解説者のプロフィール

早川弘太(はやかわ・こうた)
創業1772年の老舗相談薬局・さわたや薬房9代目店主。株式会社沢田屋薬局、代表取締役社長。国際中医専門員。健康管理士。食育インストラクター。温泉入浴指導員、温泉健康指導士。多数の学術団体に正規会員として所属し、メディアでの情報発信も積極的に行っている。
梅干しの酸味と緑茶の苦みが効く!
私の経営する薬房(薬局)は、山梨県笛吹市にあり、安永元年(1772年)創業です。240年余り地域のかたに親しまれてきました。私が9代めにあたり、現在は、皆さんからの健康相談を受けて、東洋医学の立場からさまざまなアドバイスを行っています。
今回ご紹介する「梅干し緑茶」は、暑くなるこれからのシーズン、多くのかたに喜ばれているものです。梅干し緑茶には、どんな効能が期待できるのでしょうか。
第一に夏バテの予防です。
東洋医学では、五臓という考え方があります。五臓とは、「五臓六腑に染み渡る」の五臓で、肝、心、脾、肺、腎の五つをいいます。
ただ、五臓は、現代医学でいうところの内臓だけを指すのではなく、それよりも広い意味合いを持った考え方です。むしろ、〝体の機能や役割を五つに分けたもの〟と考えてもらえばよいでしょう。
夏になると、この五臓のうち、「心」が弱るとされています。心が弱ると、体温調節がうまくいかなくなり、夏バテするようになります。
この心の弱りに効果をもたらすのが、苦みのある味です。緑茶の苦みが、夏の心の弱りを防ぎ、夏バテを改善してくれるのです。
加えて、緑茶は、体の中の熱を冷ます作用があるとされます。
体の中に余分な熱がたまると、その熱が頭にのぼり、イライラしやすくなります。私たちが暑くなるとイライラしがちなのも、こうした熱の働きによるものです。
また、夏の暑さによって、イライラを感じているときには、「肝」の働きも弱っています。肝を整えるのが、酸っぱい味です。肝を整えるのに、梅干しの酸味が役立つのです。
「梅干し緑茶」は夏バテを防ぎ、元気に夏を乗り切るために最適なドリンクなのです。
水分補給と塩分補給が同時にできる!
第二に、殺菌・抗菌作用です。
梅干しには、強力な殺菌作用があります。昔から、おにぎりの具として梅干しが愛用されてきたのも、このためです。
一方の緑茶も、日本では昔から愛されてきました。緑茶に含まれるカテキンには、多くの作用があることをご存じのかたも多いでしょう。緑茶は寿司屋では「あがり」と呼ばれ、生ものと組み合わせるのは、カテキンの抗菌作用を期待してのものです。
梅干し緑茶では、この両者の相乗効果が期待できます。新型コロナウイルスなどが気になるかたにもお勧めできます。
第三に、胃腸の症状に対する効果です。
暑くなると、ついつい水を飲み過ぎてしまって、体調を崩す人が少なくありません。水分のとり過ぎは、東洋医学では「水毒」といい、体の不調の元となります。水毒の代表的な症状が胃腸障害で、食欲不振、急性胃腸炎、下痢、軟便などが挙げられます。
酸っぱいもののいいところは、唾液の分泌を促し、口の渇きを癒やしてくれる点です。梅干し緑茶を飲んでいれば、水のガブ飲みを防止しつつ、適度に水分摂取ができます。
一方、緑茶にも利尿作用がありますから、よけいな水分の排出を促すことで、水毒の予防・改善に役立ちます。
実際に胃腸障害が起こってしまった場合でも、梅干しには、食欲を増進させて、消化吸収を促す働きや、下痢を止める作用があります。さらに、緑茶のカテキンにも腸の調子を整える働きがあるので、胃腸の調子が乱れ、おなかが落ち着かない人に、梅干し緑茶はとてもいいのです。
第四が、脱水・熱中症対策です。
脱水が起こり、熱中症になりかかったときは、水分だけではなく、塩分を補給する必要があります。梅干し緑茶は、梅干しの塩分と、緑茶の水分によって、水分補給と塩分補給が同時にできるのです。
梅干し緑茶の飲み方は、特にこれという決まりはありません。湯飲みに1~2個の梅干しを入れて、お茶を注ぐだけ。
梅干しはそのまま入れてもかまいませんが、時間的な余裕があるときなら、種を抜き、実をたたいてから入れるとよいでしょう。お茶は、熱過ぎるよりも、ぬるめがお勧めです。
夏の盛りに戸外や暑いスペースで仕事をしているかたには、水筒に、3~4個の梅干しを入れた緑茶のポットを仕事場に持っていって、30分に1回くらい飲むことをお勧めしています。エアコンの効いている室内にいるかたの場合なら、のどの渇きを感じたら飲むようにするといいでしょう。
ただし、ご高齢になると、のどの渇きが感じにくくなります。このため、お年を召したかたの場合は、のどが渇いてからではなく、一定時間ごとに飲むように心がけてください。
梅干し緑茶の作り方

【材料】
・梅干し…1個
・緑茶の茶葉…3g(小さじ1と1/2~2)
・湯(80度が適温)…150ml

【作り方】
❶急須に茶葉を入れて湯を注ぐ。
❷緑茶を湯飲みに注ぎ、梅干しを加える。
※梅干しをつぶしながら、ゆっくりと飲む。梅干しは、なるべく食べ切る。
※冷たくして飲みたいときは、②を冷蔵庫で冷やすか、冷やした緑茶に梅干しを入れる(水出しした緑茶で作らない)。

この記事は『壮快』2020年8月号に掲載されています。
www.makino-g.jp