酒を飲んで顔が赤くなるのは、アルコールが分解される途中にできる「アセトアルデヒド」という物質の作用によります。このアセトアルデヒドが、骨を作る「骨芽細胞」の働きを阻害することが実験で分かりました。【解説】宮本健史(熊本大学大学院生命科学研究部整形外科学講座教授)

解説者のプロフィール

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宮本健史(みやもと・たけし)
熊本大学大学院生命科学研究部 整形外科学講座教授。慶應義塾大学医学部整形外科学先進運動器疾患治療学Ⅱ特任教授兼任。1994年熊本大学医学部を卒業後、2001年に同大学医学部大学院博士課程を修了。整形外科、骨代謝、骨粗鬆症を専門に研究を行う。2018年、日本リウマチ学会学会賞を受賞。

お酒を分解する力が弱いと顔が赤くなる

私たち一人一人には、持って生まれた体質があり、それは日頃、さまざまな面で現れます。お酒を飲んだときの反応もその一つ。顔が赤くなりやすい人、なりにくい人がいるのは、皆さんよくご存じでしょう。

実は、そのことと「骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)のなりやすさ」には、深い関係があります。私たちは、科学的研究で、その関係を明らかにしました。

では、飲酒の反応と、骨粗鬆症のリスクの関係性をお話ししましょう。

お酒を飲んで顔が赤くなるのは、摂取したアルコールが分解される途中にできる「アセトアルデヒド」という物質の作用によります。

通常は体内で「ALDH2」という酵素が作られ、その働きでアセトアルデヒドが速やかに分解されます。この酵素を作る力が弱いと、顔が赤くなりやすいのです。

ALDH2を作る基本的な力は、ある種の「遺伝子多型」の有無で決まります。遺伝子多型とは、体質を決定づける遺伝子の配列ミスのことです。

お酒を飲むと顔が赤くなりやすい体質の人は、ALDH2が作られないか、できにくい遺伝子多型を持っています。そのため、アセトアルデヒドが分解されにくく、飲酒時に顔が赤くなってしまうのです。

そこで私たちは、この遺伝子多型と骨粗鬆症との関係を調べるための実験を行いました。

その内容は、骨粗鬆症で起こりやすい太ももの付け根部分の骨折(大腿骨頸部骨折)を起こした92名の「骨折群」と、この骨折を起こしたことがなく、骨粗鬆症とも診断されていない48名の「正常群」の遺伝子を解析し、ALDH2の遺伝子多型の有無を調べるというものです。

すると、骨折群は正常群に比べ、ALDH2の遺伝子多型を持つ人の割合が高く、その保有によって骨折リスクが2.48倍高くなることが分かりました。

今回の調査で、「お酒を飲むと顔が赤くなる」と答えた人の遺伝子多型の保有率は92.3%。つまり、お酒を飲むと赤くなる人は、ほぼALDH2の遺伝子多型を持っており、持たない人に比べて、骨折するリスクが約2.5倍になると明らかになったのです。

もともと大腿骨頸部骨折には、家族歴(遺伝的体質)が関係し、親がこれを起こすと、その子どもも起こしやすいことが知られています。今回、その一つの理由が、ALDH2の遺伝子多型にあると分かりました。

飲酒をしなくても骨折を起こしやすくなる

それにしても、ALDH2が作られにくく、飲酒で顔が赤らむ人は、なぜ骨粗鬆症や骨折のリスクが高まるのでしょうか。

私たちは、これについても試験管内の実験で調べました。その結果、アセトアルデヒドが、骨組織内で骨を作る役目をしている骨芽細胞」の働きを阻害することが分かりました。

注意が必要なのは、お酒で顔が赤くなる体質の場合、飲酒量や飲酒習慣の有無に関わりなく、骨粗鬆症のリスクが高まること。今回の骨折群の被験者も、ほとんどがお酒を飲まない人だったにも関わらず、骨折を起こしていました。

私たちは日頃、アルコール以外のものからも、微量のアセトアルデヒドをとっています。ALDH2の遺伝子多型を持つ人は、その影響で骨粗鬆症のリスクが増すと考えられます。

アーモンドやブリなどがお勧め

しかし、そうした体質の人でも、骨粗鬆症と骨折のリスクを低減することができます。

今回、私たちの行った試験管内での実験によると、アセトアルデヒドと同時にビタミンEがあると、骨芽細胞の働きが阻害されないことが分かりました。

骨芽細胞の働きを阻害するのは、アセトアルデヒドによる「酸化作用」です。そのため、抗酸化作用(酸化を防止する作用)を持つビタミンEにより、その害を阻止できるのです。

抗酸化物質にもいろいろなものがありますが、アセトアルデヒドは主に脂質を酸化させます。そのため、脂質に溶けるビタミンEが、高い効果を発揮すると確認できました。

この結果から、お酒を飲むと顔が赤くなる人でも、日頃からビタミンEをとるようにすれば、骨粗鬆症のリスクを低減できると考えられます。

ビタミンEの豊富な食品は、アーモンドなどのナッツ類大豆製品緑黄色野菜、ウナギやブリといった油の多い魚介類などです。ただし、脂溶性ビタミンは体に吸収されやすく、過剰症を起こすことがあるため、とり過ぎに注意してください

また、お酒で顔が赤くならない人でも、過度の飲酒を続けるのは要注意。1日3単位(詳細は下の表参照)以上のアルコールを摂取すると、分解が追いつかずにアセトアルデヒドがたまり、骨粗鬆症のリスクが高まります。

これらに注意しながら、バランスのとれた食生活を意識すれば、骨粗鬆症を防ぐのに役立つでしょう。

■3単位の目安

ビール中瓶3本(1500㎖)
日本酒3合(540㎖)
焼酎1.8合(約330㎖)
ウイスキーダブル3杯(180㎖)
ワイン3/4本(約540㎖)
缶チューハイロング缶3本(1500㎖)
これ以上の飲酒は、お酒で顔が赤くならない人も骨粗鬆症リスク大に!
(公益社団法人アルコール健康医学協会ホームページより抜粋)
画像: この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。

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