疲れやすい夏は甘い物に流れやすくなりますが、甘い物は体をゆるませ、大事な熱やエネルギーを体から逃がしてしまいます。その流れを断ち切って健康に向かわせるのが、酸味です。そのとり方として、夏野菜と合わせるのは、とてもいい方法です。【解説】井上正文(木暮医院漢方相談室薬剤師)

解説者のプロフィール

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井上正文(いのうえ・まさふみ)
木暮医院漢方相談室薬剤師。自分の身体は自分で守るというコンセプトの下、患者一人一人の体質に合った漢方薬を処方している。

夏の不調を酸味が撃退!

[別記事:夏の体を健やかに保つ「夏野菜+酸味のレシピ」→

猛暑の中、つい手が伸びてしまう、冷たいジュースやビール、アイスクリーム。こうした冷たい飲み物や甘い物をとり過ぎると、汗をかきやすくなるだけでなく、胃液を薄めて消化を弱らせます。それが夏バテ熱中症食中毒など、夏の体調不良の原因になります。

それを防ぐのが、酸っぱい物です。夏に酸っぱい物がよいのは、酸味に次のような作用があるからです。

多量の発汗を抑える

東洋医学では「汗の1滴は血の1滴」と言われています。汗をかくと、大事な体内のエネルギー(生命の熱)も一緒に漏れ出てしまうのです。そのため、異常な発汗は、体が弱い〝虚証〟の証しと考えられています。

私が中国で漢方の勉強をしていた頃、恩師の張学文先生とよくラーメンを食べに行きました。あるとき、汗を拭きながらラーメンを食べている私に、先生がレンゲに酢をいっぱい入れて、こう言いました。

「君は虚証だから、酢を飲みなさい。酢を飲めば汗が抑えられて疲れが取れ、元気になるぞ」

酸っぱい物には収れん作用があります。毛穴を引き締めて汗を抑えるので、皮膚からエネルギーが漏れるのを防ぎ、体力を維持できるのです。

消化を助ける

冷たい物、水分、甘い物をとり過ぎると、胃液が薄まって消化が悪くなり、食欲も落ちます。その結果、疲れやすくなり夏バテしやすくなります。酸っぱい物をとると、冷たい飲み物や甘い物の摂取が抑えられ、消化液が薄まるのを防げます。

疲労を回復させる

甘い物をとると、疲れが取れたように感じますが、それは錯覚で、疲れは取れていません。疲れが取れないまま動くと、また甘い物が欲しくなり、疲労がたまっていきます。しかし、酸っぱい物は疲労物質を分解して、疲れを元から解消します。

中国の南の地方や台湾では、夏に「酸梅湯(さんめいたん)」という酸っぱい梅ジュースを飲む習慣があります。梅の酸味が消化を助けて疲労を回復させ、食中毒も予防するという、夏にピッタリの飲み物なのです。

同じような効果を持つ漢方処方に、「炒三仙(しょうさんせん)」があります。これはサンザシ、麦芽、神麹(小麦または米に酵母菌を混ぜて発酵させたもの)を炒ったもので、弱い体質の人に作用の強い生薬(漢方薬の原材料)を処方するとき、煎じ薬に混ぜる基本処方です。

炒三仙に入っているサンザシは酸っぱく、飲むと瞬時に唾液が出ます。このサンザシの酸味が消化を助け、薬の吸収をよくするのです。胃の働きがよくなれば、食べた物が力になり、夏バテ防止につながります。私も宴会などの前には必ず炒三仙を飲んで、胃の調子を整えます。

夏野菜との組み合わせはこの時期にピッタリ

このように、夏バテを予防する基本は、胃腸の力です。夏に酸っぱい物をとって胃の働きが保持されれば、夏バテや熱中症だけでなく、食中毒の予防にもなります。

また、中医学の五行説では、酸味は五臓六腑の「」に対応しています。肝の主な働きは、血を蓄えて、ストレスを発散させること。ですから、夏の高温多湿からくるイライラは、酸っぱい物をとることで抑えられるのです。

さらに、酸っぱい物は免疫(体の防衛機構)を調整するので、ウイルスから体を守る効果も期待できます。

皮膚や粘膜の表面は、「衛気(えき)」という気で覆われており、ウイルスや細菌、花粉など、有害な物(邪気)の侵入を防いでいます。現代医学風に言えば、免疫の最初のところで体を守っているのが衛気です。

この衛気の力が強ければ、ウイルスが鼻や口の粘膜についても、はねのけることができます。冷たい物を避け、酸っぱい物をとって胃に力がつくと、衛気を増やすことができます。また、酸っぱい物の収れん作用で皮膚が閉じると、邪気が入りにくくなります。

冷たい物のとり過ぎは、胃を冷やします。胃が冷えれば、それを温めるのに多大なエネルギーが使われます。その点、酸っぱい物は胃の温度を下げずに、体を涼しく感じさせます。

疲れやすい夏は甘い物に流れやすくなりますが、甘い物は体をゆるませ、大事な熱やエネルギーを体から逃がしてしまいます。その流れを断ち切って健康に向かわせるのが、酸味です。

その酸味のとり方として、夏野菜と合わせるのは、とてもいい方法です。夏野菜自体に体を冷ます作用があるので、冷たい物や水分のとり過ぎを控えることができます。

そこに酸味の力が加わると、より体調を整える効果がアップします。酸味が苦手な人でも、夏野菜と合わせることで、食べやすくなるのもメリットといえるでしょう。

今年の夏は猛暑といわれています。酸味と夏野菜の力を活用して、暑さに負けない体を作りましょう。

画像: 夏野菜自体に体を冷ます作用があり、酸味と合わせることで、体調を整える効果がよりアップ。酸味だけでとるよりも、食べやすくなるのもメリット。

夏野菜自体に体を冷ます作用があり、酸味と合わせることで、体調を整える効果がよりアップ。酸味だけでとるよりも、食べやすくなるのもメリット。

[別記事:夏の体を健やかに保つ「夏野菜+酸味のレシピ」→

画像: この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年8月号に掲載されています。

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