酢漬け梅は、酢に防腐作用があるので、梅干しに比べ塩分を大幅に減らすことができ、高血圧対策として好適です。また、年を取ると唾液の分泌量が減り、胃腸の働きが低下します。その点、目にしただけで唾液が出る梅干しや酢漬け梅は大きな助けとなります。【解説】遠矢純一郎(桜新町アーバンクリニック院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

遠矢純一郎(とおや・じゅんいちろう)
桜新町アーバンクリニック院長。1992年、鹿児島大学医学部卒業。2000年、用賀アーバンクリニック開業時より参画し副院長を務める。06年に帰郷し、ナカノ在宅クリニック勤務。09年より桜新町アーバンクリニックを開業。呼吸器科、在宅医療、緩和ケアおよび内科全般を専門とする。

梅干しや梅酒、梅シロップを毎年仕込む

私は、クリニックのスタッフといっしょに、毎年、梅干しを漬けています。

きっかけは、もう10年以上も前のこと。当時の私は、郷里の鹿児島で在宅医療に従事しており、山間に住む高齢の患者さん宅を巡回していました。

ある女性のお宅を訪ねたら、ちょうど患者さんが、庭先に出ていました。地面に落ちた梅の実を、拾っていたとのこと。そのかたは90歳のおばあちゃんでしたが、独り暮らしで、いつも大変お元気でした。

私もいっしょに梅の実を拾いつつ、いろいろな話に花を咲かせました。そのとき、塩と焼酎だけで漬ける昔ながらの梅干しの作り方を、教えてもらったのです。

東京に戻り、また在宅医療に携わるようになってから、ふと思い立ち、自分で梅干しを作り始めました。

現代は、すべてが産業化されていく世の中です。梅干し作りのような手仕事の機会が減りつつある今、おばあちゃんから教わったものを、引き継いで残しておきたいという気持ちがあったのです。

梅の量は、以前は10kgくらいでしたが、最近はスタッフが手伝ってくれるので、より大がかりになりました。多い年は30kgほど購入しているでしょうか。ほかに、梅酒や梅シロップも作ります。

出来上がった梅干しなどは、一部をクリニックに残して、スタッフ皆で分け合います。私も持ち帰り、自宅でも梅干しをよく食べています。

患者さんと梅干しの話になったら、少しお分けすることもあります。いまや毎年恒例になった梅仕事は、周囲とのコミュニケーションづくりにも、役立っています。

梅干しは好きでも塩分が気になる人に好適!

今回取り上げる「酢漬け梅」は、青梅を酢で漬けた物です(基本の作り方は下記参照)。

一般に、梅にはクエン酸による疲労回復効果や、抗菌・防腐作用抗酸化作用があります。一方で酢にも、梅干し同様、代謝促進による疲労回復効果や抗菌・防腐作用、抗酸化作用があります。

酢漬け梅は、梅と酢、両方の効能を備えていると考えられますが、注目すべきは、減塩に活用できるという点です。

昔ながらの梅干しは、保存性を高めるため、塩分18%程度で作るのが一般的です。酢漬け梅なら、酢に防腐作用があるので、梅干しに比べ、塩分を大幅に減らすことができます。

高齢の患者さんのなかには、血圧が高めのかたが少なくありません。「梅干しは好きだが、塩分が気になる」という話もよく耳にします。酢漬け梅は、そうしたかたにも好適です。

実際に、塩を減らした料理の味気なさを酢で補う工夫は、高血圧対策として、一般的な方法といえます。

画像: 酢と梅でダブルの疲労回復効果!

酢と梅でダブルの疲労回復効果!

また、酢漬け梅は、食欲不振の改善にも役立つでしょう。日ごろ、患者さんを診ていて感じるのは、食欲の減退は高齢者にとって、非常に深刻な問題だということです。

唾液は、咀嚼や消化に欠かせないものですが、年を取ると分泌量が減り、そのため胃腸の働きが低下します。すると、食欲が落ち、どんどん食が細くなっていきます。

加えて、近年は独り住まいの高齢者も多く、食事を簡素に済ませがちです。バランスを意識しないと、たちまち栄養失調に陥ってしまうのです。

特に不足しがちなのが、たんぱく質。たんぱく質は体をつくるうえで、欠かせない栄養素です。不足すると、サルコペニア(筋肉量の減少による身体機能の低下)や、フレイル(加齢に伴う心身の脆弱)を招きます。それが、寝たきりにつながるおそれも否定できません。

このように、唾液の分泌は、口の乾きがちな高齢者にとって思いのほか重要です。そのなかで、目にしただけで唾液が出る梅干しや酢漬け梅は、大きな助けとなります。

要介護になり、おかゆすら食べる気力がなくなりつつあるかたでも、梅干しを添えるだけで食が進むものです。食べる楽しみを失わないためにも、梅干しや酢漬け梅の食欲増進効果を、活用してはいかがでしょうか。

私も今年は、酢漬け梅を作ってみたいと考えています。皆さんもぜひ、梅仕事を楽しみ、健康づくりにお役立てください。

酢漬け梅の作り方

画像1: 酢漬け梅の作り方

【材料】
梅(青梅でも黄色く熟した梅でも可)…500g
塩…50g
砂糖…100g
酢(米酢やリンゴ酢など好みの物)…500ml

画像2: 酢漬け梅の作り方

【作り方】
梅をボウルに入れ、水を2~3回替えて洗う。青梅の場合は、水を張ったボウルに1~2時間つけて、アク抜きをする。
キッチンペーパーか清潔なタオルで、①の水気をふき取る。
清潔なガラス瓶に、②、塩、砂糖、酢の順に入れ、軽く揺する。
直射日光の当たらない室内に置き、そのまま保存する。

画像3: 酢漬け梅の作り方

漬け込んで1ヵ月ほどで食べごろになる。1~2年ほど日もちする。
実は、そのまま食べても、料理に使っても。漬け汁はドレッシングを作ったり、水で薄めて飲んだりして活用する。

画像: この記事は『壮快』2020年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年8月号に掲載されています。

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