新型コロナウイルス感染症の、症状の差に関係する一つの要素として、「肺年齢」が考えられます。喫煙歴がなく、肺がきれいな状態でも、肺年齢が高い人は決して珍しくありません。その原因は、「呼吸筋」が衰えているからです。【解説】奥仲哲弥(山王病院副院長・呼吸器センター長)

解説者のプロフィール

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奥仲哲弥(おくなか・てつや)
山王病院副院長・呼吸器センター長。1958年、埼玉県生まれ。東京医科大学卒業後、東京医科大学呼吸器外科講師を経て、現職。医学博士。国際医療福祉大学医学部呼吸器外科教授。専門は、肺ガンの外科治療、化学療法、レーザー治療。著書に、『長生きしたけりゃ「肺活」しなさい』(小学館)、『肺年齢が若返る呼吸術』(学研プラス)などがある。

肺年齢で重要なのは肺活量より〝1秒量〟

最近、メディアで解説する機会が多くなった新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染症には、ある特徴が挙げられます。

感染しても症状が全く出なかったり、軽く済んだりする人がいる一方で、激しいセキが続き、肺炎を起こして死亡する人もいるという、症状の差が大きいということです。

この差に関係する一つの要素として、「肺年齢」が考えられます。肺年齢とは、呼吸機能検査の測定値を計算して出てきた結果を、年齢を使って表したものです。

タバコを吸っていたことで、肺にダメージを受けている人はもちろん肺年齢は高くなります。しかし、喫煙歴がなく、肺がきれいな状態でも、肺年齢が高い人は、決して珍しくありません。

その原因は、「呼吸筋」が衰えているからです。呼吸筋とは、胸や背中などにある、肺の伸縮に関係する筋肉です。この筋肉が動くことで、肺は広がったり縮んだりしているのです。

つまり、どんなに肺がきれいでも、呼吸筋が衰えていると、呼吸機能は低下し、肺年齢が高くなります。肺年齢と聞くと、肺の働きだけを示しているというイメージを持たれるかもしれませんが、実際はそうではないのです。

肺年齢を算出するうえで重視するのは、「1秒量」です。息を深く吸い込んだあとで一気に吐き出せる空気量が肺活量であり、その最初の1秒間で吐き出した量が1秒量になります。

肺活量が多く、肺にたくさんの空気をため込めたとしても、1秒量が少なければ、少しの運動で息が切れてしまいます。なぜなら、肺から息を吐き出し切れないうちに空気を吸い込む、という浅い呼吸になり、いわば上澄みの空気だけを交換している状態だからです。

そのため、肺年齢が高く、1秒量が少ない人は、新型コロナなどの感染症が重症化した際に救命率が落ちます。ふだんの生活でも呼吸機能に余力がないので、ウイルスで炎症が起こると、すぐに呼吸困難に陥ってしまうのです。

ですから、いざというときに備えるという意味でも、自分の肺年齢を確認しておくことはたいせつです。

もちろん、新型コロナに関係なく、息苦しさを感じている人や、息切れ、煩わしいセキ・タンに悩まされている人など、呼吸器に不調がある人なら、いうまでもありません。

2m飛ばせない人は呼吸機能検査を受けよう

肺年齢は、自分で簡単にチェックすることができます。

その方法が、丸めたティッシュを吹矢のように飛ばし、その距離を測る「ティッシュボール吹矢」です。詳しいやり方は、下の図を参照してください。

飛ばしたティッシュの距離が男性6m前後、女性4.2m前後ならば、肺年齢が30~40代、男性4m前後、女性2.8m前後ならば、肺年齢が60~70代と推測できます。男女ともに距離が2m以下の場合は、病院で呼吸機能検査を受けることをお勧めします。

なお、この方法でわかる肺年齢は、あくまでも目安ですのでご注意ください。

この測定法は、ゲームのように楽しみながら肺年齢を知ることができます。ぜひティッシュボール吹矢で自分の肺年齢を確認してみましょう。

そして、もしその結果が実年齢を超えていたり、呼吸器に不調があったりする人は、肺年齢を若返らせる呼吸法やストレッチを行ってください。

ティッシュボール吹矢のやり方

※満腹時は息を深く吸い込めないので、行わないこと。

【用意するもの】
ティッシュペーパー…2枚
テープ…適宜
食品用ラップの芯(横の長さ30cm)…1本

【やり方】

画像1: ティッシュボール吹矢のやり方

1枚のティッシュペーパーを丸めてビー玉ぐらいの小さなボールを作り、さらにもう1枚でくるみギュッと丸めて、形が崩れないようにテープで留める。

画像2: ティッシュボール吹矢のやり方

立った状態でラップの芯を水平に持ち、芯の中の、口側の端から2~3cmのところに、丸めたティッシュペーパーを置く。

画像3: ティッシュボール吹矢のやり方

息を深く吸い込んでからラップの芯に口を当て、

画像4: ティッシュボール吹矢のやり方

吹矢の要領で息を一気に吹き出す。

【肺年齢の目安】

男性
飛んだ距離6m前後4m前後2m以下
肺年齢30〜40代60〜70代要呼吸機能検査
女性
飛んだ距離4.2m前後2.8m前後2m以下
肺年齢30〜40代60〜70代要呼吸機能検査
画像: この記事は『壮快』2020年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年8月号に掲載されています。

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