の消費量が多い地域」と「大腿骨近位部骨折の発生率が低い地域」が、ほぼ一致したとの研究結果が報告されています。ポイントは「ビタミンK」と「ゲニステイン」です。【解説】兒島茜(管理栄養士)

解説者のプロフィール

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兒島茜(こじま・あかね)
管理栄養士。京都栄養医療専門学校講師。大阪医科大学 衛生学・公衆衛生学Ⅰ・Ⅱ教室 玉置淳子教授の指導の下、JPOSデータの研究を用いて栄養と骨の関係を研究している。

東日本の方が骨折する女性が少ない

東日本より西日本の方が、骨折する女性が多いことをご存じでしょうか。

その違いは、「納豆を食べているかいないか」の差にあるのではないか。これは、整形外科医などの間では、以前から知られていた仮説です。

実際に「納豆の消費量が多い地域」と「大腿骨近位部(股関節部)骨折の発生率が低い地域」が、ほぼ一致したとの研究結果が報告されています。

この納豆の摂取と骨折リスク減少の関係は、個人でも同じ結果が得られるのか。この疑問を、国内で骨の健康に関する最長の追跡期間を誇る疫学研究(集団を対象に病気の原因や発生状態を調べる統計的研究)「JPOS研究(主任研究者:近畿大学 伊木雅之教授)」のデータを用いて調査しました。

研究の対象にしたのは、45歳以上の閉経した女性1417人。これらの女性が納豆を食べる頻度と、その後約15年間にわたる骨粗鬆症性骨折発生の調査データを照らし合わせ、関連性があるか調べました。

骨粗鬆症性骨折とは、骨がスカスカになって弱くなったことが原因で、手をついたり尻もちをついたりと、弱い力で起こる骨折のことです。今回の研究では、この骨粗鬆症性骨折の発生率が、納豆をよく食べる人とあまり食べない人とで違いがあるかを比べました。

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その結果を示したのが、上の表です。週1~6パックの納豆を食べた人は、週1パック未満しか納豆を食べなかった人と比較すると、骨折発生率が20%低いという結果が出ました。

さらに、1日1パック以上の納豆を食べた人は、骨折する確率が44%も低かったのです。

なお、豆腐や枝豆など他の大豆製品を食べる頻度と、骨折の発生率には、関連はありませんでした。

納豆には骨にいい成分が豊富

ここから推測できるのは、「他の大豆製品にはない、納豆だけに含まれる栄養素が骨を強くする」ということ。その条件に該当するのが、次の二つの成分です。

ビタミンK

ビタミンKとは、納豆に多く含まれるビタミンです。納豆1パック(約40g)には、およそ350μgのビタミンKが含まれています。ちなみに、ビタミンKの1日の摂取目安量は150μg。納豆1パックで、この量を十分に満たしています。

では、ビタミンKはどのようにして、骨を強くするのでしょうか。その作用としては、次の2点が挙げられます。

①カルシウムを骨に沈着させる

ビタミンKには「オステオカルシン」という、骨の中にあるたんぱく質を活性化する作用があります。オステオカルシンの活性が高いと、新しい骨が作られやすいといわれています。

②骨質をよくする

骨の強さのことを「骨強度」と言い、これは骨密度と骨質のかけ合わせで決まります。

骨を建物に例えて、簡単に説明すると、骨密度は木材の本数、骨質は木材の組み方のようなものと言えるでしょう。木材の本数が多ければ、建物は強くなります。一方、木材の本数が同じなら、均一に組まれている方が、建物の強度が増します。

つまり、骨密度が高い、もしくは骨質がよいと、骨強度が高くなるのです。なお、JPOS研究のデータから分析された結果から、納豆をよく食べる人は骨密度が高いことは分かっていました。  

今回の調査では、統計解析で骨密度の影響を取り除き、骨折発生との関連を調べました。すると、同じ骨密度でも、納豆を食べている人ほど、骨折しにくいと判明したのです。

この結果から、ビタミンKは骨密度の増加だけでなく、骨質をよくして骨強度を上げる作用もあると推測できます。

ゲニステイン(大豆イソフラボンの一種)

大豆製品には、ポリフェノールの一つ「大豆イソフラボン」が含まれています。大豆イソフラボンには、いくつか種類がありますが、納豆に多く含まれているのは、「ゲニステイン」というものです。

このゲニステインには、骨密度を増加する作用があるという研究報告があります。そのため、この成分も骨粗鬆症予防に役立っていると考えられます。

ビタミンKやイソフラボンは、加熱調理後も効果を保ちやすい栄養素です。そのため、納豆そのままの風味が苦手な人でも、チャーハンやかき揚げなどの料理にアレンジすれば食べやすくなると思います。

また、骨粗鬆症の予防や治療には、さまざまな栄養素が必要です。特に大切なのは、牛乳や小魚に含まれるカルシウムと、魚類・キノコ類に含まれるビタミンD。これらに、たんぱく質を多く含む肉・魚・卵などの主菜や、野菜・果物を合わせることをお勧めします。

画像: この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。

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