梅干しを食べると、脳梗塞や心筋梗塞の予防にもつながり、血糖値の上昇を抑える作用もあります。加えて今、注目したい重要な効能があります。それは、菌やウイルスの増殖を抑制する効果です。【解説】宇都宮洋才(和歌山県立医科大学准教授・大阪河﨑リハビリテーション大学客員教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

宇都宮洋才(うつのみや・ひろとし)
和歌山県立医科大学准教授・大阪河﨑リハビリテーション大学客員教授。医学博士。「梅干し博士」として知られ、テレビ出演依頼も多い。

梅干しの健康効果は多岐にわたりすばらしい

長年、梅干しの機能性について研究している私は、「梅干し博士」と呼ばれています。最近は、テレビなどに呼ばれることも多く、世間の注目はより高まってきたのではないでしょうか。

ご存じのとおり、和歌山は梅の一大産地です。ここには、梅の健康効果に関するいい伝えが数多くあります。私はそれらを科学的に研究し、その真偽を明らかにしているのです。

梅には、体にとって多くの健康効果があるとされています。私の研究だけでも、制菌・免疫・抗アレルギー作用、胃潰瘍や動脈硬化、骨粗鬆症、熱中症の予防、糖尿病対策、発ガン性物質の抑制などさまざまです。

これまでの研究で解明できた、梅干しのすばらしい効能の数々を紹介しましょう。まず、現代人にとって見逃せないのが、生活習慣病に対する効果です。

梅干しは塩分が多いため、食べると血圧が上がると思われがちですが、実はそんなことはありません。実際に梅干しを定期的に食べた人と、食べなかった人を比べた場合の調査では、血圧に変化が現れなかったというデータがあります。

血圧を上げる代表的なものの一つに、アンジオテンシンⅡというホルモンがあります。このホルモンが増え過ぎると、高血圧動脈硬化を招くといわれています。私たちの研究では、梅干しは、このホルモンの働きを80〜90%抑制することがわかっています。

梅干しを食べると、食べる前に比べて血液がサラサラになり、流れがスムーズになることも、実験で確認できています。血液がサラサラになれば、脳梗塞心筋梗塞の予防にもつながります。肩こり冷え症の改善にもつながるでしょう。

また、梅干しには血糖値の上昇を抑える作用もあります。梅のポリフェノール成分であるオレアノール酸が、血糖を上昇させるα-グルコシターゼの働きを阻害することが明らかになっているのです。

そしてうれしいことに、梅干しを食べることで、肥満の予防・改善効果も期待できます。梅干しには、脂肪燃焼作用のある梅バニリンという機能性成分が含まれているからです。

肥満の改善は、高血圧や糖尿病など生活習慣病の予防にも役立つでしょう。梅バニリンは梅干しを焼くと増えることがわかっているので、「焼き梅干し」にして食べると効果的です。

ただし、私はどんなに体によくても、食べ物である以上、おいしくないと意味がないと思っています。強く焼くことによって、確かに梅バニリンは増えますが、せっかくの梅干しの風味が損なわれてしまいます。ですから、焼き梅干しも、風味が増す程度に軽く焼くのがお勧めです。

梅を食べている人は骨密度が高かった!

次に特筆しておきたいのは、骨粗鬆症の予防効果です。

培養細胞を用いた実験では、梅の成分を加えると、骨を作る細胞の増殖が20%促進しました。また、骨を作るために必要な遺伝子の発現も促進し、骨の基礎となる細胞の増殖も確認できました。

さらに、共同研究で行った疫学調査(病気の原因や発生についての統計的調査)では、61〜81歳の男性で梅を食べる習慣のない人は、骨密度の平均が68.3%なのに対し、梅を週1〜2個食べる人は83.2%でした(基準値は80%以上)。

つまり、長い期間にわたって、継続的に梅を摂取してきた男性は、高齢になったときに、骨密度が低下しにくいことが示唆されたのです。

そのほか、梅干しに豊富に含まれるクエン酸は、疲労を抑制する効果があることが知られています。私たちの研究では、軽い運動の前にクエン酸を摂取すると、疲労を予防できることが明らかになっています。

病気などで塩分がとれない人は、梅干しのかわりに「酢漬け梅」はいかがでしょうか。

私が勧めるのは、塩を使わずに、梅を甘酢漬けにしたものです。酢もクエン酸が豊富なので、梅と酢を合わせることで、さらなる相乗効果も期待できるかもしれません。

塩分の心配がないかたであっても、味のバリエーションは多いに越したことはありません。おいしいだけでなく、飽きないことも続けるうえで非常に重要です。

暑い季節、梅干しは熱中症予防にも有効です。水とともに梅干しを口にすれば、汗で失った塩分やミネラルを補うことができます。

焼酎などの強いお酒に梅干しを入れて飲むのも、理にかなっています。梅干しを食べると二日酔いの予防や改善に有効だといわれますが、これは事実です。

私たちの実験でも、マウスにお酒を飲ませると起こる出血性胃潰瘍が、梅をいっしょに摂取させたらほとんど起こりませんでした。

また、日ごろから梅を食べている人ほど胃の状態がよく、慢性胃炎になりづらいという特徴があります。仮になったとしても、軽度で済み、治るのも早いでしょう。

さらに、梅は腸内の悪玉菌を減らし、善玉菌を増やすことがわかっています。腸の動きをよくして、便秘の改善にも役立ちます。

近年では、梅の抗酸化成分が不妊に効くことも明らかになってきました。梅の抗酸化作用は卵子の老化をも防ぐとわかったのです。

緑茶やご飯といっしょにとるといい!

画像: 梅干しの健康効果に注目した商品も多数登場している。[商品提供「株式会社 丸惣」(和歌山県田辺市)]

梅干しの健康効果に注目した商品も多数登場している。[商品提供「株式会社 丸惣」(和歌山県田辺市)]

ところで、梅干しを食べるときは、多くの人がご飯を食べたり、お茶を飲んだりするかと思います。

緑茶にも、梅干しと同じく、抗酸化作用など、多くの機能性成分が含まれています。緑茶に梅干しを入れて飲む「梅干し緑茶」のように、いっしょにとるのもよいでしょう。

ご飯もまた、血流を促進し、動脈硬化を抑制することがわかっています。しかも、梅とは違った側面から働きかけるので、いっしょにとることによって、より強い働きが期待できます。

大切なのは、梅干しを食べることだけでなく、それによって日本人の原点ともいえる食生活を送ることなのではないでしょうか。梅をはじめとして、それぞれの食物が持つ力が合わさって、私たちの健康はつくられているのです。

さらに、梅は感染症対策にもとても有効です。次項では、そちらについて紹介をしましょう。

ピロリ菌を止める成分が特許で認められた

前項では、梅干しの多岐にわたる効能を紹介しました。これに加えて、梅干しにはもう一つ、感染症が大きな問題になっている今だからこそ注目したい、重要な効能があります。

それは、菌やウイルスの増殖を抑制する効果です。

昨今、新型コロナウイルスの脅威が叫ばれています。もしかすると、梅干しがその対策に一役買うかもしれないと、私は考えています。

私は梅の効能に関するいい伝えを元に研究を行っていますが、そのうちの一つに、皆さんもよくご存じの「ご飯に梅干しを入れると腐りにくい」というものがあります。いわゆる「日の丸弁当」のゆえんです。

これは、主に梅干しに含まれるクエン酸の制菌作用によるものです。私たちの実験でも、試験管内に梅干しを加えたものは、加えなかったものに比べて細菌の増殖が抑制されていることが確認できました。

この結果を受けて、私はふと思いました。
「梅干しが菌の増殖を抑制するのであれば、ピロリ菌が原因で起こる胃炎胃潰瘍も予防できるのではないだろうか」と。

そこで研究を開始したところ、驚くべきことが起こりました。元気に動きまわるピロリ菌に梅干しを加えると、なんと10分もしないうちにピロリ菌の動きがピタリと止まったのです。

抗生物質にこうした作用があることは知られていますが、まさか梅干しがピロリ菌の運動を抑制するとは思いもよりませんでした。もちろん、梅干しには抗生物質のような副作用はありません。

我々はさらに研究を発展させ、ピロリ菌の運動を抑制するのは、梅干しに含まれる梅リグナンの中のシリンガレシノールという成分であることを突き止めました。このことは特許を申請し、認められています。

ピロリ菌に感染させたマウスに梅を与えると、胃ガンが抑制できることも確認しました。

これほど強い制菌力を持つ梅干しですが、対ウイルスの場合でも、その作用には目をみはるものがあります。

インフルのウイルス増殖を抑える成分を新発見!

梅の産地である和歌山では、「梅酢うがい」が、昔から学校や家庭でごく普通に行われています。梅酢とは、梅干しを作る工程でできる、塩の入った梅果汁のことです。

和歌山南部の小学校では、この梅酢を、ポリタンクのような容器に入れて常備しているところも少なくありません。

梅酢うがいのやり方は、梅酢を水で10倍くらいに薄めて、1日2〜3回うがいをするだけです。冬はもっと頻繁に行ってもよいでしょう。役場の人の話では、これを行っているおかげで、和歌山ではインフルエンザによる学級閉鎖が少ないそうです。

私はそれについての科学的な検証は行っていないので、その因果関係ははっきりとはわかりません。しかし、私たちは梅干しの中に、インフルエンザウイルスの増殖を抑えるエポキシリオニレシノールという新しい成分があることを、世界で初めて発見しました。これも特許を取得しています。

つまり、梅干しを食べることでも、インフルエンザ抑制効果があるということです。

和歌山では梅酢うがいが習慣になっていますが、当然、うがいをするときは、手も洗うと思います。ウイルスの増殖を抑制する梅干しを日常的に食べ、制菌効果のある梅酢でうがいをし、そのつど手洗いもすることで、和歌山の人たちはインフルエンザにかかりにくいのかもしれません。

ちなみに、私自身も梅干しを常食し、自宅で梅酢うがいを行っているおかげか、長年インフルエンザにはかかっていません。

画像: 梅酢うがいでウイルスを撃退!

梅酢うがいでウイルスを撃退!

加えて、我々は数年前から、梅干しの花粉症に対する効果についても研究しています。

その結果、梅干しは、かゆみの原因となるヒスタミンという物質が免疫細胞から分泌されるのを抑制することがわかりました。つまり、梅干しには免疫を調整する作用があり、アレルギー対策に有用であるということです。

これらのことから、梅干しを食べたり、梅酢でうがいをしたりするなどして、梅干しの制菌・抗菌・免疫調整作用を上手に活用することは、感染症予防の観点からも強くお勧めします。

それは、カゼや花粉症、インフルエンザはもちろん、新型コロナウイルスから身を守ることにも、きっと役立つはずだと私は考えます。

ただし、いくら梅が体にいいといっても、食べ過ぎは禁物です。多くても3個程度までにとどめ、1日1個食べることを続ける工夫が重要です。

画像: この記事は『壮快』2020年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年8月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.