解説者のプロフィール

藤澤孝志郎(ふじさわ・こうしろう)
Dr.孝志郎のクリニック院長。日本内科学会認定総合内科専門医。宮崎医科大学卒。東京都多摩北部医療センター臨床研修終了。医学教育界の第一人者としても知られ、その講義を受けて医師になった者は海外医師も含めると10万人を超える。「病態生理講座」「症候学」「臨床対策救急」「サマライズシリーズ」は全国70大学以上の医学部で長く親しまれている。スポーツ医学も得意とし、専門はメンタルケア。タイトルマッチや防衛戦に臨むファイター達を精神面で支えてきた。著書に『世界一効率よく若返る!1日5秒骨トレーニング!』(ビジネス社)、『内科系専門医試験 解法へのアプローチ(第1集、第2集)』(ともに医学書院)などがある。
圧力と衝撃が骨にカルシウムを引き寄せる
体の中心で体の重みを支え、また脳や内臓などの柔らかで重要な臓器を囲んで衝撃から守るためのもの。骨の役割を、そのように捉えている人が多いかもしれません。
もちろんそうした役割もありますが、さらに重要なのが生命活動の根源である電気エネルギーを生み出す「発電機」としての役割です。
生命が電気エネルギーで動いているというのが、ピンとこない方は、脳波計や心電図を思い出してみてください。脳や心臓を動かしているのも電気信号ですし、さまざまな筋肉の動きも脳から送られる電気信号によって制御されています。
電気エネルギーの生み出し方は、大きく分けて二つの方法があります。
一つ目が、食べ物と酸素からさまざまな化学反応を経て「ATP」というエネルギーを取り出し、ATPのエネルギーで細胞内でカリウムをやりとりすることで、電気を生み出すという方法です。
そしてもう一つが、骨に衝撃や圧力を加えて電気を発生させる方法です。衝撃や圧力によって物質が電気を発生させる現象のことを「ピエゾ電気効果」「圧電効果」と呼びます。
水晶やトルマリン、トパーズといった鉱石は、圧力や衝撃を与えると持っていた電子を飛び散らせ、電気を発生させるという特殊な性質を持つことから「電気石」と呼ばれます。
私たちの骨も、この電気石と同様に、圧力や衝撃を受けると電気を発生させることが分かっているのです。
ピエゾ電気効果によって生まれた電気エネルギーは、マイナスの電荷を持っており、プラスの電荷を持つカルシウムを引き寄せて骨に沈着させる働きがあります。
つまり、骨への衝撃や圧力は、骨を作る骨芽細胞を活性化させる非常に重要なトリガーなのです。
骨芽細胞を活性化すると認知症や動脈硬化も撃退
骨は、古い骨を壊す破骨細胞と、新しい骨を作る骨芽細胞の連係で、新陳代謝が行われています。しかし、年齢とともに、骨芽細胞の働きが弱くなってくるために、骨が衰え、内部がスカスカになる骨粗鬆症になったり、骨が縮小したりしてきます。
若い頃よりも身長が縮んだり、口周りのシワやたるみ、目の落ちくぼみが目立つようになるのは、骨粗鬆症でスカスカになった背骨(椎骨)が少しずつつぶれていったり、頭蓋骨、特に下あごの骨が縮小していったりしたため。骨芽細胞がしっかり働けていないという注意信号なのです。
骨芽細胞は骨を作り出すときに「オステオカルシン」という物質を分泌します。このオステオカルシンは、
①脳に働きかけて記憶力を増強し、
②膵臓に働きかけて血糖値を調整するインスリン分泌を促し、
③血管に働きかけて動脈硬化を防ぎ、
④脂肪細胞に働きかけて脂肪燃焼を促すといった、
多様な働きを持っています。
骨に衝撃や圧力を加える「骨トレ」は、ピエゾ電気効果で電気エネルギーを生み出し、骨芽細胞を活性化させて、骨粗鬆症を防ぐ上に、認知症、糖尿病、動脈硬化、メタボなど、老化に伴って起こるさまざまな不調を撃退することができる、最も効率のよい健康法だと言えるのです。
ピエゾ電気効果の効力は、「骨にかかる圧力の強さ」と「骨が衝撃を受けた回数」に比例します。
そのため、いわゆる筋トレと骨トレでは、少しポイントとなる点が異なります。例えば競輪選手は、女性のウエスト以上に発達した太ももの筋肉をしていますが、骨密度はそれほど高くない人が多いのです。ペダルを踏む動きは筋肉は鍛えても、骨への圧力と衝撃回数は少ないためです。
ウォーキングは自分の体重を使った最も簡単な骨トレですが、骨粗鬆症が気になる人はすでに歩くのがつらい人も多いはずです。その場合は座った姿勢や寝転がった姿勢で骨に圧をかける骨トレを行いましょう。
ピアノの演奏のように軽い圧力であっても、「ちりも積もれば山となる」のことわざのように回数を稼げば骨トレになります。実際、ピアニストである私の母は、60代ですが高い骨密度を維持しています。
ご自身の負担に感じるきつい骨トレを月1回行うよりも、負担感が20分の1の簡単な骨トレを毎日コツコツ続けるほうが、はるかに有益です。

ピアノの打鍵のように、手指の小さな骨への軽い圧でも回数が多ければ骨トレ効果は得られる
骨への衝撃と圧力が骨芽細胞を活性化!
骨トレのやり方
1歩1歩で圧電できる!
3000歩ウォーク

ウォーキングは一番簡単なピエゾ電気効果を得る方法!1日合計3000歩でOK!
暑い日や雨の日には家の中でできて安全な
座ってかかと落とし

❶いすに座る。

❷かかとを持ち上げる。

❸かかとを床にストンと落とす。
❹②③をリズミカルに20回くり返す。
足腰が弱い人でもらくにできる
ウミガメ腕立て

❶床に腹ばいになり、手を胸の横に着く

❷床を手でぐっと押し込み2秒キープしたら力を抜く。10回くり返す。

※筋力が少なく顔を上げているのもつらい人は、床に顔を着けたまま、手を押し込むだけでもよい。

この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。
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