近年の研究によって、安静にするより適度に運動するほうが、慢性腎臓病によい影響がある可能性が指摘されています。推測ですが、一つは自律神経への影響、もう一つが、運動によるNO(一酸化窒素)の産生、その血管拡張作用が考えられます。【解説】後藤葉一(公立八鹿病院院長)

解説者のプロフィール

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後藤葉一(ごとう・よういち)

公立八鹿病院院長。1976年、京都大学医学部卒業。国立循環器病研究センター心臓血管内科部長、循環器病リハビリテーション部長を経て、2017年より現職。日本心臓リハビリテーション学会理事長、日本循環器学会診療ガイドライン執筆委員などを歴任。我が国を代表する心臓リハのエキスパート。
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▼専門分野と研究論文(CiNii)

自律神経の働きが整い腎臓の負担が減る

以前、私が在籍していた国立循環器病研究センターでは、心臓病の患者さんの心臓リハビリテーション(以下、心臓リハ)に力を入れていて、大きな成果を上げてきました。そんななかで、心臓リハが腎機能の改善にも役立つことがわかりました。その研究を紹介しましょう。

対象となったのは、急性心筋梗塞の回復期の患者さん528人。心臓リハの内容は、病状に合わせて医師が決めた、中強度の有酸素運動を主体とする、約1時間のメニューです。

退院後、約3ヵ月にわたり、外来で積極的に心臓リハに参加した群と、実質的に参加しなかった群とで比較しました。

その結果、3ヵ月後には、積極的に心臓リハに参加した群は、運動能力が12%改善しただけでなく、腎機能(eGFR)が約10%向上していることがわかりました。

画像: 心臓リハ後の腎機能の変化

心臓リハ後の腎機能の変化

腎臓が健康な人は、腎機能がよりアップすることはなかったものの、慢性腎臓病で腎機能が低下しつつある人の場合、心臓リハをしっかり行うと、その機能をアップできるとわかったのです。

昔は、慢性腎臓病の患者さんには運動は推奨されていませんでした。しかし、近年の研究によって、安静にするより適度に運動するほうが、慢性腎臓病によい影響がある可能性が指摘されています。私たちの研究によって、その方向性が心筋梗塞の患者さんで確認されたといえます。

では、なぜ適切な運動を行うと、腎機能が改善するのでしょうか。あくまでも推測ですが、理由は二つ考えられます。

一つは、自律神経への影響です。

自律神経は私たちの意志とは無関係に働き、内臓や血管などをコントロールしている神経です。活動時に優位になる交感神経と、休息時に優位になる副交感神経の二つがあり、両者は拮抗しながら働いています。

心臓リハ参加者には、定期的に運動負荷試験が行われ、運動能力が調べられます。被検者に自転車こぎをしてもらい、限界まで負荷を強くしたときの心拍数上昇や、運動修了後の心拍数の下がる速度を調べます。

心臓リハの実質不参加群では、運動後に心拍数が下がる速度がゆっくりです。一方、心臓リハの積極的な参加群は、運動後の心拍数が下がる速度が速やかです。これは自律神経の指標で、心拍数の下がる速度が速い人は、そうでない人に比べて、自律神経の働きが整っていると考えられるのです。

自律神経の働きが不十分な場合、交感神経の過度の緊張が続くことになります。交感神経が緊張すると、血管は収縮し、血圧が上昇します。副交感神経への切り替えがスムーズなら、血管が緩んで、血圧が下がり、血管への負担を減らせます

すなわち、心臓リハの積極的な参加によって、自律神経の働きがよくなることが腎臓の負担を減らすことにつながると考えられるのです。

もう一つの理由が、運動によるNO(一酸化窒素)の産生効果です。

運動することによって、血管の内壁から、NOという物質が産生されます。NOには血管拡張作用があり、血管が広がることで腎臓の血管にもよい影響を及ぼします。

慢性腎臓病にお勧めの運動「その場足踏み」

慢性腎臓病の患者さんが、セルフケアとして運動を行う場合、激しい運動は、腎臓にも心臓にもよくありません

軽めの全身運動として、1日30分程度のウォーキングや水泳などがいいでしょう。

しかし、患者さんのなかには、なかなか家を出たがらない人も少なくありません。そういう人は、自宅で15分ずつ、朝夕の2回、軽い運動を行いましょう。

お勧めは、足の筋肉を使う「その場足踏み」です。

その場で歩くように、足踏みをするだけ。軽く足を上げ、腕も振りましょう。最初は3~5分くらいから始めて、徐々に回数を増やします。

画像1: 慢性腎臓病にお勧めの運動「その場足踏み」

慣れてきたら呼吸が乱れない程度に足を少し高く上げるといいでしょう。

ひざに痛みのある人は無理をしないで、イスに座り、「もも上げ運動」を行ってください。

画像2: 慢性腎臓病にお勧めの運動「その場足踏み」

また、起床時や就寝前に、ふとんの上に横になり、右に左にゴロゴロと転がるのもいいでしょう。転がるだけでも全身のさまざまな筋肉を使い、血流がよくなります。

腎機能を守るために、日ごろから適切な運動習慣をつけることを心がけてください。

画像: この記事は『壮快』2020年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年7月号に掲載されています。

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