解説者のプロフィール

松岡佳余子(まつおか・かよこ)
アジアンハンドセラピー協会理事・鍼灸師。1948年、和歌山県生まれ。電気鍼による治療、良導絡の開発者である中谷義雄博士(医師)の住込み内弟子として、鍼灸修行を始める。中国各地の中医薬大学、中医学院にて研修を行う。鍼灸をさらに発展させた手指鍼で高い効果を上げる。現在は、最新療法の研究と後進の指導に専念している。『指をもむと病気が治る!痛みが消える!』(マキノ出版)など著書多数。
耳には全身に対応するツボが集中
輪ゴム療法の一つが、輪ゴムをぐるりと耳に巻く「耳輪ゴム」です。
中国でも古来、耳は経絡(一種の生命エネルギーである「気」の通り道)が集中している重要な部分と考えられてきました。
1950年代にフランスのポール・ノジェ医師が体系化した「耳介療法」が中国へ伝えられて以降、さらに研究が進み、広く実践されるようになりました。最近は日本でも、ダイエットや美容を目的とした耳ツボ療法が、人気を呼んでいます。
下の図を見ていただくと分かるように、耳には、全身に対応するツボ・反射区が並んでいます。おおまかに言うと、耳たぶの辺りが頭、耳輪(耳の外周)が首や肩などに当たり、耳の穴の周辺には、内臓に対応するツボが並んでいます。

耳と全身の相関概念図
*この図は分かりやすく描いたもので、耳にある全てのツボや反射区の位置を正確に再現したものではありません。
ご自分の耳を触ってみて、硬さやゴワゴワした感じはないでしょうか。また、もんだり引っ張ったりしたときに強い痛みを感じる場合は、健康状態に危険信号が出ています。
耳介療法では、不調のある器官と対応した耳のツボや反射区に、粒状の突起物をはったり鍼を打ったりして刺激します。それにより、対応する器官の血流や機能を活性化・正常化して、健康な状態へと導くのです。
耳介療法は、即効性にとても優れた治療法ですが、自分でやるのはなかなか大変です。自分の目で直接見て、耳のツボの位置などを確かめることができず、鏡を見ながら行うのも、かなり難しいでしょう。
頭部や上半身の症状にシャープな効果
そこで私は、家庭にある身近な道具を使って、耳ツボを刺激できる方法を考えてきました。洗濯バサミで耳を挟む方法も試みましたが、効果はあったものの、痛がる人が多く、あまり評判はよくありませんでした。
いろいろと試行錯誤した末に考え出したのが耳輪ゴムです。
一般向けの講習会や治療家向けの研究会で、耳輪ゴムを指導し試していただいた結果、一般の方でも簡単にできる上、顕著な効果を確認できました。
特に首や肩のこり、頭痛、眼精疲労、聴力の低下や耳鳴りなど、頭部や上半身の症状改善には、手指の輪ゴム療法よりもシャープな効果が得られやすいようです。
一時的な効果としては、顔のリフトアップ効果も期待できると思います。その他、高血圧、冷え症、便秘、体のだるさ、疲労感にも効果的です。
耳輪ゴムを巻いて一番多い感想が「耳の周辺から体全体にジワジワと温かくなってきた」ということです。耳や首、肩など耳の周辺をはじめ、全身の血流がよくなるためでしょう。
耳輪ゴムを行う前と後で、体の柔軟性やバランス感覚などをチェックする10項目以上のテストを実施したところ、その場で肩や首などを大きく回せるようになったり、体の柔軟性がアップしたり、姿勢が安定したりする人が、多く見られました。
参加者の65歳の女性は、その場で151.3cmから152㎝に身長が7mm伸びました。おそらく荷重で押しつぶされていた椎間板(背骨を構成する椎骨と椎骨の間の軟骨組織)が元に戻ったのだと考えられます。
さらに「目がスッキリした」という声も多く、耳輪ゴムを行う前と比べ、視力が0.1~0.2上がった人が8名中2名いらっしゃいました。
耳輪ゴムの効果の中でも、私が特に注目しているのが、聴力や耳鳴りの改善です。
私自身、耳輪ゴムを始めてから、以前は聞こえづらかった1万2000Hzの音が、クリアに聞こえるようになりました。耳鳴りに関しても、耳輪ゴムを毎日続けて実行するうちに、症状が軽くなった例があります。
耳輪ゴムは、1分程度の短時間でも効果は十分あります。最初は多少の痛みを感じるかもしれませんが、我慢できる範囲で試してみてください。
最大のポイントは、短時間でもいいので、できれば毎日、継続して行うことです。続けるうちに、耳が軟らかくなってきて、痛みもなくなるはずです。
自分で手軽にできる体のセルフケア法として、日常生活に、耳輪ゴムをぜひ取り入れてみてください。
1分巻くだけで十分な効果が得られる
「耳輪ゴム」は、3~4本の輪ゴムを束ねて耳に巻くのがポイントです。1本だけだと締め付ける範囲が狭いため、痛みが強く出やすいのですが、3~4本束ねることで、刺激する範囲が広がり、痛みが和らぐからです。
まず、耳の後ろの付け根に輪ゴムを引っかけて、片手で耳を押さえながら、輪ゴムを伸ばしてくるりと∞の形にひねり、耳に巻きます(二重に巻く)。
このとき、髪の毛を輪ゴムに巻き込むと痛いので、髪を巻き込まないよう注意します。髪の長い人は、あらかじめ髪を束ねてから行うとよいでしょう。
耳輪ゴムは、耳の付け根の外周をしっかりと刺激するのが、効果を出すためのコツです。できるだけ耳の根元に輪ゴムが当たるように、輪ゴムの位置を調整してください。
耳に輪ゴムを巻く時間は、1分程度でも十分に効果が得られます。痛くて我慢できない人は、30秒くらいでもOKです。無理をせず、できる範囲で実行してください。長く行う場合でも、10分くらいを限度にするとよいでしょう。
なお、耳が硬く、輪ゴムではどうしても痛みが強い人は、慣れるまでは手で刺激して、耳を軟らかくするとよいでしょう。
人さし指と親指とで耳を上下にギュッと締め付けます。指の側面を耳の裏側にぴったりと当て、耳輪ゴムと同様に耳の付け根の外周をしっかりと刺激するのがポイントです。
耳を上下に挟んだまま、上から後ろ、下へという順番で、側頭部に押し付けるようにしながらグルグルとゆっくり回すのを、1分ほど続けてください。
耳輪ゴムのやり方
*輪ゴムを巻く時間は、1分程度でも十分に効果が得られる。痛くて我慢できない人は、30秒くらいでもOK。長く行う場合も、10分くらいを限度にする。
*1日に1回、毎日続けて行うのがお勧め。難しい場合は、3日に1回くらいの頻度でも構わない。

【用意するもの】
輪ゴム6〜8本(片耳に3〜4本ずつ)

❶耳の後ろの付け根に輪ゴムを引っかける。

❷片手で耳を押さえながら、輪ゴムを伸ばしてくるりと∞の形にひねり、耳に巻く(二重に巻く)。

❸できるだけ耳の根元に輪ゴムが当たるように、輪ゴムの位置を調整する。
❹もう片方の耳も同様に巻く。

この記事は『安心』2020年7月号に掲載されています。
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