解説者のプロフィール

平野薫(ひらの・かおる)
ひらの整形外科クリニック院長。1987年、九州大学医学部卒業、同整形外科教室入局。新日鐵八幡記念病院整形外科主任医長・リハビリテーション科部長などを経て、2010年より現職。日本整形外科学会認定専門医。東洋医学や天城流湯治法などを治療に取り入れ、成果を上げている。
▼ひらの整形外科クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
足の指が動かなければ体に痛みや不調を招く!
[別記事:足の指回しのやり方→]
現代日本では、幼児期から靴をはく習慣が定着しているため、足の指が縮こまり、指をしっかり使えない人が増えています。近年、足の指の変形といったトラブル発生が低年齢化し、なんと9歳前後から患者数が急増しているという統計もあります。
私のクリニックを受診する患者さんも、足の指どうしがくっついて、開かない人が少なくありません。足の指が曲がってまっすぐ伸びない人、指先が地面につかない「浮き指」の人、外反母趾や扁平足の人も多く見受けられます。
足(足首から先の部分)には、主に三つの機能があります。
まず、「安定機能」。体の土台である足が安定して初めて、その上に乗る骨格のバランスが整い、正しい姿勢が保たれます。
二つめは、歩いたり走ったりしたときに、地面からの衝撃を吸収する「免震機能」。三つめは、安定した歩行や走行を可能にする「運動機能」です。
そして、これらすべてと密接にかかわり、重要な役割を担っているのが、足の指です。
5本の指がきれいに伸びて広がり、自由に動く状態でないと、体の安定は保てません。歩いたり走ったりするときにも、ふらふらします。
また、足の指が動かないと、足の筋肉が衰えてアーチ(上部が半円形になった構造)がくずれ、クッション機能が損なわれます。衝撃を吸収しきれずに、痛みや変形につながります。
このような足の指の状態が、体の痛みや不調を引き起こしていることが少なくありません。具体的には、腰やひざ、股関節、肩、首の痛みや、つまずきや転倒などです。
皆さんも思い当たることはありませんか?
小指の動きをよくしたら私自身のO脚が大改善!
そこで、お勧めしたいのが、「足の指回し」です。
足の指どうしがくっついて開かなかったり、足の指に変形があったりする人は、指のつけ根のMTP関節(中足指節関節)が、かたくなっています。ここがかたいと、足の指を開いたり閉じたり、それぞれの指を動かしたりすることができません。
理想は、足の指をしっかり開いてパーにしたり、足の指のつけ根の骨が浮き出るまで指を曲げてグーができること。それには、足の指をつけ根から回して、MTP関節をやわらかくほぐすことが大切なのです。
指の間を広げたり、指を1本ずつ曲げたり反らしたりすることも、行うとよいでしょう。
特に親指(母趾)は、裏にたくさんの腱(骨と筋肉をつなぐ組織)があるので、念入りに回して、しっかりほぐすことをお勧めします。
足の指のつけ根の関節がほぐれて、指を使えるようになると、足の機能が回復して全身に好影響が及びます。
まず、足の不具合そのものが改善します。外反母趾をはじめとする指の変形、足の甲や足首の痛み、しびれがよくなっていくでしょう。
人間の体は、足からひざ、股関節、腰、背中、首と、すべて連動しています。足の指の関節がやわらかくなることで、変形性ひざ関節症や股関節痛、脊柱管狭窄症なども改善していきます。土台が安定して姿勢が整うので、腰痛、肩や首のコリ、ネコ背の解消にもつながるでしょう。
[別記事:足の指回しのやり方→]
私は、4年ほど前から、足の指を整えるケアを患者さんに指導しています。
印象的だったのは、肩関節周囲炎(五十肩)で腕が上がらなかった患者さんです。外反母趾で足の指が開かなかったため、テーピングで指を広げたところ、瞬時に腕が上がったのです。
このかたは、足の指が縮こまって機能していなかったために姿勢がくずれ、肩甲骨がゆがんで腕が上がらなくなっていました。それ以来、足の指を回したり広げたりするケアを続けてもらいました。
この経験から、足の指が全身に及ぼす影響の大きさを痛感しました。
私自身の実体験もあります。 私は以前、ひどいO脚でした。ところが、足の指のケアを毎日行ったところ、左右のひざが近づいてきたのです。
O脚の改善には、特に足の小指(第5趾)の動きをよくして、開くようにすることが重要です。第5指が開くようになって歩行が安定し、ふらつかなくなりました。足の指のケアは、今も毎日行っています。
足でグーもできるようになり、足の指の柔軟性はさらに増しました。O脚は、ほとんどわからないほどに改善しました。
もちろん現在も、患者さんの診療やリハビリに、足の調整を取り入れています。加えて、必要な人にはセルフケアとして、足の指回しを勧めています。
足の指を整えることは、老若男女すべての人に有効です。保育園で足の指のケアを取り入れたところ、子供たちが速く走れるようになったという報告もあります。高齢者の寝たきり防止にも役立つでしょう。
健康を保つ秘訣は、まず自分の体に意識を向けること。そのためにも、毎日足の指を1本1本触って、自分の体と向き合うことから始めましょう。

この記事は『壮快』2020年8月号に掲載されています。
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