回答者のプロフィール

竹内靖博(たけうち・やすひろ)
虎の門病院内分泌センター長。1982年、東京大学医学部卒業。米国国立衛生研究所への留学、東京厚生年金病院内科医長、東京大学医学部腎臓・内分泌科講師などを経て、2004年より現職。日本骨粗鬆症学会認定医・副理事長。著書に『あなたも名医!もう悩まない!骨粗鬆症診療』(日本医事新報社)などがある。
Q. 骨粗鬆症とは、どのような病気ですか?
A.
骨の構造は、よく鉄筋コンクリート造りの建物にたとえられます。コラーゲン線維の鉄筋に、カルシウムなどのミネラルがコンクリートのようにつないで埋めているのです。
骨粗鬆症は、カルシウムが不足(骨密度・骨量の低下)したり、コラーゲン線維が劣化(骨質の低下)したりすることで「骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気」です。
そのため、荷物を持ち上げた弾みで背骨がつぶれる圧迫骨折を起こしたり、ちょっと尻もちをついただけで、足の付け根の骨が折れたりするなど、非常に骨折しやすい状態になってしまうのです。
骨粗鬆症による骨折は続いて起こりやすく「骨折ドミノ」などと呼ばれます。
特に、背骨や大腿骨の骨折は寝たきりにつながったり、死亡のリスクを高めたりすることが分かっていますから、気を付けなければなりません。

骨密度が低下していった大腿骨のイメージ
骨を内側で支えているスポンジ状の「骨梁」の太さや本数が減り、骨密度が低下する
すでに骨粗鬆症によると思われる「骨折」をしているか、若い健康な成人の70%以下に「骨密度(骨量)」が低下している場合に、骨粗鬆症と診断されます(後述)。
がんの骨転移、骨軟化症(カルシウムの沈着が障害され、正常な硬い骨が作られなくなる病気)、副腎や甲状腺の病気など、他の病気が原因で骨がもろくなる場合がありますが、これらは骨粗鬆症には含まれません。
Q. 骨の内部がスカスカになっていく原因はなんですか?
A.
皆さんにとって、骨は固くてツルツルした表面の「皮質骨」のイメージが強いかもしれません。実際には、皮質骨は骨の表面だけで、その内側は「骨梁」と呼ばれる立体的な網目構造を持つ骨(海綿骨)で満たされています。
この骨梁の目が細かく緻密になっていることで、骨は強さと軽さを両立しているのです。
骨は常に、破骨細胞によって古い骨が壊される(骨吸収)一方で、骨芽細胞によって新しい骨が作られる(骨形成)ことで、新陳代謝しています。
通常は、骨を壊す働きと新たに作られる働きのバランスが取れています。しかし、骨粗鬆症では、骨吸収のスピードに、骨形成が追いつかなくなります。
きめ細かな骨梁を作れなくなり、梁の太さや本数が減っていくため、骨の内側がスカスカになってしまうのです。

骨吸収と骨形成のバランスが取れている

骨吸収のスピードに骨形成が追いつかず、骨がスカスカになっていく
Q. 骨密度とはなんですか?
A.
骨1㎠の面積に、カルシウムなどのミネラルが何g含まれているかを示す値です。
骨密度が最も高い、20~44歳の健康な人の平均値(YAM)と比べた割合で示すこともあります。40代以降は徐々に骨密度が下がってきますが、YAMが80%未満になると要注意、70%以下になると骨粗鬆症と診断されます。
同年代の平均値と比較して105%など平均値以上の値が出ていたとしても、年齢によっては骨粗鬆症の危険域である場合もありますから、検査結果の読み取り方を間違えないようにしてください。
Q. 骨粗鬆症になりやすいのはどのような人ですか?
A.
骨粗鬆症は、閉経以降の女性、70歳以上の男性で、年齢とともに増えていきます。
女性ホルモンのエストロゲンには、骨形成を促進し骨吸収を抑える働きがあり、骨の新陳代謝のバランスを保つのに重要な働きをしています。そのため、閉経でエストロゲンの分泌量が急減するのに伴って、骨密度が急激に低下しやすくなります。
男性の場合は、女性ほど急激ではありませんが、男性ホルモンであるテストステロンの分泌が加齢とともに減少し、やはり骨粗鬆症につながっていきます。
もう一つ、年齢とともに骨粗鬆症が増えるのは、カルシウムを吸収する力が衰えていくことの影響も大きいです。
骨が作られるためには、食事から骨の材料となるカルシウムを摂取することが必須ですが、70歳くらいから腸でのカルシウム吸収効率が低下してくるのす。
つまり、同じ量のカルシウムを摂取していても、若い頃のようには吸収できず、骨を作る材料が不足しがちになるため、骨粗鬆症が進行しやすくなります。

それから、そもそもの「骨量」が少ない人は、骨粗鬆症になりやすいと言えます。
骨量は成長するにつれて増加していき、20歳頃にピークを迎え、40代まではほとんど変わらず、その後、徐々に骨量が減っていきます。
しかし、若い頃の無理なダイエットなどで栄養不足を起こすと、骨を十分に成長させられません。若い頃から骨密度が低めの人は、骨粗鬆症の危険水域までの猶予がほとんどないことが心配です。
Q. 骨粗鬆症を防ぐためにはどうすればいいですか?
A.
毎日の生活習慣としては、食事の改善と適度な運動が勧められます。
食事では、カルシウム(小魚、乳製品、大豆製品、緑黄色野菜)、ビタミンD(魚、キノコ類)、ビタミンK(納豆、緑色野菜)、たんぱく質(肉、魚、卵、大豆、乳製品)を含む食品をバランスよくとりましょう。
1日当たりカルシウムは700~800mg、ビタミンDは400~800IU、ビタミンKは250~300μg(0.25~0.3㎎)が目安となります。
一方で、リン、食塩、カフェイン、アルコールの過剰摂取は控えましょう。リンは加工食品の他、一部の清涼飲料水などにも含まれています。
[別記事:骨粗鬆症を撃退!「魚の缶詰」簡単&美味レシピ→]
運動は、1日30分のウォーキングの他、片足で1分立つ(ダイナミック・フラミンゴ療法)ような、バランス能力を高める訓練を行うと、転倒しにくくなり、骨折リスクを抑えることができます。
ただし、すでに骨粗鬆症の診断を受けている人は、主治医と運動強度について相談してから行ってください。
Q. 骨粗鬆症になったら、どのような薬がありますか?
A.
加齢に伴って低下する働きを補う薬の中から、その人の状態や年齢などに応じて、適した薬を選択して用います。それぞれの薬の特徴を簡単にご説明しましょう。
①ビスホスホネート製剤
骨を壊す働きをする「破骨細胞」の活動を抑える作用を持つ薬です。
骨の主成分であるヒドロキシアパタイト(塩基性リン酸カルシウム)と強力に結びつく性質を持っていて、骨の中だけに入って蓄積します。
破骨細胞が骨を溶かす過程でビスホスホネートを自分の中に取り込んだときに初めて薬の作用が発揮され、破骨細胞が壊れるために、骨を破壊する働きが弱まります。
飲み薬や注射薬などいろいろなタイプがあり、投与間隔も「1日1回」から、ゾレドロン酸のように「1年1回」のものまで幅広くあります。
② SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)
エストロゲンと似た働きを持ちますが、乳房や子宮には作用せず、骨や脂質の代謝にだけ選択的に作用する薬です。
不足しているホルモンを外部から補う「ホルモン補充療法」の副作用である、乳がんや子宮体がんなどのリスクが抑えられています。
骨吸収を抑えて骨密度を上げる効果があり、閉経後の女性に対して用いられます。
③抗ランクル抗体薬
比較的新しく登場した薬で、破骨細胞を作るのに必要なたんぱく質だけを標的に作用します。いわば破骨細胞のもとを絶ってしまうわけで、かなり強力な作用があります。
この薬は6ヵ月に一度、皮下注射で投与します。
④活性型ビタミンD₃薬
腸からのカルシウム吸収を助ける薬です。カルシウムの吸収効率の低下を補うことができます。
薬に頼らず、より多くのカルシウムを摂取することでももちろんよいのですが、長年の食習慣を変えるのはなかなか難しいものです。その場合、こうした薬で補うことができます。
⑤副甲状腺ホルモン(PTH)製剤
副甲状腺ホルモンの一部を薬として利用します。この薬の特徴は、新たな骨の形成を促進する作用を持つことです。ただし、この薬は使用できる期限が「2年まで」と決まっており、骨折してしまった直後や骨折の危険性が高いと判断される患者さんに対してのみ用います。
⑥ロモソズマブ
2019年に認可された、最も新しい薬です。これまでの薬が破骨細胞の活動を抑えて、骨を溶かさないようにするものだったのに対し、ロモソズマブは、骨芽細胞を活性化して骨形成を増やす作用をあわせ持つ薬です。
一般には、ビスホスホネート製剤か抗ランクル抗体薬で骨吸収を抑え、必要に応じて活性型ビタミンD₃薬を用いるのが標準的な治療になります。

薬で破骨細胞を死滅させ、骨吸収が抑えられている間に骨形成を進める
[別記事:骨粗鬆症を撃退!「魚の缶詰」簡単&美味レシピ→]

この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。
www.makino-g.jp