解説者のプロフィール

松岡佳余子(まつおか・かよこ)
アジアンハンドセラピー協会理事・鍼灸師。1948年、和歌山県生まれ。電気鍼による治療、良導絡の開発者である中谷義雄博士(医師)の住込み内弟子として、鍼灸修行を始める。中国各地の中医薬大学、中医学院にて研修を行う。鍼灸をさらに発展させた手指鍼で高い効果を上げる。現在は、最新療法の研究と後進の指導に専念している。『指をもむと病気が治る!痛みが消える!』(マキノ出版)など著書多数。
負担の少ない手指の刺激法
私は一般的な鍼灸治療に加え、手や指にあるツボや反射区(刺激することで特定の臓器や部位を活性化する場所)を刺激する「手指鍼」による施術を20年以上前から行ってきました。また、10年ほど前からは、耳のツボや反射区を刺激する「耳介療法」も研究し、取り入れています。
手や耳は「全身の縮図」であり、それぞれに全身に対応する反射区があります(下記参照)。不調を起こしている場所を直接刺激しなくても、対応する手や耳の反射区やツボを刺激することで不調のある部位を活性化したり、血流をよくすることができるのです。

また、私はこれまで多くの患者さんたちに、セルフケアをお勧めしてきました。「百の治療よりも一つの予防」。体がしんどいときに自分で対処できる方法や、よいコンディションを維持する方法を知っておくことは、とても大切だからです。
セルフケアとして一番単純なのは、手や指、耳を自分の指で押したりもんだりするやり方でしょう。
しかしながら、指圧やもみほぐしは、慣れていないと意外と負担になります。一生懸命やり過ぎて、かえって疲れてしまったり、肩がこったり……という経験はないでしょうか。
そこで、最近私が皆さんにお勧めしている方法が、刺激したい場所に輪ゴムを巻く「輪ゴム療法」です。
輪ゴムは安価ですし、特に購入しなくてもどこのご家庭にも数本はあるのではないでしょうか。高い伸縮性があるため、ちょうどよい刺激を与えやすく、巻いたまま、他の作業をすることができるのもメリットです。
では、まずは「手に行う輪ゴム療法」についてご説明しましょう。
輪ゴム療法にはいろいろな巻き方がありますが、まずやっていただきたいのが、基本の「指先巻き」です。
これは、5本の指の爪の付け根辺りに、2本重ねた輪ゴムを巻きつけていき、そのままの状態で、ゆっくりと10回ほど手を握り開きして、指先を刺激するというものです(詳細は下記)。
こうして、指先を刺激すると、血流がよくなって、体がポカポカと温かくなるのがすぐに実感できるはずです。
指先には毛細血管が密集
それもそのはず、指先は体の中で最も毛細血管が密集している部位です。そこを刺激することで、全身の血流が改善し、体全体の免疫力(病気に対する抵抗力)が向上します。
体に痛みや不調が起こるのは、その部位の血流が悪くなっており、酸素や栄養が十分に届いていないのが大きな原因です。指先巻きで血流を改善することで、目がパッと見えやすくなったり、血圧が正常化したり、多くの症状が改善していきます。
ちなみに、心臓から流れ出た血液は、たったの23秒で全身を巡り心臓に戻ってきます。つまり、手の毛細血管に刺激を与えれば、23秒で全身の血流によい影響を与えることができます。ですから、手指の刺激は23秒以上続けるのがコツです。
輪ゴムを巻いて、手に刺激を与えながら、ゆっくり1秒かけて手を握り、1秒かけて開くというのを10回くり返すと、だいたい23秒になるはずです。
ただし、高脂血症や高血糖、動脈硬化の可能性がある人は、うっ血しやすいので、巻くのは10秒以内にとどめてください。
基本の「指先巻き」のやり方
まずは指先巻きで、輪ゴムの巻き方の基本を説明しましょう。
輪ゴムは2本重ねて使います。輪ゴムのサイズは手の大きさに合わせ、女性なら16号、男性は18号サイズから試してみましょう。きつく感じるなら、大きめの輪ゴムを使うか、輪ゴム1本で巻いてください。
最初に、首や肩を回して関節の動きを確認してから行うと、輪ゴムを巻いた後は関節の動きがスムーズになることに気づくでしょう。

❶輪ゴムを親指の爪の生え際にかけ、右に1回転ねじって人さし指の爪の生え際にかける。

輪ゴムを交差するだけでなく、1回転しっかりねじるのがコツ

❷輪ゴムを左に1回転ねじって中指の爪の生え際にかける。続けて、右に1回転ねじって薬指、左に1回転ねじって小指の爪の生え際にかける。

❸免疫力を高める基本の指先巻きの完成。

❹指先巻きをしたまま、手を10回握り開きをする。右手も同様に指先巻きをして、10回握り開きする。
気持ちよく指が圧迫される程度に
この基本の指先巻きの後で、気になる症状を改善するための輪ゴム療法を行いましょう。
この輪ゴム療法は、ダイエットにも最適です。輪ゴムの「手の甲巻き」(巻き方は下項参照)を実行すると、その場でウエストのサイズダウンやヒップアップが実現します。輪ゴムを巻く前後でサイズを測ってみてください。
最初のうちは、輪ゴムを外すとサイズも元に戻ってしまいますが、くり返すうちに、骨盤が締まった状態を覚え、全身の血流がよくなり、体の代謝が上がって、実際に体重が落ちたり体が引き締まったりしてきます。
それぞれの輪ゴムの巻き方は、症状が出ている体の部位に対応している手や指の部位を、効率よく刺激できるように考えられています)。
肩や手やひざ、股関節など、片側に苦痛がある場合は、症状が出ている側の手に巻くのが基本です。一方、頭痛や腰痛など、どちら側と決められないときには、両方の手に巻くようにしてください。
素早く効果が出るように、輪ゴム2本を用いたやり方をご紹介していますが、巻いたときにきつさや痛みを感じる場合には、輪ゴムを1本にしたり、より大きいサイズの輪ゴムを使ったりして調節してください。
気持ちよく指が圧迫される程度に輪ゴムを巻くのがコツです。巻くときにあまり輪ゴムを引っ張り過ぎないようにすると、強く締まりにくいです。
いずれにしても指がうっ血したり、痛みやしびれを感じたりした場合は、無理をせず、すぐに輪ゴムを外してください。
肩こり・関節痛の改善に
その場で首の筋肉がゆるみ首が回るようになった
指の股に輪ゴムを巻きつけて行う「指の股巻き」は、胴体に近いところにある関節、つまり首、肩、股関節を一度に刺激して、関節のゆがみやずれを調整できます。
首こりや肩こり、股関節痛や足のだるさといった症状を改善するのに、とても効果がある巻き方です。
先日、週刊誌の編集者が取材にいらしたのですが、仕事柄、いつも首すじのこりに悩まされていたそうです。そこで、指の股巻きを試してもらったところ、その場で首の筋肉がゆるみ、首が回るようになったと驚きながら、喜んでいました。
肩や股関節の痛みは左右のどちらか一方に強く起こることが多いので、その場合には、痛みが強く出ている側の手で、より多く行うことをお勧めします。

❶2本重ねた輪ゴムを親指の付け根にかけ、右に1回転ねじって人さし指の付け根、左に1回転ねじって中指の付け根、右に1回転ねじって薬指の付け根、左に1回転ねじって小指の付け根にかける。


❷指の付け根に巻いたまま手を10回握り開きする。同様に右手でも行う。
腰痛の改善に
腰の負担を減らし血行を促進
手の甲に平行になるように輪ゴムを巻く「手の甲巻き」。ちょうど骨盤を左右からギュッと締めているのと同様の刺激が与えられます。
腰に巻いて骨盤を支える骨盤ベルトの役割を輪ゴムが果たして、腰の負担を減らすとともに、腰の血行が促進され、腰痛の改善に役立ちます。
骨盤のゆがみは、血液やリンパの流れを滞らせて代謝を悪くし、むくみや肥満を招きます。特に女性は、月経周期ごとに骨盤が開閉しているので骨盤がゆがみやすく、出産で大きく開いて元に戻らなくなっている人が多いのです。
手の甲巻きは、骨盤のゆがみや開きの原因となる仙腸関節(骨盤の仙骨と腸骨をつなぐ関節)のゆるみを引き締め、その場で下腹部やお尻が引き締まります。最近も、10日で4kgやせた読者モデルさんがいました。

❶2本重ねた輪ゴムに親指の付け根の高さで5本の指を通す。手のひらで輪ゴムを1回転ねじり、親指以外の4本の指を通す。同様に右手にも行う。


❷輪ゴムを巻いたまま両手を10回握り開きする。10~30分ほど巻いたままにしておくと効果が高い。ただし、きつく感じたらすぐに外す。
かすみ目・頭痛の改善に
頭部の血流をよくして頭痛やめまいの緩和にも
中指は、先端から第一関節までの指の腹側が顔、爪側が後頭部に対応しています。「中指巻き」は、輪ゴムで指先を刺激することで、頭部の血流を向上させることができます。
かすみ目や疲れ目などの目の症状や、頭痛やめまいなどの頭部の症状の改善に、よく効きます。頭痛が激しいときには、この中指巻きに加え、同じ要領で輪ゴムを親指に巻いて刺激を与えるのもお勧めです。
先日、良性ではありますが、脳腫瘍が大きくて手術ができず、長年、めまいと頭痛に悩まされてきた人に、輪ゴム療法をお勧めしました。すると、1週間ほどでめまいが少しらくになり、片頭痛も治まったと大変喜ばれ、今では自分で率先して輪ゴムを巻いているそうです。

❶2本重ねた輪ゴムを、親指以外の4本の指に通す。

❷手のひら側で輪ゴムを1回転ねじって中指にかけ、甲側で中指の第1関節と第2関節の間で1回転ねじってもう一度中指にかける。


❸中指の先でもう一回転ねじって、中指の爪の中央にかかるようにする。手を10回握り開きする。右手も同様に行うとよい。
ひざ痛の改善に
ひざが痛む側の手の小指に巻く
手の中でひざに対応しているのが、小指の第二関節です。左のひざが痛むときには左手の小指、右ひざが痛むときは右手の小指に輪ゴムを巻きます。
ただし、ひざ痛は、たいていの場合、痛い方をかばうため、痛くない方にもかなり負担がかかっています。そこで、ひざ痛が1ヵ月以上続いている場合は、先に痛みが現れている側の小指に輪ゴムを巻き、その後に痛みがない方の側の小指にも輪ゴムを巻いてください。
10回握り開きをした後、2~3分輪ゴムを巻いたままにしておくとさらに効果的です。原則として、輪ゴムは2本重ねて行いますが、きついようなら1本でも結構です。うっ血しないように注意し、色が変わったら無理せずすぐに外しましょう。

❶2本重ねた輪ゴムを、親指以外の4本の指に通す。


❷手のひら側で輪ゴムを1回転ねじって小指にかけ、甲側で1回転ねじって小指の第二関節にかける。手を10回握り開きする。

この記事は『安心』2020年7月号に掲載されています。
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