解説者のプロフィール

小泉幸道(こいずみ・ゆきみち)
東京農業大学名誉教授。専門は発酵食品学、醸造学。発酵食品の科学的な成分変化と機能性に関する研究を行う他、テレビやラジオで「お酢のエキスパート」として酢の効能を広めている。
塩味を引き立てるので減塩にも役立つ
私は酢を究めて40年。無類の酢好きでもある、酢の専門家です。酢の数多くの効能は、科学的に証明されています。
①高血圧予防効果
酢の主成分・酢酸には、血圧を上昇させるホルモンを穏やかに抑制する働きがあります。高血圧の人に、毎日大さじ1杯(15ml)、または毎日大さじ2杯(30ml)の酢を摂取してもらい、血圧の変化を調べた結果を示したのが下の図です。

大さじ2杯のグループでは、摂取して数日で、血圧が下がり始めています。大さじ1杯のグループでも、摂取を始めて2週目から血圧が下がり始め、6週目には正常値かそれに近い値となったことが分かります。
この研究での酢の血圧低下効果は、最大血圧で平均15mmHg程度でした。また、同じ研究で、最小血圧も同様に下がって正常値になったことを追記しておきます。ちなみに、血圧が正常な人の場合、酢で血圧が下がり過ぎることはありませんので、ご安心ください。
注意したいのは、酢の血圧を下げる効果は、摂取し続けないと得られない、という点です。この研究でも、8週目に酢の摂取を止めたところ、その後は血圧が上昇しています。ただし、摂取前より上昇することはありませんでした。
塩分のとり過ぎが高血圧を招くことは知られていますが、塩分を減らすと、料理が味気ないものになってしまいます。
ここでも酢は大活躍します。酢には塩味を引き立てる作用があり、酢を加えることによって、少量の塩でもおいしさが引き立つのです。ですから、高血圧の人は、毎日の食事に酢をとり入れるとよいでしょう。
②食後血糖値の上昇抑制効果
酢には、糖の吸収を穏やかにして、食後の血糖値の上昇を抑制する効果もあります。
食事と一緒に、大さじ1杯の酢(15ml)をとったときの血糖値の変化を調べたのが、下のグラフです。酢の摂取によって、血糖値の上昇がゆるやかになっていることが分かります。

血糖値の急激な上昇は、肥満の原因になるだけでなく、糖尿病になるリスクも高めます。酢を使った料理や飲み物を食事にとり入れると、血糖値の急上昇を抑えることができるので、糖尿病の予防や改善に有効です。
③体重や内臓脂肪を減らす作用
酢には、太った人の体重を減らしたり、内臓脂肪を減少させたりする作用もあります。下のグラフは、12週間、大さじ1杯(15ml)の酢を毎日摂取したときの体重の変化を示したグラフです。酢の摂取で体重が減っていくことが分かります。

同じ実験で、腹部の内臓脂肪の面積も調べたところ、明らかに減少していました。さらに、酢は脂質異常にも有効です。大さじ1杯(15ml)の酢を12週間摂取する研究では、血中コレステロールと血中中性脂肪の減少が確認されました。
料理に使えば毎日無理なく続けてとれる
それでは、酢の健康効果を得るためには、どのようなとり方がいいのでしょうか。
まず酢の摂取量ですが、毎日大さじ1杯(15ml)が理想的です。血圧を早く低下させたいなら、大さじ2杯(30ml)に増やしてもいいでしょう。
次に、酢を一番効果的に摂取するタイミングですが、私は、食事の際には、最初にとることをお勧めしています。
というのも、酢の香りや酸味には、脳を刺激し、食欲を増進させる効果があるからです。夏バテなどで食欲が湧かないときは、食事の最初に酢の物をとるといいのです。
この食べ方は、食べ物がのどを通りにくくなっているお年寄りにもお勧めです。酢は、唾液の分泌を促してくれるので、その後にとる食物を飲み込みやすくなります。
酢は胃酸の分泌も促します。ですから、酢の摂取によって胃も元気になります。さらに、胃酸と酢の成分によって腸の蠕動運動(内容物を押し出す力)も活発になり、便通が促されるので、便秘改善にも役立ちます。
酢の健康効果は、毎日継続して摂取することで得られます。旬の夏野菜と酢を合わせたメニューを、毎日の食卓にのせるのは、無理なく継続して酢をとる方法としてとてもお勧めです。
なお、酢を飲用する場合は、必ず5倍以上に薄めましょう。原液を薄めずに飲むと、胃の粘膜を傷める恐れがあります。
[別記事:夏の体を健やかに保つ「夏野菜+酸味のレシピ」→]

この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。
www.makino-g.jp