解説者のプロフィール

梶原千譽(かじはら・かずしげ)
カジハラ治療院院長。自らのアトピー性皮膚炎をマクロビオティックの食養法で克服。鍼灸と活法整体にマクロビの食養法を加えた独自の治療技術は、患者さんに定評がある。
▼カジハラ治療院(公式サイト)
収縮した血管を広げて筋肉の炎症を止める
私の治療院には、さまざまな不調を抱えた患者さんが来られます。そのなかには、長引くセキやのどの痛みが取れない人、ぜんそくの患者さんもいらっしゃいます。そうした患者さんたちに、私はマクロビオティックの考え方に基づいた食事指導を行っています。
マクロビオティックは、食文化研究家の故・桜沢如一氏が提唱した「自然と調和して生きる生活術全般」のことをいいます。そのなかの一つが、全粒穀物を基本とした食養法です。
マクロビオティックでは、すべての食物を「陰」と「陽」に大別します。そして、症状や体質に応じて、それらを使い分けます。陰性の物は「広げる」「緩める」「止める」といった働きに対し、陽性の物は「縮める」「かたくする」「動かす」といった働きがあります。
セキなどの呼吸器系の症状に有効なのは、陰性の食物です。そのなかでも、私が患者さんに特段お勧めしているのが「黒コショウ」です。
黒コショウは、陰性の食物のなかでも、特にその働きが強いとされています。つまり、「広げる」「緩める」「止める」という働きが優れているのです。
セキの発作や息苦しさのある人の体を見ると、首や肩、胸、背中などの上半身がかたくなっているのがわかります。これは、のどや肺などにかかっている負担が、筋肉のコリとして現れているためです。筋肉群の血流が停滞し、血管や組織が収縮して機能低下に陥っています。
このような症状に著効なのが黒コショウです。黒コショウは収縮していた血管や組織を「広げて」「緩めて」くれます。さらに筋肉の炎症を「止める」ことで、筋肉のコリが緩和され、カゼやセキ、のどの痛みなどの呼吸器系の症状が和らぐのです。
むせたりセキ込んだりすることが減った
私は、黒コショウを料理に使うのはもちろんのこと、お湯に加え「黒コショウ湯」としてとることを勧めています。特に、セキやタン、のどの痛み、イガイガ感、ぜんそく、胸や背中に痛みのある人には、積極的にとってもらっています。
セキやのどの痛み、胸の痛みなら、その場で治まるケースがよく見られます。ぜんそくなどの重い症状の人でも、毎日飲み続けることで改善した人も少なくありません。
また、食事の際にむせたり、セキ込んだりすることが多かったのに、それが減ったという話もよく聞きます。これは、黒コショウ湯が高齢者の死因に多い誤嚥性肺炎(誤嚥によって肺が炎症を起こす病気)の予防にも役立つということです。
実際、東北大学を中心とした共同研究チームの臨床研究で、黒コショウによる誤嚥を防ぐ効果が証明されています。
誤嚥の原因の一つに、サブスタンスPという脳の神経伝達物質の減少が関係しています。サブスタンスPが減ると、気道が正しく閉じなくなったり、セキで異物を吐き出せなくなったりします。
黒コショウの香り成分に、このサブスタンスPを増やす働きのあることがわかったのです。試験の内容は、次のとおりです。
介護老人施設に入所している105人の高齢者を35人ずつ三つの群に分け、それぞれ、黒コショウの精油、ラベンダーの精油、水のにおいを1ヵ月間、毎日かいでもらい、嚥下にかかる時間の変化を調査。
正常な人だと、食物を口に入れてから嚥下に至るまで約1秒しかかかりません。しかし、試験に協力いただいた高齢者は全員16秒前後かかりました。嚥下機能が衰え、誤嚥性肺炎を起こしやすい状態と考えられます。
1ヵ月後、黒コショウの精油をかいだ群だけが、嚥下にかかる時間が改善。10秒以上短くなり、平均で4秒台になりました。また、体内のサブスタンスPの量を調べたところ、黒コショウの群だけが有意に増加していたそうです。
こうした効果は、黒コショウの香り成分である「ピペリン」によるものと考えられます。ピペリンでサブスタンスPが増え、嚥下機能が改善したのでしょう。
また、ピペリンには抗菌・防腐作用があり、免疫力の向上も期待できます。
黒コショウ湯の作り方は、とても簡単です。お湯(50~100ml㎖)に黒コショウを2~3振り(1g)入れて、少量の天然塩を加えるだけ。これを毎日2~3杯飲むといいでしょう。
黒コショウは、粒をミルで挽く物でも、すでに細かく挽いてある物でもかまいません。天然塩とお湯を加えるのは、いずれも陽性だからです。陰性の強い黒コショウに加えることで、陰陽のバランスがほどよく整います。
●黒コショウ湯の作り方

【材料】
・黒コショウ…2〜3振り(1g)
・お湯…50〜100ml
・天然塩…少々
※黒コショウは、ミルで挽くタイプと細挽きしてあるタイプのどちらでもよい。
【注意】高血圧の人は塩を加えなくてもよい。

【作り方】
❶お湯を沸騰させる。
❷湯飲みに①を注ぎ、黒コショウと塩を加える。
※毎日2〜3杯飲む。

この記事は『壮快』2020年8月号に掲載されています。
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